書いてあること
- 主な読者:年金事務所の「社会保険調査」なるものがあることを知った経営者や人事担当者
- 課題:なじみがなく、何をチェックされるのか、どのような対策が必要なのかが分からない
- 解決策:資格得喪関係、報酬関係の手続きがチェックされる。法令のルールを再確認する
1 パート等が多い会社は要注意? 社会保険調査が入るかも
年金事務所の「社会保険調査」なるものをご存じでしょうか? これは、
年金事務所が、会社の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の手続きに不正がないかをチェックする調査
で、主に次の2点を確認されます(社会保険に加入している場合)。
- 資格得喪関係(社会保険に加入すべき社員を、適正に加入させているか)
- 報酬関係(賃金や賞与に係る社会保険料を、適正に算定・納付しているか)
パート等(短時間労働者)を多く雇用する会社などが対象になりやすいのが特徴で、罰則もあります。2022年10月からの「社会保険の適用拡大」で被保険者になるパート等が増えたことで、資格得喪関係の調査対象も広がる可能性があり、御社にも通知がくるかもしれません。
この記事では、社会保険調査の対象になる会社やチェックされる書類などを紹介するので、事前準備にお役立てください。
なお、社会保険調査には、
- 総合調査(年金事務所が都度、時期を決め、資格得喪関係、報酬関係を総合的に調査)
- 定時決定時調査(定時決定の手続きを行う6~7月ごろに、算定基礎届を中心に調査)
などがありますが、現在実施されているものは、基本的に全て「総合調査」です。次章以降に出てくる「社会保険調査」というワードも、特に断りがなければ総合調査のことを指します。
2 社会保険調査の流れは?
社会保険調査の流れは次の通りです。
まず、年金事務所から「社会保険調査のご案内」などの名目で通知(書面)が届きます。通知が届くのは、年金事務所が「調査が必要」と判断したタイミングで、具体的には次のようなケースがあります。
- 年金事務所が社員(被保険者)から通報を受けたとき
- 社会保険関連の法改正があるとき
- 前回の社会保険調査から一定の期間が経過したとき(数年に一度など)
通知が届いたら、会社は通知に記載された書類を、郵送または対面で年金事務所に提出します。年金事務所が提出書類をチェックし、問題がない場合は調査終了、問題がある場合は年金事務所の指示に従い、問題点を是正すれば終了となります。
社会保険調査の通知を無視したり、是正の指示に従わなかったりすることは許されず、
悪質な場合、罰則(6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金)を受ける
こともあります。
3 社会保険調査の最近の動向は?
年金事務所を統括する日本年金機構によると、2021年度に社会保険調査が実施されたのは、24万2793事業所です。また、過去の調査事業所数の推移を見ると、2016年度からの3年間は、パート等への「社会保険の適用拡大」がスタート(2016年10月)したことなどもあって、特に多くの事業所で調査が実施されています。
なお、2021年度に社会保険調査が実施された24万2793事業所のうち、資格得喪関係、報酬関係の指摘を受けたのは、9万5922事業所(全体の39.51%)です。
4 社会保険調査が入りやすい会社は?
日本年金機構は、2021年度に社会保険調査が実施された24万2793事業所のうち、調査の優先度が高かった事業所として、次の18万872事業所を挙げています。
図表4の赤囲みの4項目だけで全体の86.64%を占めます。「パート等を多く雇用している」「定時決定に必要な算定基礎届を提出していない」「雇用保険には加入しているが、社会保険には加入していない社員がいる」といった場合、社会保険調査が入りやすく、さらに、そこで指摘を受けると、以降も社会保険調査の対象になる可能性が高まります。
5 どのような書類をチェックされるのか?
社会保険調査で年金事務所から提出を求められるのは、次のような書類です。
- 原則として必ず提出する書類(注):賃金台帳、出勤簿、源泉所得税領収書
- 必要に応じて提出する書類:就業規則、雇用契約書
(注)年金事務所によって異なりますが、過去2年分程度の提出を求められるケースが多いです。
例えば、賃金台帳には、社員の「賃金計算期間」「労働日数」「労働時間数」「賃金額」「支給項目」「控除項目」などが記載されています。仮に、
- 社員が被保険者要件を満たすのに、社会保険に加入していない
- 社会保険には加入しているが、社会保険料の計算が間違っている
といった問題が見つかると、年金事務所から是正を指示されます。例えば、社員が被保険者要件を満たすのに、社会保険に加入していなかった場合、
- 速やかに資格取得手続きを行う(被保険者資格取得届の提出)
- 社員が被保険者要件を満たすようになった時期まで遡って、未払いの社会保険料を納付する(最大で過去2年分)
- 未払いの社会保険料のうち、社員負担分を社員から徴収する(賃金から控除する場合、原則として社員の同意が必要)
などの手続きをします。
是正が完了しても、その旨を年金事務所に報告する必要はありません。社員の資格得喪や、社会保険料の納付が適正に行われれば、年金事務所内で把握できるからです。また、資格得喪の手続き漏れや社会保険料の未払いには、本来「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という罰則がありますが、実際は、
年金事務所の指示通りに速やかに手続きを行えば、罰則を受けずに済むケースが多い
ようです。
6 これで安心。事前に確認したい10項目
最後に、社会保険調査に備えて事前に確認したい10項目を紹介します。特に5.と10.は要注意です。
5.については、御社が2022年10月からの「社会保険の適用拡大」の対象、つまり厚生年金保険の被保険者数が常時100人超の状態であれば、被保険者要件を満たすパート等がいないか確認しましょう。そして、該当者がいる場合は速やかに資格取得手続きを行います。
10.は、本来、賞与として支給すべき金銭が、「○○手当」などとして月例賃金に組み込まれているケースの指摘です。法令上、
労働の対償として支給する金銭のうち、支給期間が3カ月を超えるものは全て「賞与」
に当たり、該当する場合、
「賞与」以外の名目で支給していたとしても、「賞与支払届」を年金事務所に提出して、社会保険料(賞与保険料)を納付
しなければなりません。自社の就業規則(賃金規程など)をいま一度見直して、該当するものがないかチェックしておきましょう。
5.と10.以外は、資格得喪や定時決定などの決まった手続きを適正に行っていれば、基本的に問題ありません。手続きに不安がある場合は、日本年金機構のウェブサイトなどで確認しておきましょう。また、社会保険のうち健康保険の保険料率は定期的に改定されるので、こちらも保険者(全国健康保険協会など)のウェブサイトなどで確認するとよいでしょう。
■日本年金機構「健康保険・厚生年金保険の保険料関係」■
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/index.html
■全国健康保険協会「保険料率」■
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/
以上(2022年11月)
(監修 シンシア総合労務事務所 特定社会保険労務士 白石和之)
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