1 書く前の下ごしらえ
文章を書いていて、何度書き直してもうまくいかなかった経験はありませんか? 誤字脱字や文法などをチェックするのは、自分が言いたいことを読者に分かりやすく伝えるために大切です。しかし、何度書き直しても、何を言いたいのか伝わらず、納得できる文章にならないとしたら、それは書き始める前の準備が足りていなかったのかもしれません。
文章(書き言葉)は、一般的に話し言葉より論理的なつながりが重視されます。詩歌や小説など文学的な作品でないなら、何をどのような順番で書くかという事前の計画、構成案が不可欠です。
構成案なしに書き始めることは、レシピなしで料理を始めるのと似ています。慣れていない人が、使う食材の種類や分量、入れる順番などを決めずに始めると、食材が生煮えだったり、味のバランスがおかしかったりします。気付いてもう一度加熱したり、調味料を足したりしても、なかなか挽回できません。
書くのも同じです。構成があやふやであれば、情報が分散してまとまりがなく、何度も読み返さないと理解できない文章になりがちです。
そのため、文章を書くときは、事前の準備が欠かせないのです。
2 書くためのプロセス
文章を書く全体の流れを把握すると、いつ何をすればよいかがイメージできるはずです。書くためのプロセスは、文章の長さや内容、形式によっても異なりますが、本稿では数百字から2000字程度の短い文章を書く場合のプロセスを想定しています。
文章を書くときの全体的な流れは次の通りです。
<全体的な流れ>
●文章を書く前の準備・書き始める
- 1.持っている事実を整理する
- 2.問いを立てて、書きたい結論(主張)を決める
- 3.構成案を作り、それに従って書く
●書いた文章を直す
- 4.読み返して直す(文法中心)
- 5.読み返して直す(表現中心)
このプロセスはいつも絶対的に変わらないものではなく、書く目的や内容、文章の長さによっては省略することもあります。
以降では、この文章を書くときの全体的な流れのうち、「文章を書く前の準備・書き始める」について詳しく紹介していきます。
3 持っている事実を整理する
前述した、話し言葉と書き言葉の大きな違いである論理(ロジック)とは、どんなものなのでしょうか。ビジネス書で多くのベストセラーを生み出したライターの古賀史健氏は、『取材・執筆・推敲――書く人の教科書』で、「言葉における論理は、絵画における遠近法」 というような表現をしています。
今ある情報を見える化して、書きたい内容をイメージし、またそれが本当に書けそうかどうかを判断する準備をします。
具体的なステップは次の通りです。
- ステップ1:持っている事実を全て書き出す
- ステップ2:欠けている事実を探す
- ステップ3:事実を分類する
1)ステップ1:持っている事実を全て書き出す
事実とは情報のことです。この後で決める自分の結論(主張)の前提となります。
今分かっている事実を箇条書きで全て書き出します。頭の中にある状態で構成を考えたら、後できっと足りない情報が出てきます。何が分かっていて何が分からないかを整理するのです。
なお、この段階ではきちんとした書き言葉(文語体)で表現する必要はありません。ただし、口語的な副詞や形容詞(「やっぱり」や「いい」など)、ら抜き言葉などは使わないほうが後で修正が少なくて済みます。
取引先に資料の催促メールを送るために分かっている事実を書き出してみると、次のようになります。
- 〇日の会議で、資料を▲日までに送ってもらうように頼んだ
- 明日の社内会議でその資料を基に話すことになっている
- ▲日を過ぎたが、担当者から送られてきていないのを確認した
- ただし、絶対に見落としていないとはいえない
2)ステップ2:欠けている事実を探す
全て書き出したつもりでも、見落としている部分はあるものです。ステップ1で挙げた中に、欠けている事実がないか確認します。
見えていない情報に気付くのは容易ではありませんが、5W1H(Who(誰が)、What(何を)、When(いつ)、Where(どこで)、Why(なぜ)、How(どうやって))に当てはめて確認するクセをつけるとよいでしょう。上の例では、Howの情報が抜けています。資料は郵送で届くはずなら、メールを確認する意味はありません。
相手が知っている情報であればあえて書く必要はありませんが、足りない情報に自分で気付けるようになると、相手とのトラブルの可能性を下げられます。
なお、事実は正しいことが大前提です。書き並べた情報が本当に正しいのかどうか、情報源となる資料を確認しましょう。
3)ステップ3:事実を分類する
集めた事実を意味ごとに分類します。同じ内容をグループ化し、小見出しを付けるイメージです。
