書いてあること
- 主な読者:会社の状況について立てた仮説を検証したい社員
- 課題:財務分析の指標は種類が多く、どれを使えばよいのか迷う
- 解決策:「収益性」「安全性」「生産性」に着目して、仮説検証に必要な指標を使う
1 財務分析は「仮説→検証」の繰り返し
財務分析は、会社の状況について「仮説」を立て、それを検証するために行うものです。例えば、次のようなイメージです。
- 「老朽化した設備があり、有形固定資産の効率性が落ちている?」と仮説を立てたら、有形固定資産回転率が低くないかを確認してみる
- 「借入金が増加し、短期安全性が低下している?」と仮説を立てたら、流動比率や当座比率を比較してみる
この記事では、財務分析に使う代表的な20の分析指標を紹介します。ただし、上から順番に計算していく必要はありません。会社の状況で「収益性」「安全性」「生産性」のうち、どの要素を判断したいかによって、必要な指標を使いわけてみてください。
2 収益性に関する指標10選
1)総資本経常利益率
総資本経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。
総資本経常利益率=経常利益÷総資本
また、総資本経常利益率の計算式は次のように分解することができ、収益性に影響を与える要因をより詳細に分析できます。
総資本経常利益率
=(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資本)
=売上高経常利益率×総資本回転率
2)売上高総利益率
売上高総利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。
売上高総利益率=売上総利益÷売上高
売上総利益は次の式で計算できます。
売上総利益=売上高-売上原価
売上原価とは、販売した商品の仕入れや製造にかかった費用です。例えば、小売業であれば販売した商品の仕入代金、製造業であれば製品の製造費用などが該当します。
3)売上高営業利益率
売上高営業利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。
売上高営業利益率=営業利益÷売上高
営業利益は次の式で計算できます。
営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費
販売費及び一般管理費とは、販売部門や総務・経理といった管理部門などで発生する費用です。人件費・事務用品費・旅費交通費・広告宣伝費・支払家賃・減価償却費などが該当します。
4)売上高経常利益率
売上高経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。
売上高経常利益率=経常利益÷売上高
経常利益は次の式で計算できます。
経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用
営業外収益とは、財務活動や投資活動など、本業以外で得た収益です。受取利息・受取配当金・有価証券売却益などが該当します。また、営業外費用とは、本業以外で発生した費用のことです。支払利息・手形売却損・有価証券売却損・社債利息などが該当します。
5)ROE(Return On Equity、自己資本利益率)
ROEの計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。
ROE=税引後当期純利益÷自己資本
6)ROA(Return On Assets、総資本利益率)
ROAの計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。
ROA=税引後当期純利益÷総資本
7)総資本回転率
総資本回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。
総資本回転率(回)=売上高÷総資本
なお、総資本回転率が悪化する例として、保養所などの売上獲得に直接貢献しない資産を多く所有していることなどが挙げられます。
8)売上債権回転率
売上債権回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。
売上債権回転率(回)=売上高÷売上債権
売上債権は次の式で計算できます。
売上債権=受取手形+売掛金など
9)棚卸資産回転率
棚卸資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。
棚卸資産回転率(回)=売上高÷棚卸資産
棚卸資産とは、販売されずに在庫として会社に残っている資産です。商品・製品の他に原材料・仕掛品なども含みます。棚卸資産回転率が低い場合、在庫過多や不良在庫の恐れがあります。
10)有形固定資産回転率
有形固定資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。
有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産
3 安全性に関する指標7選
1)流動比率
流動比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。
流動比率=流動資産÷流動負債
流動資産とは、現金預金・受取手形・売掛金・棚卸資産など1年以内に回収が見込める資産です。また、流動負債とは、支払手形や買掛金など1年以内に支払う必要のある負債です。
流動比率は、短期的な支出を短期的な収入でどの程度補うことができるかが把握できる指標です。1年以内という基準で資産と負債の比率を見るわけですが、「1年以内に回収できるか、また、支払いが可能かどうか」までは考慮されていません。そのため、資産と負債が同一の状態である100%では安全とは言い切れず、200%以上が望まれます。
2)当座比率
当座比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。
当座比率=当座資産÷流動負債
当座資産は、流動資産から棚卸資産を除いた換金性の高い資産です。
当座資産=現金預金+受取手形+売掛金+有価証券など
受取手形・売掛金は、貸倒引当金を控除した後の値を用います。貸倒引当金とは、取引先の倒産などにより回収ができなくなる可能性がある金額を見積もった値です。
当座比率は流動比率よりも資産の回収可能性を考慮した指標であり、100%以上が望まれます。もし当座比率が低い場合、支払原資に対する短期借入金などの比率が大きいことが分かります。また、当座比率についても回収や支払いのタイミングは考慮されていません。流動比率が高いのに当座比率が低い場合、棚卸資産(在庫)が過剰となっている恐れがあります。
3)手元流動性比率
手元流動性比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。
手元流動性比率(カ月)=(現金預金+有価証券)÷月商
手元流動性比率は、短期的な安全性を見る際に信頼できる指標です。なぜなら、手元流動性は、現金預金とすぐに現金化できる有価証券だけで安全性を評価するからです。一概にはいえませんが、中小企業の場合は1.7カ月以上が望まれます。
4)固定比率
固定比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。
固定比率=固定資産÷自己資本
固定資産とは、建物や土地など1年超にわたって使用される資産です。固定比率は、短期では回収の難しい固定資産が返済期限の定めのない自己資本によってどれくらい賄われているか、企業の長期的な安全性を見るための指標で、100%以下となることが望まれます。
5)固定長期適合率
固定長期適合率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。
固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)
固定負債とは、社債や長期借入金など1年以内に支払う必要がない負債です。固定長期適合率は、長期的な安全性を見るための指標ですが、自己資本に加えて固定負債も考慮していることが特徴です。固定長期適合率は、100%以下となることが望まれます。
6)自己資本比率
自己資本比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。
自己資本比率=自己資本÷総資本
自己資本比率は、総資本のうち、返済する必要がない自己資本が占める割合です。安全性の観点から見ると、自己資本比率は高ければ高いほど好ましくなります。ただし、負債で事業投資をして負債コスト以上の利益を上げている場合、自己資本比率が低くても問題はありません。 そのため、収益性の観点から見ると、自己資本比率が高ければ良いというわけでもありません。
7)負債比率
負債比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。
負債比率=負債÷自己資本
負債比率は、負債と自己資本を比較する指標です。負債比率は、自己資本比率を補完するものですが、安全性分析としては、自己資本比率もしくは負債比率のどちらか一方を分析すれば良いといえます。
4 生産性に関する指標3選
1)労働生産性
労働生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど従業員1人当たりの生産性は高くなります。
労働生産性(円)=付加価値÷従業員数
労働生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。
労働生産性(円)
=(売上高÷従業員数)×(付加価値÷売上高)
=1人当たり売上高×付加価値率
2)設備生産性
設備生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど資産当たりの生産性は高くなります。
設備生産性=付加価値÷有形固定資産
設備生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。
設備生産性
=(売上高÷有形固定資産)×(付加価値÷売上高)
=有形固定資産回転率×付加価値率
3)労働分配率
労働分配率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど生産性は高くなります。
労働分配率=人件費÷付加価値
労働分配率が高ければ、労働生産性が低いか、余剰人員を抱えている可能性があります。
以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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