書いてあること

  • 主な読者:約束手形の廃止について準備をしていない経営者や会計担当者
  • 課題:約束手形の廃止について、どう対応していいか分からない
  • 解決策:電子記録債権やクレジットカードなど、約束手形に代わる決済手段を比較検討した上で、取引先と決済手段の変更について交渉する

1 2026年に「約束手形」は完全廃止の予定

約束手形とは、

手形の「振出人」が、約束の期日までに定められた金額を支払うことを「受取人」に約束する有価証券

です。手形自体は江戸時代から続く決済手段で、卸売業などでも利用が多くなっています。

この約束手形について、2026年をめどに紙を廃止し、全て電子化する方針が示されています(注)。「ペーパーレス化」が社会的に進むなかで、紙の手形や小切手もデジタル化して、作業負担の軽減や効率化を図ることが求められるようになったためです。

(注)2017年「未来投資戦略2017」において「オールジャパンでの電子手形・小切手への移行」が明記され、2021年「成長戦略実行計画」において「5年後(2026年)の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する」と明記されています。

この流れの中で、2022年4月には手形交換所が廃止され、金融機関も電子化への移行を優遇したりしています。しかし、手形や小切手の利用はなかなか減りません(小切手は、支払地となる金融機関に行けばすぐに決済できるもの)。

全国銀行協会「産業界における手形・小切手の利用実態等に関する調査(2023年6月)」(調査は三菱UFJリサーチ&コンサルティング)で、振出人と受取人の双方に、手形や小切手を「やめたいが、やめられない」理由が示されています。具体的には、

  • 振出人:受取側が手形を希望している、経理事務の変更に抵抗がある
  • 受取人:振出側が手形を希望している、手形をやめる必要性を感じない

などが挙げられています。

このように、日本企業に深く根付いている手形や小切手ですが、電子化されるのは間違いありません。手形は振出側と受取側の二者間の問題なので自社の一存では実行しにくい面がありますが、今の時点から電子化による影響を知り、対応を進めることは大切です。この記事で、

  • 約束手形の廃止で事務負担や資金繰りはどうなるのか
  • 約束手形に代わる決済手段は何か
  • 約束手形を廃止するためには

を紹介するので、参考にしてください。

2 約束手形の廃止で事務負担や資金繰りはどうなるのか

約束手形を廃止すると、振出側・受取側ともに事務負担やコストが減る一方、資金繰りでは振出側にはマイナスの、受取側にはプラスの影響が出ます。

1)振出側の影響

1.事務作業などの負担やコストが減る

手形帳や印紙の購入コストがなくなります。また、手形の作成や発送事務などの実務負担がなくなります。

2.支払期日の短縮で資金繰りが悪化?

支払期日が短くなるので、資金繰りに影響が出ます。例えば、約束手形の平均支払期日は約100日です。銀行振込の平均は約50日ですので、単純計算で50日、早く支払わなければなりません。その分、手元資金を確保する計画を立てておく必要があります。

2)受取側の影響

1.事務作業の負担やコスト、紛失・盗難リスクが減る

振出側から受け取った約束手形は、受取側が支払期日まで管理する必要があります。その管理や支払期日になってから行う取立などの事務負担、取立手数料や領収書の印紙代などのコストが低減されます。また、約束手形を管理している間の紛失や盗難のリスクもなくなります。

2.支払期日の短縮で資金繰りが改善する

支払期日が短縮されれば、資金繰りが改善されます。また、支払期日前に割り引いて手形を買い取ってもらう「手形割引」や、手数料を支払うことで、期日前に債権を買い取ってもらうなどの「ファクタリング」を利用せずに済みます。

3 約束手形に代わる決済手段は何か

約束手形に代わる決済手段として代表的なものは、銀行決済(インターネットバンキング)、電子記録債権、クレジットカードなどです。

1)銀行決済(インターネットバンキング)

インターネットバンキングは、銀行決済をインターネットで行うものです。パソコンやスマートフォンを使い、銀行窓口やATMに行かなくても振込手続きが行えます。

また法人口座を開設すれば、複数の振込先に一括で振込手続きができるので、事務負担を軽減できます。代表的な支払期日は「月末締め翌月末払い」で、締め日から30日前後の入金となります。

2)電子記録債権

電子記録債権は、例えば、手形の作成・保管などのコストの低減や売掛債権の二重譲渡リスクなどの回避を可能とする新たな金銭債権で、電子債権記録機関で記録(振出)、譲渡(支払)ができます。

国内最大規模の電子債権記録機関が、でんさいネット(全銀電子債権ネットワーク)で、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、JAなど国内495の金融機関が参加しています(2022年7月19日時点)。でんさいネットが取り扱う電子記録債権を「でんさい」といいます。

でんさいは、取引金融機関のインターネットバンキングなどを通じて、でんさいネットに「発生記録請求」を行うことで振出となり、支払期日になると受取側の決済口座に振り込まれます。

ただし、振出・受取の双方がでんさいネットを利用している必要があります。支払期日は、発生日(銀行営業日)から起算して3~7銀行営業日を経過した日以降、最長で10年後までです。

3)クレジットカード

多数の取引先に対して、少額のサービスや商品を提供する会社にとって便利です。代金はクレジット会社が立て替え、後から支払請求が来る決済手段です。クレジット会社によって引き落としや入金の時期が異なります。

4 約束手形を廃止するためには

1)約束手形を廃止するための手続き

振出側・受取側で手形決済のメリット・デメリットが異なるため、双方での調整が必要です。双方がやるべきことの流れを紹介します。

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2)約束手形を廃止するために下請法を知る

約束手形は業界の取引慣行として長年利用されてきたため、「やめにくい事情」があります。特に大口の顧客が約束手形を継続する意向が強く、取引の停止や取引要件の変更などを示してきた場合などは、難しい対応を迫られる可能性があります。もし、振出側が難色を示したら、いったん引き下がり、公正取引委員会「下請法の相談・申告等の窓口」や、中小企業庁「下請かけこみ寺」などに相談するのも一策です。

■公正取引委員会「下請法の相談・申告等窓口」■

https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html

■中小企業庁「下請かけこみ寺」■

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kakekomi.htm

以上(2023年11月更新)

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画像:BBuilder-Adobe Stock

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