書いてあること

  • 主な読者:働き方改革などに取り組んだ結果、社員が生意気になり困っている経営者
  • 課題:生意気というだけでは懲戒処分にはできない。でも、どうにか社員の意識を変えたい
  • 解決策:経営者が「会社はなぜ働き方改革などに取り組むのか」「社員に何を期待しているのか」をSNSで情報発信するなどして、社員の気付きを促す

1 社員のための取り組みがかえってマイナスに……?

コロナ禍などで経営環境が劇的に変化する中、「このままではマズい。社員がもっと力を発揮できる会社にしなければ」と、多くの経営者が働き方改革などに取り組んできました。リモートワークやフレックスタイム制で働く場所や時間を工夫し、若手にチャンスを与えるために仕事の権限を委譲し、なるべく本音で話せるようコミュニケーションにも気を使う……。

ただ、残念ながら社員の中には、そんな経営者の苦労も知らず、むしろこうした取り組みをきっかけに生意気になるという、困った人がいます。イメージは、次のような社員です。

  • 働き方が自由になったら、勤務態度までルーズに。服装もマナーも悪化している
  • リモートワークに慣れ、周囲に無関心に。他の人の仕事は手伝わない。挨拶もしない
  • 権限委譲した途端、自分勝手に。誰にも相談せずに仕事を進めてトラブルを起こす
  • 上司は優しくて当たり前だと勘違い。少しでも注意されると機嫌が悪くなる
  • 今以上の働きやすさをさらに会社に要求。要求が聞き入れられないとやる気を失う

経営者としては、働きやすい環境を作った以上、社員にはそれに見合う働きをしてほしいのですが、実は経営者の優しさに甘えるだけで、期待には応えてくれない社員がいるのです。社員に就業規則の懲戒事由に当たる言動(無断欠勤、命令違反など)が見られれば、懲戒処分にして反省を促すこともできますが、生意気というだけではそれも困難です。

腹が立つことこの上ないですが、もしかしたら社員が生意気になった原因は、経営者が

「何を実施するか」にとらわれ、「なぜ実施するか」をおざなりにしてしまったから

かもしれません。「なぜ働き方改革などに取り組むのか」「社員に何を期待しているのか」といった経営者の思いを明確に伝えないまま、取り組み先行で動いてしまったために、社員は会社の取り組みを表面的にしか捉えられないのです。言うなれば「仏作って魂入れず」の状態です。

この状況を打開するには、こうした経営者の思いを、いま一度社員に発信することが必要です。以降で、働き方改革などで生意気になってしまった社員に対する思いの伝え方を紹介します。

2 社員が生意気になるパターンは2つある

経営者の思いの伝え方を紹介する前に、押さえておいていただきたいことがあります。それは社員が生意気になるパターンには、次の2つがあるということです。

  • 本人なりに働き方改革などに適応しようとしているが、「ここまでなら許される」という線引きが間違っていて、結果として生意気に見えてしまっている
  • 働き方改革など環境の変化を機に、隠れていた性格などが顕在化して、本当に生意気になってしまっている

1.と2.の社員の違いを、前述した「働き方が自由になったら、勤務態度までルーズに。服装もマナーも悪化している」というケースに当てはめて考えてみましょう。

1.の社員の場合、服装やマナーが悪化しているのは、「ここまでならフランクにいっても大丈夫だろう」という線引きが誤っているだけの可能性があります。もともと働き方改革などに適応しようという気はあるので、「自分は間違っていたんだ」と気付けば考えを改めてくれることが期待できます。ですから、経営者が考えるべきは、

1.の社員に焦点を当てて、働き方改革などに関する自身の思いを積極的に発信すること

です(こちらは第3章で具体的な方法を紹介します)。

一方、2.の社員の場合、働き方が自由になり、上司の監視の目が緩くなったことなどが原因で、もともと持っていた自分勝手な性格や怠惰な性格が顕在化してしまった可能性があります。もちろん、誰しも自分勝手な部分や怠惰な部分はありますが、もともと持っている性格というのは、経営者が思いを伝えるだけではなかなか改善されません。従って、

2.の社員については「最悪、分かり合えなくても仕方がない」とある程度割り切った上で、仕事に支障が出ない環境を整えること(上司の目の届くオフィスで仕事をさせるなど)

が必要な場合もあります。

3 大きなメッセージと小さなつぶやきを組み合わせる

経営者が自身の思いを社員に伝えたいとき、真っ先に思い浮かぶのは「朝礼」でしょう。社員が一堂に会するタイミングで、例えば次のようなメッセージを発信するイメージです。

これまで働き方改革などのため、さまざまな取り組みを実施してきました。ただ、それは「皆さんを甘やかすため」ではなく、「皆さんがもっと力を発揮できるようにするため」です。皆さんは今、本当に力を発揮できているといえますか? 会社が働きやすさを提供する代わりに、皆さんは何をしてくれますか?

もちろん、こうした問いかけをするだけでも、多くの社員は一旦、自分の言動を顧みようとするでしょう。ただ、こうしたメッセージはその場では社員の心に響いても、時間がたつと次第に印象が薄れてしまうものです。

そこでお勧めしたいのが、こうした大きなメッセージを発信するのとは別に、小さなつぶやきをこまめに発信するという方法です。イメージは、

社員全員が閲覧可能なSNSに、経営者個人のつぶやきを発信する「社長チャンネル」などを作って、経営者のうれしかったことや疑問に思ったことなどをこまめにつぶやく

というものです。例えば、

  • クライアントを訪問した際、受付の人の対応がとても心地よかった。やっぱり笑顔って大事!
  • プライベートは大事! でも、仮に3人で20分残業すれば終わる業務を1人でやろうとしている人がいたら、自然とその人に手を差し伸べられる社員が私の理想です

など、日々の業務に関連したちょっとしたつぶやきは、社員も情景を思い浮かべやすく、納得感があります。

4 職務記述書(ジョブディスクプリション)も活用する

職務記述書(ジョブディスクリプション)とは、

社員が担当する業務内容やその難易度、必要なスキルなどの職務内容をまとめた書類

です。専門職採用や中途採用などの際に使われる書類ですが、すでに雇用している社員の職務内容が配置転換や雇用形態変更などで変わった際にも活用できます。

職務記述書は、あらかじめ特定の職務をこなせる社員を雇用する「ジョブ型雇用」の考えに基づく書類であり、

職務記述書に記載された職務をこなせることが、社員としての最低条件

になります。このことを社員に説明した上で、「経営者が社員に何を期待しているのか」をジョブディスクリプションに落とし込めば、社員を経営者の理想とする方向へと引っ張れます。

例えば、中小企業の経営者や実務担当者向けのWebコンテンツを製作する会社がライター職の職務記述書を作成する場合、職務記述書に「期待される特性」などの欄を設けて次のような記載をすることが考えられます。

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以上(2023年3月)

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画像:metamorworks-shutterstock 

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