けさは皆さんに、1986年にメキシコで開催されたサッカーワールドカップ(以下「W杯」)でのエピソードを話したいと思います。昔の話ですから知らない人も多いでしょうが、優勝したアルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナ選手のプレーは、映像で見たことがあるかもしれません。
中でも有名なのが、準々決勝のイングランド戦で、ボールを手に当ててゴールを決めたプレーです。本来は反則ですので、ゴールは無効となるべきで、イングランド側から審判に対して抗議があったのですが、審判は判定を覆さずにゴールとして認めてしまいました。このプレーは、試合後にマラドーナ選手自身が、「ただ神の手が触れた」とコメントしたことで、“神の手”ゴールと呼ばれるようになりました。
当時はビデオによる判定が制度化されていなかったという事情はありますが、テレビの視聴者も明らかにハンドだと分かったくらいですから、試合後に審判やマラドーナ選手に対する批判が集まってもおかしくない状況だったと思います。
ちなみに、W杯の主催者であるFIFA(国際サッカー連盟)ですら、2004年の創立100周年を記念して制作したDVDの中で、W杯での「10大誤審」の第1位に“神の手”ゴールを選んでいます。
ところが、“神の手”ゴールは、後に「伝説のプレー」と呼ばれるようになったものの、審判もマラドーナ選手も、強く批判されることはありませんでした。
その大きな理由は、“神の手”ゴールのわずか4分後に、マラドーナ選手自身が世界中を魅了した、さらなる「伝説のプレー」を披露したことでした。ビデオで映像を見たことのある人も多いと思いますが、約60メートルをドリブルで独走し、相手ディフェンスを5人も抜き去ってゴールを決めたプレーです。そのプレーがあまりにも印象的だったため、その前の“神の手”ゴールに対する批判のトーンは一気に和らぎ、2つのプレーがセットになって「伝説」となっていったのです。
このエピソードは、サッカーに限らず、私たちが仕事をする上での心構えにも通じるものがあります。皆さんは多かれ少なかれ、仕事で失敗をして、クライアントに迷惑をかけてしまった経験があるかもしれません。大きな失敗であれば、人によっては、「クライアントの信頼を失った……もうダメだ」と思うこともあるでしょうが、素直に自分の誤りを認めて真摯(しんし)に謝罪し、ミスを帳消しにするぐらいの活躍を見せれば、クライアントの信頼は取り戻せるのです。
仕事に失敗はつきもので、特に前例がない、難しい業務をやるときはなおさらです。もちろん、誰しも失敗したくありませんが、仮に失敗しても、立ち止まって落ち込むのではなく、「取り返そう」と前を向ける意志の強さこそが大切です。間もなく今年も終わりです。来年も細心の注意を払いつつ、しかし失敗を恐れることなく、仕事に取り組んでください。期待しています。
以上(2022年10月)
pj17126
画像:Mariko Mitsuda