近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若手の行動とのすれ違いによるものがほとんどです。しかし、若手に対して「けしからん!」と怒ったり、「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。

本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。

  • オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
  • ギャップやストレスの正体を分析
  • 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察

という3ステップで、指導の妨げとなるストレス解消のヒントを探っていきます。

1 ねえ、人の話ちゃんと聞いてくれている?

オトナのイライラ・モヤモヤ
ある作業を頼んでおいた。どこまで進んでいるかを確認すると、全然違う作業をやっていた。まただ。こんなことが頻繁に起こる。反抗的な様子は全くないし、サボっていたわけでもなさそうだし。でも、本人に悪意がないからといって、これじゃ仕事を任せられない。返事だけはいいんだけどな……。

若者のホンネ
「どうして言われた通りにやらないんだ」と怒られても……。自分では、言われたようにやったつもりですけど。出された指示についてメモも取って、ちゃんと聞いていますし。返事だけいいって言われても、前向きに返事して、なんでイラッとされるんですか。めっちゃヘコみます。

本人は、人の話を聞いているつもりなのに、実際はちゃんと聞いていない。そんな若手の部下にイラモヤするオトナ世代はとても多くいます。冒頭のケースは、ひょっとして、上司の指示に問題があるのかもしれません。しかし、こうしたコミュニケーションのすれ違いの根底には、「聞く力」に問題があることも多々あります。

2 聞いているつもり症候群

「聞く力」に問題を抱える人物は、もちろんどんな世代にも一定数いるものです。しかし、ここで取り上げる、いわば「聞いているつもり症候群」のような問題は、若者の間で増えているという指摘があります。その原因のひとつとして考えられるのが、実はSNSなのです。
自分の話をしているときの人間の脳は、年齢や性別にかかわらず、おいしい食事やお酒を楽しんでいるとき、あるいは性欲を満たすときと同じように、快楽物質のドーパミンが分泌されるといわれています。だから人間は、元来、聞くことより、話すことのほうが好きなんです。
米国の科学雑誌の記事によると、人の会話の60%が自分に関することだといわれています。それがSNSでの会話になると、80%までアップするそうです。
今はSNSで自分をどんどん発信していく時代です。特に若者は、自撮り写真や自分の主張を、不特定多数の人にシェアすることに抵抗がない。というか、積極的にアウトプットします。

一般的には、年齢が上がれば上がるほど、人の話を聞かず、自分の話ばかりすると考えられています。オトナ世代が話すことで「快楽」を感じているのは、明らかです。
しかし若者は、SNSを通じて自己アピールする習慣によって、オトナ世代が話すことで感じている(のと同等か、それ以上の)「快楽」を覚えてしまったのです。これでは、聞くことが苦手になっても仕方がありません。

こうして「聞く力」が身に付かないと、冒頭のケースのように、間違った方向に仕事を進めてしまう危険性は高まりかねません。
これだけでも相当ストレスですが、もっとイライラ・モヤモヤするのは、ミスを修正しようと注意しているのに、一向に改善されず、同じミスを頻発してしまうといったケースでしょう。


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3 何度注意しても直らないのはなぜ?

オトナのイライラ・モヤモヤ
人には失敗やミスはつきもの。そういう経験から学んでいけばいい。そう思ってはいてもさ、1回や2回という程度ではなく、何度も何度も繰り返されると、やっぱり、イラッとするよね。何度注意しても、同じミスを繰り返してしまうって、こっちの言い方に問題があるってこと?

若者のホンネ
何回も注意されたことを何回もミスするってことは、申し訳ないと思ってます。でも、ホンネ言っていいですか。注意されるたびに思うんですけど、それって、そこまで大事なことなんですかね。

成長していく過程での失敗やミスは、どんな人にでもあります。どちらかというとわれわれオトナ世代は、臆病な若者に「もっと失敗してほしい」とさえ感じています。しかし何度注意しても、同じミスを繰り返されると、さすがに萎えますよね。

例えば、口では謝罪しているけれども、実際には具体的な改善行動が見られない。こういうケースの場合は、若者はミスったことを「自覚」してはいるものの、実はオトナが期待している「自覚のレベル」とギャップがある可能性が考えられます。

4 そもそも改善の度合いにギャップ

例えば、遅刻したときの例で考えてみましょう。
「遅刻は良いことか? 悪いことか?」と聞いたときに「遅刻は良いことだ!」と手を挙げる社会人は、(おそらく)いません。しかし「どのくらいの遅刻が良くないことか」という認識は、個人差がかなりあるはずです。
「約束の30分前には待ち合わせ場所の近くにいて、絶対遅れないようにする!」と思って行動する人と、「待ち合わせの時間から5分くらいの遅れは、遅刻に入らない」と考えて行動する人。両者の遅刻に対する認識の度合いには、大きな隔たりがあります。
「遅刻してはいけない」と注意したとしても、後者は「5分くらいの遅刻なら許容範囲」と思っているのですから、まるで改善したようには見えません。つまり、自分の行動は間違っていると本人が認識していたとしても、その認識の「度合い」がオトナと同じ水準でなければ、期待しているような改善行動には映らない、ということです。

では、なぜ、ミスに対する度合いのギャップが埋まらないのか。ここが、今どきの若者の厄介なところです。
知らないことが恥ずかしいと考えて自己開示をためらう人は、質問することが、極めて苦手です。こんなことを聞いたら、そんなことも知らないバカだと思われる――。こうした若者の価値観が、何度注意しても、同じミスを繰り返してしまうことの原因のひとつであることは間違いありません。

5 イライラ・モヤモヤ解消法

そもそも聞くより話したい。また、どうすればよいか、質問するのが怖い。
どうにも若者は「聞く」のが苦手なようです。では、どうすれば若者が「聞く力」を身に付けられるのか。その答えは、われわれオトナが「聞く力」を鍛えることです。

話を聞いてもらうベースは、われわれが好感や興味を持ってもらうことです。つまり若者にとって、われわれが「話を聞きたいと思う存在」だと認識されることが、本質的な解決策なわけです。オトナが話しているばかりでは、共感は生まれません。若者の話を聞く姿勢をきちんと示すことが重要です。

また、若者が改善について質問できない=自らアプローチして、失敗やミスのレベルを擦り合わせるのが苦手なのだとすれば、オトナのほうから歩み寄るしかありません。
ミスをした若者が、そのミスをどのように捉えているのか。もっと言うと、どんな度合いで捉えているのか。これを知ることが、本質的な改善を生み出すアプローチのヒントになります。ぜひ、一歩踏み込んで聞いてあげてください。

とはいえ、聞き出せたとしても、オトナが期待する問題意識や行動改善のレベルまで持っていくのは、すぐには難しいかもしれません。
まずは「ここまでは改善してほしい」レベルまで、若者本人が行動を改善する「必要がある」と認識できるよう会話をしていきしょう。一歩一歩、具体的に改善の度合いを擦り合わせていってください。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年3月3日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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