書いてあること
- 主な読者:卯年にちなんだ話題や、スピーチ例などを探しているビジネスパーソン
- 課題:卯年に関連する話題を調べたり、スピーチを考えたりする時間がない
- 解決策:過去の卯年に起きた出来事、卯年にちなんだスピーチ例を参考にする
1 卯(う・うさぎ)に関する話
1)卯年に起きた出来事
2023年の干支(えと)は「卯(う・うさぎ)」です。前回の卯年は、2011年(平成23年)の辛卯(かのとう)でした。この年は、3月11日に東日本大震災が発生し、日本中が大きな混乱と悲しみに包まれる中、FIFA女子ワールドカップで、なでしこジャパンが初優勝をし、私たちを勇気づけてくれました。世界中から、被災地・日本への祈りが寄せられ、大切な人との絆を確かめ合い、忘れられない年だったという人も多いのではないでしょうか。
過去5回の卯年に起きた主な出来事や流行語は次の通りです。
2)卯年生まれの有名人
卯年生まれの日本の有名人には、次のような人がいます(既に亡くなられた方も含みます)。
3)うさぎの話
卯年の「卯」という字は、ものを両側に押し開けたさまを表すとされています。これは閉じたものや障害を押しのける意を含んでおり、芽生えなどの意味もあるようです。
「卯」という字を用いたもので、よく知られているのが「卯建(うだつ)」です。「卯立」と書くこともあるようです。これは、古民家などにある、屋根の両端から立ち上がった小屋根付きの袖壁のことを指し、防火の役割を果たしていました。また、雨除けとして、あるいは装飾として、その家の権威や格式を象徴するものでもありました。かつては、卯建の高さで、身分を表すこともあったそうです。「うだつの上がらない人」という言葉は、「卯建を高くすることができない人」。そこから派生して、「出世の望めない情けない人」という意味で用いられるようになったのです。
さて、卯は、干支ではうさぎを指します(第3章「干支の起源・豆知識」に詳述しています)。うさぎは坂などを走るのが速いところから、何事も速やかに良いほうに進むシンボルとされることがあります。また、山岳などで野生のうさぎを見かけることができる他、幼稚園や保育園、小学校でも飼育され、子どもたちに親しまれている身近な動物の1つです。
うさぎというと、夜空の月で「きね」をついている姿を思い浮かべる人も少なくないでしょう。この月とうさぎの組み合わせの話は、中国は唐代の僧、玄奘(げんじょう)のインド旅行記である「大唐西域記」に見ることができます。その概要は以下の通りです。
あるとき、「うさぎ」と「きつね」と「さる」の3匹が仲良く暮らしていました。3匹は、前世の行いが悪く、現世では動物の姿にされてしまっていました。そこで、人のためになる善行をしようと話し合っていました。それを天上から見ていた帝釈天(仏教を守護するという天上界の王)が、みすぼらしい老人に変身し、3匹の前に現れました。老人を助けようと、さるは木に登って果物や木の実を採取し、きつねは川魚を捕獲してきました。しかし、うさぎにはこれといった特技がありませんでした。
老人へ何もできないうさぎは悩み続けた結果、「自らの肉を食べてほしい」と言い残し、自ら火をおこし、そこに飛び込んで焼け死んでしまいます。老人は帝釈天の姿に戻って火を鎮め、うさぎを哀れんで、その亡きがらを、月の中に納めたのでした。これが、うさぎが月の象徴となったと由縁といわれています。
この言い伝えが日本にも伝わり、特に江戸時代には、月にうさぎの模様がよく用いられました。そのため、さまざまな工芸品にうさぎの姿が残されているのでしょう。
2 卯(う・うさぎ)にちなんだスピーチ事例
1)スピーチ事例1
古事記に記されている「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」は皆さんもよくご存じではないでしょうか。粗筋をお話ししますと、隠岐(おき)の島にすんでいたうさぎが、本土に渡ろうと考え、ワニ(サメのことといわれています)をだまして1列に並ばせ、その上を渡って岸へたどり着きました。しかし、最後にワニをだましたことを明かしたところ、怒ったワニから皮をむかれてしまいました。
痛みにむせび泣くうさぎの近くを通ったのは、因幡の国に八上比売(やかみひめ)という美しい姫がいると噂に聞いて、求婚しようと向かっていた、兄弟の神々である八十神(やそかみ)らでした。彼らは、あろうことか、うさぎに嘘の治療法を教えました。それを信じたうさぎの傷は、もっとひどくなってしまいました。
その後に通りかかったのは「だいこくさま」として知られる、大国主神(おおくにぬしのかみ)。八十神ら兄弟からは疎まれ、いつも意地悪をされており、そのときも重い荷物を背負わされていたため、1人遅れていたのでした。彼はうさぎに正しい傷の手当てを教え、おかげですぐに治りました。そして、うさぎは「きっと八上比売は、あなたを選ぶでしょう」と告げました。
そして、皆が因幡の国にたどり着くと、うさぎの言った通り、八上比売が選んだのは、ほかでもない、心優しい大国主神でした。
さて、この話から考えたいのは、1つは、私利私欲のために他人をだませば、必ず報いを受けるという、いわゆる因果応報です。また、そのように人を陥れることで、のし上がろうとすれば、そんな自分をさらに欺き、足を引っ張ろうとする者がいるのだ、という啓示を与えてくれます。一方、窮地に陥っている自分を助けてくれる人もいますよね。善い行いをすれば、その人から直接ではなくとも、必ず良いことが返ってきます。
では、皆さんは、もし困っている人を目の前にしたとき、どのように動きますか? 迷わず手を差し伸べることができるでしょうか?
