1 もっと聞く力を伸ばしたい

聞く姿勢ができてくると、同じ話を聞いても得られる情報、気づきが増えていきます。話し手の声のトーンや表情、視線や姿勢、言葉遣いのちょっとした違いなどから、言外のニュアンスがつかめるようになるのです。すると、少しずつ相手に合わせた反応を取れるようになり、予想外の話を聞かせてもらえることが増えていきます。会話が前よりももっと楽しくなるはずです。

とはいえ、人は常に変化するので、傾聴は奥深く、いくら努力しても決して完璧にはなりません。いくら上達しても失敗することはありますが、不確実なところも含めておもしろいのです。もっと聞く力を伸ばしたいという熱意があれば、どこまでも努力できるでしょう。

聞くときに注意すべき点は、目的によって変わります。例えば、ケアを目的に話をする心理療法の場合は、一般的には対話の型があり、型に沿って進みます。治療の質を一定にし、仮説と振り返りのサイクルを回すためです。コーチングなら、話し手が自分で気づき、やる気を引き出すように促すでしょう。他の人が知らないおもしろい話を引き出すインタビューなどであれば、方法はもっと自由です。

さまざまな聞き方に共通して大切なことは、聞き手が自分のバイアスを自覚することです。話し手と真剣に向き合ううちに、自分の思い込みで相手を判断しないことがどれだけ難しいか気づいてきます。自分のバイアスに合わせて、相手を誘導するような発言をしてしまうからです。

この記事では、注意すべき自分のバイアスについて紹介します。

2 思い込みがあることを前提にする

人間は自分で自覚できていない思い込みや傾向性を持っています。パートナーのことはよく知っていると思っていたら実はすれ違ってしまっていた、部下のせいでイライラしていると思ったら実は自分の寝不足や飲みすぎが原因だったということがあります。人間の意識の90%以上は無意識といわれるほど、私たちは自分に無自覚なのです。

思い込みを持って聞く

「この人は●●な人だ」「この職業の人は●●すべきだ」という思い込みは誰でも持っています。また、体調が悪いといつもの食事をおいしくないと思うように、自分の体調や感情によって相手に違った印象を持ちます。

こうした思い込みや傾向性を完全に無くすことはできません。自分にどんなバイアスがあるのか、どういうときに感情が揺れやすいかを知り、そういう場面では慎重に判断する方法を用意しておくのです。

3 バイアスの種類

思い込みや傾向性、経験や固定観念によって判断することを、認知バイアスといいます。認知バイアスには次のような種類があります。

  • 確証バイアス:自分の思い込みを補強する情報ばかりに意識がいく
  • ネガティビティバイアス:ネガティブな情報に注意を向けやすい
  • 同調バイアス:みんなの意見に流されやすい
  • ハロー効果バイアス:顕著に目立つ特徴に引きずられて評価がゆがめられる
  • 生存者バイアス:成功した人・組織の事例ばかり注目する
  • 根本的な帰属の誤り:誰か、何かのせいにする
  • 後知恵バイアス:物事が起きてから、それが予測可能だったと考える
  • 正常性バイアス:予期せぬ出来事に鈍感に対応する

バイアスがあるおかげで、わたしたちは全ての出来事を一から十まで判断する手間を省き、状況に素早く対応できます。こうしたバイアスは全て悪いと考える必要はないのです。

しかし、こうしたバイアスに無自覚だと、偏った考え方をしがちになります。人間にはこういう傾向があると自覚し、自分が感情的になりやすい話題や、信じやすい話題などを自覚するようにしましょう。そして、そのような場面に遭遇したら、悪い方向にバイアスが働いていないか、冷静に考えてみるのです。

自分のバイアスを自覚し、確認する方法について知りたい人は、次の資料が参考になります。

【参考文献】

「観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか」(佐渡島庸平、SB新書、2021年9月)

以上(2023年8月)

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画像:fotogestoeber-Adobe Stock
画像:unsplash

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