書いてあること

  • 主な読者:国による支援施策を利用したい中小企業の経営者
  • 課題:支援施策を利用したいが、自社が使えるものが分からない
  • 解決策:本稿で使いやすい支援施策の当たりをつけて、詳細を確認する

国による支援施策は、内容が多岐にわたり、要件も複雑なため、実際にどの支援施策が利用できるのかが、分かりにくいものです。

そこで本稿では、中小企業診断士の視点から、これだけは押さえておいてほしい、おすすめの支援施策をご紹介します。「令和2年度補正予算」から新型コロナウイルス感染症関連の中小企業施策も盛り込んでいます。

1 2020年版「中小企業白書」から見る中小企業施策

2020年4月24日に発表された2020年版「中小企業白書」では、複数年度で継続している施策の他、令和2年度当初予算と令和元年度補正予算に盛り込まれた施策の内容が記載されています。その中で、ぜひ知っていただきたい施策を厳選して解説します。

1)事業承継・再編・創業等による新陳代謝の促進:事業承継・再編関係の特徴的施策をご紹介

1.法人版事業承継税制

株式の価値が大きい会社が、事業承継の際にネックとなるのが、贈与税や相続税です。事業承継税制は株式を生前贈与あるいは相続する際に利用できる施策で、税が猶予または免除されます。
利用するには「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく、都道府県知事の認定が必要になります。「中小企業を次世代に円滑に承継するなら税を免除します」という趣旨の制度ですので、事業承継を行う際にはぜひ活用しましょう。

■法人版事業承継税制■
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm

2.経営承継円滑化法による総合的支援

この中で注目すべき項目は、「M&Aによる事業引継ぎに際しての金融支援」です。
M&Aによって、他の企業を買収したいときに必要となる株式取得資金について、日本政策金融公庫などからの融資が受けられるというものです。
都道府県知事の認定が前提となりますが、例えば中小企業A社を買収して経営を引き継ぎたい個人が、株式取得のための資金の融資を受けられるという制度です。会社を売りたいと思う経営者にとっても、円満な引退や転身が可能になります。

■中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」■
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.htm

2)生産性向上・デジタル化:「生産性向上・技術力の強化」「IT化の促進」「人材・雇用対策」から、それぞれ1項目をご紹介

1.中小企業等経営強化法

中小企業者等が経営力向上のための「経営力向上計画」を策定し認定されると、設備取得に関して即時償却または取得価額の10%(法人税)の税額控除が選択適用できるものです(資本金3000万円超1億円以下の法人の場合は7%の税額控除)。
また、他者から事業承継するために、土地・建物を取得する場合、登録免許税・不動産取得税の軽減措置を利用できます。その他、金融支援や法的支援を受けられるなど、多くのメリットがあります。
実は「経営力向上計画」は、申請がとてもシンプルで、比較的容易に認定を受けることができるのです。設備投資をお考えの方は、ぜひチェックしてください。

■経営力向上計画申請プラットフォーム■
https://www.keieiryoku.go.jp/

2.政府系金融機関の情報化投資融資制度(IT活用促進資金)

日本政策金融公庫などの政府系金融機関には「IT活用促進資金」という融資制度があり、コンピューターやソフトウエアを導入する際には、低利率の融資を受けられる可能性があります。
今年度からは、「AIを活用して生産性の向上を図る取り組みを実施する事業者」および「中小企業等経営強化法の規定に基づき認定を受けた情報処理支援機関」に対する融資が新設されました。

■日本政策金融公庫「IT活用促進資金」(中小企業事業)■
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/11_itsikin_m_t.html

3.地域中小企業人材確保支援等事業

当施策は従前からの継続事業ですが、今年度は「中核人材確保のため、地域の経営支援機関等による経営課題の明確化・人材ニーズの掘り起こし等の支援ノウハウの向上や、ネットワークづくりの取組等の支援を行う」という新規の取り組みが加わりました。
「中核人材」とは、経産省の資料では「成長・拡大を志向する中小企業が、企業の持続的成長・発展や地域活性化に必要な付加価値創出を狙うための人材」とあります。
同事業を実施する委託先の公募締め切りが2020年6月19日までとなっており、その後、実際の中小企業への支援が開始される予定です。
成長・発展を狙うための中核人材を必要としている企業は、この事業の進捗を注視しつつ、優れた人材を確保できるように、「商工会議所」「よろず支援拠点」など、地域の経営支援機関を活用しましょう。

■中小企業庁『経営サポート「雇用・人材支援」』■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/

3)経営の下支え・事業環境の整備:特徴的な補助事業と融資制度についてご紹介

1.マイナポイント事業実施に伴うキャッシュレス決済端末導入支援事業

マイナンバーカードを活用した消費活性化策が実施されるのに伴い、中小・小規模事業者のキャッシュレス決済端末等の導入を支援する施策です。
2020年7月から2021年3月までの間、中小・小規模事業者がキャッシュレス決済を導入する際に、必要な端末等導入費用の1/2を国が補助するという内容です。
なお、直接補助の対象となる企業は、キャッシュレス決済事業者になります。中小の飲食店などが、キャッシュレス端末を、当補助金の補助事業者であるキャッシュレス決済事業者に依頼すると、実質の負担が少なく導入できることになります。

■マイナポイント事業費補助金■
https://tanmatsu-hojo.jp/

2.資本性劣後ローンの推進

これは以前からある施策ですが、知らない方が多いのでご紹介します。
日本政策金融公庫が行っている融資で、「挑戦支援資本強化特例制度」(通称「資本性ローン」)という制度です。
融資の元金は決めた期限に一括返済し、その間は利息だけの支払いという条件になっています。融資には違いないのですが、金融機関が行う「自己査定」において、自己資本とみなせるものなので、この融資を利用すれば自己資本が厚くなり、民間金融機関が追加融資をしやすくなるという特徴があります。