これは仕事をしていく上でも大切なことです。とっさのときにこそ、その人の真の人間性が表れます。それを築くのは、その人がどのように生きてきたか、日々の積み重ねに他なりません。仕事でも、足をすくわれるようなことがあるかもしれません。ピンチのときには、お互いにフォローし合い、皆で手を取り合って乗り越えていけるようになってほしいと願います。
2)スピーチ事例2
皆さんは、絵本作家のディック・ブルーナをご存じでしょうか。世界中で愛されているうさぎのミッフィー(正式名称「ナインチェ・プラウス」。日本語翻訳版では「うさこちゃん」)の生みの親です。お子さんやお孫さんに絵本を読み聞かせてあげた人もいるでしょうし、幼い頃に親しんだ記憶のある人もいるのではないでしょうか。
オランダに生まれたディック・ブルーナは、出版社を経営する父の下、本の装丁デザイナーとしてキャリアをスタートしました。その後、絵本作家の道へ進んでいきますが、鮮やかな色彩感覚や、はっきりとした線に、パブロ・ピカソやアンリ・マティスから受けた影響が見て取れます。以前、美術館で、デザイナー時代に手掛けたものから絵本に至るまで、ディック・ブルーナの生涯描いてきた作品の展示を見ましたが、作風の変遷は、とても興味深いものでした。
さて、ミッフィー、ディック・ブルーナと聞いて、皆さんが思い浮かべるのは、どのような絵でしょうか? とことんシンプルで分かりやすい図柄ではないでしょうか。
ディック・ブルーナは「僕の作るものはシンプルでいて、見る人にイマジネーションを働かせるものでなくてはならない」という言葉を残しています。シンプルに、極限まで削って、引き算で表現した作家だったのではないでしょうか。
仕事でも同じことがいえます。足し算で、部下へ全て指示をして動いてもらえば、確かに、自分の思った通りのことをしてくれるかもしれません。
しかし、その部下の成長という点ではどうでしょうか。全てを指示してしまうのではなく、引き算で、あえて相手に、自分で考えてもらう余白を残す。そうすることで自主性や成長を促すことが大切なのではないでしょうか。そのような接し方を、皆さんにも意識してもらいたいと考えています。
3 干支の起源・豆知識
1)干支の起源
一般的に、巳(み)年や申(さる)年など、動物の名前を当てはめたものが干支であると認識されています。
しかし、よく考えてみると「干支とは何か?」について、はっきりと答えられる人は意外と少ないものです。
干支(えと=かんし)は、古代中国に起源を持ち、年月日や時刻、方位などを表す呼称とされる言葉です。
干支の「干(え)」は10種類あり、十干(じっかん)といいます。
これに陰陽五行思想を結び付けて、それぞれ陽を意味する兄(え)、陰を意味する弟(と)を当てて、次のようにも読みます。
一方、干支の「支(と)」は古代中国の天文学で、木星の位置を示すために天を十二分した呼称を起源にしており、十二支といいます。
さらに、十二支を動物に当てはめて、次のように呼ばれるようになったのです。
中国では、古く殷(いん)の時代(紀元前16世紀~紀元前11世紀ごろ)から、この十干十二支の組み合わせで年月日が数えられたといいます。これが干支の起源です。
2)干支と十二支
現在の日本では、干支は十二支を指すように使われていますが、厳密には干支と十二支とは異なります。本来の干支(十干十二支)の組み合わせは全部で60通りあり、日本で使われている12通りの十二支とは違うのです。干支は年月日や時刻に当てられますが、日本では一般的に年に当てられて使われています。満60歳を還暦(かんれき、もしくは生まれ年の干支を「本卦(ほんけ)」と呼ぶことから本卦還(がえ)りともいう)というのは、干支が1周して生まれ年の干支に還(かえ)るところからきています。
また、「丙午(ひのえうま)」という言葉を耳にしたことがある人も多いはずです。この呼び方も干支からきています。
ちなみに、2023年の干支は癸卯(みずのとう)、2024年の干支は甲辰(きのえたつ)です。自分の生まれ年の干支が何かを、下表で確認してみましょう。
3)干支が表す歴史年代
古くから、干支は年月日などの時間を表す呼称として使われてきました。具体的な年がすぐ分かる干支は、歴史上の事件の呼称としても多く用いられています。
有名な例としては以下のようなものがあります。
- 672年 みずのえさる 壬申(じんしん)の乱
- 1592年 みずのえたつ 壬辰(じんしん)倭乱(わらん) ※日本でいう文禄の役
- 1868年 つちのえたつ 戊辰(ぼしん)戦争
- 1911年 かのとい 辛亥(しんがい)革命
ちなみに、阪神甲子園球場は、「甲子(きのえね)」年の1924年に完成したことから名付けられています。
以上(2022年11月)
pj90003
画像:metamorworks-Adobe Stock