催促メールの例で考えると次のようになるでしょう。
●これまでの経緯
- 〇日の会議で、資料を▲日までにメールで送ってもらうように頼んだ
- ▲日を過ぎたが、担当者から送られてきていないのを確認した
- ただし、絶対に見落としていないとはいえない
●これからに向けたお願い
- 明日の社内会議でその資料を基に話すことになっている
→そのために、すぐに送ってもらいたい。また、できればいつまでに送ってもらえるか確認したい
このように分類することで、自分が言いたいことが前よりも明らかになってきます。
4 問いを立てて、書きたい結論(主張)を決める
続いて集めた事実を基に、伝えたい自分なりの結論(主張)を明らかにします。
具体的なステップは次の通りです。
- ステップ4:読み手の目線を入れ、結論(主張)を整理しタイトルを付ける
- ステップ5:結論の根拠となる推論(理由)を確かめる
1)ステップ4:読み手の目線を入れ、結論(主張)を整理しタイトルを付ける
まずは自分がこの文章で何を伝えたいか、読み手にどんな反応をしてほしいかをイメージします。上の例では、「担当者に資料を送ってほしい」という目的がはっきりしているので、一見答えは出ているように見えます。
しかし、このステップで大切なのは読み手の視点を入れることです。もしタイトル(件名)に「お約束していた資料の督促」と入れたら、読み手は責められたと感じるはずです。
それが本意ではないなら、この文章の目的は「担当者との関係を良好に保ったまま、今日中に資料を送ってもらいたい」となります。タイトルはシンプルに「資料送付のお願い」くらいがよいでしょう。
2)ステップ5:結論の根拠となる推論(理由)を確かめる
ステップ4と同様、読み手に自分の主張を伝えるための準備です。読み手の視点に立って、事実と結論が納得できるものか確認します。内容が複雑なら、ステップ3で分類した事実のグループ単位などで、結論(主張)、推論(理由)、前提(事実)に分けてみるとよいでしょう。
5 構成案を作り、それに従って書く
いよいよ構成案を作って実際に書くステップです。書き始める前に、どの事実を載せて何を省くかを決めておきます。
具体的なステップは次の通りです。
- ステップ6:事実を並べる順番を決める
- ステップ7:どれくらいの分量にするか決める
- ステップ8:完成した構成案に従って書く
1)ステップ6:事実を並べる順番を決める
ステップ4、5で相手目線を取り入れた事実を基に、一番伝えたい結論を表現するのにふさわしい順番を考えます。
催促メールの場合、次の順番はいかがでしょうか。箇条書きの頭に付けた数字が書く順番です(この順番が唯一の正解ではありません)。
●これまでの経緯の確認
- 1.〇日の会議で、資料を▲日までにメールで送ってもらうように頼んだ
- 2.▲日を過ぎても、担当者から送られてきていない
- 3.ただし、絶対に見落としていないとはいえない
●これからに向けたお願い
- 4.明日の社内会議でその資料を基に話すことになっている
- 5.すぐに送ってもらいたい
- 6.忙しい中で対応してもらうが申し訳ない
- 7.これからも良好な関係を保ちたい
(できればいつまでに送ってもらえるか確認したいが、それは必要に応じて電話する)
なお、適切な順番は、文章を載せる場所、媒体によって異なります。ビジネスのメールは基本的に最後まで読んでもらえますが、ネット記事のように途中で読者の離脱が想定される場合は、冒頭に結論を持ってきて読み手の興味を引いたほうが、読んでもらいやすくなります。
2)ステップ7:どれくらいの分量にするか決める
事実を書く順番が決まったら、その事実をどれくらい肉付けして表現するか決めます。強調したいところは長めに語り、分かりづらいところには例え話を入れます。テンポを良くするために、重要でないところは大胆に削ってみてもよいでしょう。
3)ステップ8:完成した構成案に従って書く
最後に、完成した構成案に合わせて原稿を書きます。
【参考文献】
- 『伝わる・揺さぶる! 文章を書く』(山田ズーニー、PHP新書、2001年10月)
- 『哲学思考トレーニング』(伊勢田哲治、ちくま新書、2005年7月)
- 『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング できるビジネスシリーズ』(唐木元、インプレス、2015年8月)
- 『【新版】日本語の作文技術』(本多勝一、朝日文庫、2015年12月)
- 『取材・執筆・推敲――書く人の教科書』(古賀史健、ダイヤモンド社、2021年4月)
以上(2023年7月更新)
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