利率については、決算書が赤字の場合は1%未満ですが、黒字になると3%以上に上がります。「利益が出たらその分、還元してください」という意図があるようです。
ベンチャー企業や、再建に取り組む企業へおすすめの融資です。

■日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)(中小企業事業)」■
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/57_t.html

2 令和2年度補正予算で計上された施策

令和2年度補正予算では、新型コロナウイルス対策としてさまざまな施策が創設されました。経産省には以下に示した「新型コロナウイルス感染症関連」の施策について、まとめたページがあります。その中から、拡充された「ものづくり補助金」「IT導入補助金」について解説します。

■経済産業省「新型コロナウイルス感染症関連」■
https://www.meti.go.jp/covid-19/

1)「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(通称「ものづくり補助金」)

「ものづくり補助金」では、新型コロナウイルス対応の「特別枠」という制度が創設されました。補助上限額は1000万円です。

■ものづくり補助金総合サイト■
http://portal.monodukuri-hojo.jp/

1.補助対象の前提となる要件

「ものづくり補助金」の特別枠に申請するには、「補助対象経費の1/6以上が、以下の要件に合致する投資であること」という要件があります。Aについて例示すると、「海外からの部品が調達困難になったため内製化する」といった企業が該当します。

  • A:サプライチェーンの毀損への対応
  • B:非対面型ビジネスモデルへの転換
  • C:テレワーク環境の整備

2.拡充された内容

ものづくり補助金の特別枠は、以下の点において制度の内容が拡充されています。

A.補助率が1/2から2/3へアップ
中小企業者(小規模企業者・小規模事業者を除く)の場合、通常は1/2の補助率のところが、2/3にアップします。

B.通常枠で優先的に採択
これはやや分かりにくいですが、特別枠で不採択となった場合に、通常枠で加点の上、再審査されるということです。ただし、通常枠の審査で採択された場合は、補助率が通常枠の扱いとなります。

C.補助事業の遡及適用
「補助金交付決定前に発注・購入・契約等を行った経費を対象にする」という特例が認められています。
ただし、新型コロナウイルスの影響を乗り越えるために、必要不可欠な緊急の設備・システム投資等であると認められる場合に限りの特例で、事前に事務局の承認が必要です。

D.広告宣伝・販売促進費が対象
特別枠に限り、補助対象事業で開発する製品・サービスに係る広告作成等の費用が対象になりました。

E.達成時期の緩和
申請要件である「付加価値向上」「賃上げの達成年限」について、1年猶予する緩和措置が設けられました。

2)「サービス等生産性向上IT導入補助事業」(通称「IT導入補助金」)

「IT導入補助金」では、新型コロナウイルス特別枠として「C類型」という制度が創設されました(通常枠には「A類型とB類型」があります)。補助上限額は450万円です。

■IT導入補助金2020■
https://www.it-hojo.jp/

1.「C類型」の特徴

A.補助率がアップ
補助率は、通常枠が1/2であるのに対して2/3となっています。

B.ハードウエアのレンタル費用も対象
通常枠では対象にならないハードウエア(デスクトップPC、タブレット、Wi-Fiルーターなど)も、補助対象経費として認められています(適用の条件があります)。

C.申請前に購入したものも認められるケースあり
一刻も早いテレワーク環境の整備などの必要性から、2020年4月7日以降に購入したITツールも、審査によって補助金の対象になる可能性があります。

2.申請時の留意点

A.「gBizIDプライムアカウント」の取得が必要
「gBizIDプライムアカウント」が必要ですので、早めに手続きをしましょう。同アカウントは、複数の行政サービスを1つのアカウントにより、利用することのできる認証システムのことであり、ものづくり補助金の申請に当たっても必要になります。
なお、2020年5月20日現在、同アカウントの取得について日数を要するために緩和措置が設けられています。

B.IT導入支援事業者との連携が必要
申請するには、通常枠と同様にIT導入支援事業者との連携が必要です。IT導入支援事業者とは、補助事業を申請者とともに実施する、補助事業を実施する上での共同事業者で、事務局に登録されている事業者です。

C.補助対象になるITツールの分類・要件が複雑
「C類型」は、導入予定のITツールの内容等によって、細分化された類型に分かれます。
ITツールの分類としては、通常枠と同様、「大分類Ⅰ ソフトウエア(業務プロセス・業務環境)」「大分類Ⅱ ソフトウエア(オプション)」「大分類Ⅲ 役務(付帯サービス)」に分かれており、小分類でツール等の内容が指定されています。
また、導入目的が「甲:サプライチェーンの毀損への対応」「乙:非対面型ビジネスモデルへの転換」「丙:テレワーク環境の整備」のいずれかに当てはまる必要があります。
これらのITツールの分類と導入目的(甲、乙、丙)の組み合わせや要件が複雑になっていますので、しっかりと確認することが重要です。
また「賃上げ目標・要件」について、「必須要件」とするか「加点要件」とするかによって申請類型が異なり、補助金の申請可能額が変わってきます。

今回ご紹介した令和2年度の施策は、ごく一部です。
2020年版「中小企業白書」や経産省(中小企業庁)の発表資料などをチェックして、ぜひ貴社に適する施策を活用してください。

以上(2020年6月)
(執筆 株式会社MMコンサルティング 代表取締役・中小企業診断士 上野光夫)

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画像:BullRun-Adobe Stock

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