書いてあること

  • 主な読者:リモートワークを適法に実施するために就業規則を整備したい経営者
  • 課題:就業規則のどこを見直せばよいか分からない
  • 解決策:オフィスワークとリモートワークの労務管理上の違いに注目すると分かる

1 リモートワーク対応が必要な就業規則の項目は?

コロナ禍の影響でリモートワークを行う企業が増えています。リモートワークを実施する上で重要なのが就業規則です。リモートワーク時の労働条件等について就業規則に定めがないと、リモートワークの許可基準が曖昧になったり、労務管理面において従業員とトラブルになったり、会社として意図しない長時間労働で労働基準法に違反したりする恐れがあるからです。

「オフィスワークとリモートワークは労務管理上何が違うのか?」という視点で考えると、就業規則の中で見直しが必要な項目が分かります。次の図表は違いの一例です。

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次章では図表の各項目について解説します。先に具体的な規定例を見たい方は、次の記事をご確認ください。

2 リモートワークにおける就業規則の整備のポイント

1)対象者

リモートワークの対象者は、原則としてある程度自立して業務を遂行できる従業員です。しかし、その場合、オフィスには自律性の低い従業員が残ってしまう可能性があるため、管理職が交代で出社してオフィスワークの状況を確認するようにします。

2)就業場所

リモートワークで業務に集中しやすい環境は従業員によって異なるので、原則として従業員が自由に決定できるようにします。ただし、安全衛生上、情報セキュリティ上の問題をクリアできない場所はいけません。

3)服務規律

服務規律には、情報や成果物の取り扱いについて定めます。違反した場合の懲戒処分もセットで定めます。なお、リモートワーク時のセキュリティ対策については、セキュリティガイドラインなどが必要です。総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)」(2021年3月22日時点ではガイドライン案が公表されています)が参考になります。

4)労働時間管理の方法

まず、オフィスワーク時と同じ労働時間制をリモートワークにも適用するのか、別の労働時間制にするのかを検討します。次に、リモートワーク時にどのような方法で始業・終業時刻を報告するかを決めます。加えて、リモートワークでは、プライベートの用事で業務を中断する「中抜け」が発生しやすいため、中抜けにも対応できるようにします。

なお、リモートワーク時の労働時間制については、次の記事をご確認ください。始業・終業時刻が従業員一律になっている固定労働時間制などは、会社も慣れているので管理がしやすいですが、「通勤がない分、時間を有意義に使いたい」といった従業員が多い場合、変形労働時間制などを導入するのも一策です。

5)通勤手当

リモートワークをしている従業員に、定額の通勤手当を支払うことは合理的ではありません。ただし、こうした従業員もオフィスでしかできない業務がある場合などは出勤することがあります。こうした場合の通勤費の取り扱いを決めます。

6)費用の負担

通信費や光熱費など、リモートワークに伴って発生する費用については、会社負担とするのが妥当です。とはいえ、これらの費用を明確に区別するのは現実的ではないので、従業員とトラブルにならないようなルールを決めます。

なお、従業員負担とする費用については、リモートワークの導入前後で従業員の負担がどの程度変動するのかを確認しましょう。従業員の負担が大きい場合は、毎月一定額の「リモートワーク手当」などを支給するのも一策です。

7)通信機器

セキュリティの観点から、リモートワークに必要な機器は会社が貸与します。従業員が私物のパソコンなどを使って業務を行う場合、会社指定のセキュリティソフトをインストールしてもらう、フリーのWi-Fiには接続しないよう指導を徹底するなどの対策を講じます。

3 就業規則を変更しなかったらどうなる?

1)トラブルが発生した場合に対応できない

例えば、リモートワーク時の労働時間管理の方法がオフィス就業時と異なる場合、そのルールを従業員に周知していないと残業時間が正確に把握できません。また、リモートワークでは気軽に作業に向き合う事ができるため、ついつい長時間労働に陥りがちともいわれています。無駄な労働を抑止するためにも服務規律や労働時間管理等についてのルールを徹底しておく必要があります。会社側の管理が不十分なために、従業員が過重労働による健康障害を起こしてしまった場合、会社が責任を問われることもあります。

また、私物のパソコンの業務利用を認める際のルールを定めて従業員に周知していないと、従業員の過失で情報の漏洩や消失が発生した場合でも、懲戒処分を科せないことがあります。

2)労働基準法上の罰則の対象となることもある

使用する労働者が10人以上の会社(実際は、本店や支店など事業場単位での判断)には、就業規則の作成・届け出義務があります。就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、定めがある場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」があり、これらの内容が記載されていない場合、または記載事項に変更があったにもかかわらず就業規則の変更・届け出を行っていない場合、30万円以下の罰金が科せられます。

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就業規則を変更した場合、会社は変更後の就業規則に過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の意見書を添えて所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。なお、過半数労働組合等への意見聴取、所轄労働基準監督署への届け出などの手続きは、オンライン(電子申請)で行うことができます。詳細については、次の記事をご確認ください。

以上(2021年4月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:Real_life_Studio-shutterstock

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