社会人になると、仕事で褒められたり、感謝されたりすることが少なくなります。仕事というのはできて当たり前のことですから、当然と言えば当然です。

このことについて、知人の会社の女性社員から聞いたことを思い出しました。

その女性社員はお客さんが帰られた後の茶器を給湯室で洗っていました。そこには茶器以外にも、何人かが置いていったマグカップがありました。冬場で水しか出ない給湯室の作業はつらいのですが、それらを仕事と割り切り、淡々と洗っていました。

ところが、ふと、さも当然のように置いてあるマグカップを見て、「本当に自分がこの仕事をする必要があるのか」ということが頭の中をよぎったそうです。そして「別に、この仕事は私でなくとも誰でもできることだし、そもそも置いた人が洗えばいい。それならば私がする必要はないし、その間に別の仕事ができる」と考えていると、最終的には、「本当にこの会社で仕事を続けていいのか」と思うようになり、もんもんとしてしまったのだそうです。

この話を聞いたとき、私には思い当たるふしがありました。皆さんが毎日仕事に従事してくれるおかげで、会社は成り立っています。にもかかわらず、皆さんを褒めることもなく、感謝や労いの言葉すらかけていません。

私が「いつもありがとう」という感謝の言葉を口にしないため、皆さんの上司も、そうした言葉を口にしないようです。

先の女性社員の話には続きがあります。その女性社員が茶器などを洗い終わり、食器棚に片付けていると、ある人から「いつもありがとう」と声をかけられたのだそうです。その人は、いつも給湯室の流しにマグカップを置いていく人でした。今までそんなことを言われたことがなかったので、女性社員は驚きで「はい…」と返事をすることしかできませんでした。同時に、地味で目立たないことですが、こんな小さなことでも見てくれている人のいることが分かった上、感謝の言葉をかけられて、とてもうれしかったそうです。そして、「たとえ小さな仕事でも、それまで続けてきた努力はどこかで見てくれている人がいる。手を抜かず、着実に毎日の仕事をやり遂げよう」と思ったそうです。

皆さんも、慣れた仕事を毎日のようにしていると、本当にこの仕事をやっていていいのか、他にもっと面白い仕事があるのではないかと思うことがあるかもしれません。しかし、皆さんが行っている仕事はどんな小さなものでも大切な意味を持っています。どの仕事も一人ひとりが丁寧に着実に進めていくことで、会社が成り立っているのです。

このことは、私も皆さんの上司も分かっています。ただ、分かってはいても、皆さんへ「ありがとう」の感謝の言葉を伝えることができていませんでした。上司の皆さんは、部下の仕事のすべてに目を配り、そして「ありがとう」と言ってください。私も今日から「ありがとう」を口癖にします。

以上(2023年2月)

pj16513
画像:Mariko Mitsuda

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