書いてあること
- 主な読者:資金調達などの1つとして「新株予約権」の基本を知りたい人
- 課題:新株予約権の発行にはいくつかの種類があり、分かりにくい
- 解決策:既存株主に配慮する。公開会社と非公開会社とで手続きが異なる
1 第三者割当による新株予約権の発行手続き
新株予約権とは、
株式会社(以下「会社」)に行使することで、当該会社の株式の交付が受けられる権利
です。会社としては、役員や社員にストックオプションとして付与したり、資金調達の手段として発行したりします。
新株予約権の発行等の形態は次の3つです。
- 第三者割当:特定の者に募集をかけ、応募者に新株予約権を発行する
- 株主割当:既存株主に株式割当の権利を与え、応募者に新株予約権を発行する
- 公募:不特定多数に募集をかけ、応募者に新株予約権を発行する
以降では、第三者割当に注目し、手続きの概要を紹介します。
2 第三者割当による新株予約権の発行手続き
1)募集事項の決定
会社が第三者割当、株主割当、公募の方法によって新株予約権(以下「募集新株予約権」)を発行する場合、次の募集事項を決定します。
- 募集新株予約権の内容および数
- 募集新株予約権と引き換えに金銭の払込みがない「無償発行」の場合は、その旨
- 無償発行ではない場合は払込金額またはその算定方法
- 募集新株予約権を割り当てる日(割当日)
- 募集新株予約権と引き換えにする金銭の払い込みの期日を定めるときは、その期日
- 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されている場合は、募集社債に関する事項
- 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されている場合で、その募集新株に譲渡制限が設けられた場合などの請求の方法について別段の定めをするときは、その定め
募集事項は、原則として、株主総会の特別決議で決定します。また、有利な価格で株式を発行する「有利発行」の場合、取締役は、その株主総会で有利発行が必要な理由を説明しなければなりません。
また、次のような場合、募集事項の決定について例外が認められています。
1.公開会社の場合
公開会社では、有利発行の場合を除き、新株予約権の募集事項を取締役会で決定できます。
2.取締役会等へ委任する場合
株主総会の特別決議により、募集事項の決定を取締役会(取締役会設置会社でない場合は、取締役)に委任できます。この場合、株主総会で次の事項を定めます。なお、この特別決議は、新株予約権の割当日が、当該決議の日から1年以内である募集新株予約権の募集についてのみ効力があります。
- その委任に基づいて募集事項を決定できる募集新株予約権の内容および上限数
- 無償で募集新株予約権を発行する場合は、その旨
- 無償発行でない場合には、募集新株予約権の払込金額の下限
2)募集事項の公示
1.公示の手続き
公開会社が取締役会で募集事項を決定した場合、割当日の2週間前までに、募集事項を株主に通知または公告しなければなりません。一方、非公開会社は、株主総会の特別決議によって決定した募集事項を株主に通知などする必要はありません。
2.公開会社における手続規制の新設
募集新株予約権の割当によって、新たに議決権の2分の1を超えて株式を所有することになる者(以下「特定引受人」)が出る場合、原則として、会社は払込期日の2週間前までに、既存株主に特定引受人の氏名等を通知するか、公告しなければなりません。ただし、会社法第244条の2第4項により、株主の保護に欠ける恐れがないと認められるもの(金融商品取引法に基づく一定の届け出をする場合など)については、通知義務はありません。
そして、この通知等から2週間以内に、全ての株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が反対の旨を会社に通知した場合、事業継続のために緊急の必要があると認められるときを除き、会社は割当日の前日までに株主総会の普通決議による承認を受けなければなりません。
3)申し込み、割当
募集新株予約権を引き受ける者が1人の場合(総数引受契約)を除き、原則として、会社は引き受けの申し込みをしようとする者に対して次の事項を通知します。ただし、会社法第244条の2第4項により、株主の保護に欠ける恐れがないと認められるもの(金融商品取引法に基づく一定の届け出をする場合など)については、通知義務はありません。
- 会社の商号
- 募集事項
- 新株予約権の行使に際して金銭の払い込みをすべきときは払い込みの取り扱いの場所
- その他法務省令で定める事項
申し込みをする者は、氏名または名称、住所、引き受けようとする募集新株予約権の数を記載した書面などで会社に申し込みます。会社は申込者の中から割当を行います。募集新株予約権の割当がなされると、申込者は払い込みを待たず、割当日に新株予約権者になります。
なお、募集新株予約権の目的である株式の全部または一部が譲渡制限株式である場合、または募集新株予約権が譲渡制限新株予約権(新株予約権であって、譲渡による当該新株予約権の取得について会社の承認を必要とするもの)である場合、定款で特に定めていない限り、取締役会(取締役会設置会社でない場合は、株主総会)の普通決議で割当先を決定します。
4)新株予約権に関する登記
新株予約権の発行日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局で登記をします。
5)払い込み
募集新株予約権を割り当てられた者は、行使期間の初日の前日(払込期日が別で決まっている場合はその日)までに、会社が定めた銀行などで全額を払い込みます。会社の承諾があれば、金銭ではない財産の給付で変えることもできます。払い込みや給付がなされない場合、当該新株予約権は行使できず、権利も消滅します。
以上(2024年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)
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画像:Mariko Mitsuda