他の家に仕えておくれを取った士卒がいれば、わしの方にきて仕えるがよい。うって変わって逸物にしてやろう
立花道雪は戦国時代、九州の大名である大友家の柱石として、73歳で病死するまでこれを支え続けた武将です。若い頃に落雷に遭って下半身不随になるも、士卒に輿(こし)を担がせて戦場で指揮を執ったほどの勇猛な人物で、戦場で味方が劣勢のときにも「わしを敵のただ中にかつぎ入れろ。もし命が惜しくば、そのあとで逃げろ」と号令して士卒たちを奮起させ、常勝を誇ったといいます。
道雪は常々、「本来弱い士卒というものはいないものなのだ。もし弱い者がおれば、その人が悪いのではなく、その大将が本人を励まさないことに罪がある」と語り、冒頭の言葉を述べました。
道雪は部下を逸物(すぐれた者)に育てるため、何より部下を大切に扱い、愛情を注ぐという方法を採りました。戦場で活躍できていない部下には、「あなたが弱い人間でないことは分かっているから、焦らなくていい」と励まし、武具などを与えます。また、客を招いた席で若い部下が粗相をした際は、「(この者は)ただいま不調法いたしましたが、軍に臨めば火花を散らして戦います。槍(やり)は家中随一の腕です」とフォローします。道雪からこうした扱いを受けた部下たちは、道雪のために何とか役に立ちたい、命も惜しくないと思い、逸物に育っていったのです。道雪が育てた部下の支えを得て、道雪の養子である立花宗茂は、江戸時代に九州・柳河藩の藩祖となりました。
現代でも、会社に貢献できない社員は、本人の能力や努力不足といわれがちです。ですが、道雪のようなリーダーは、異なった見方をします。
社員を活躍させてあげられないのは、社員自身よりも、トップや上司、さらには会社そのものに問題があるのではないかと考えるのです。そのような視点に立っていれば、上司が部下に、「どうしてパフォーマンスが悪いのか」と責める前に、まずは「どうして自分は部下のパフォーマンスを上げられないのか」を問うはずです。
社員が組織になじめなかったり、仕事の内容が入社当初の想定と違っていたりして、会社を去っていくというのは、ビジネスではよくあるケースです。しかし、それを当たり前と捉えて「たまたま辞めた社員が会社に合わなかっただけ」と結論づけるよりも、「この会社には、その社員を活躍させられるだけのキャパシティーがなかった」と考えて社内体制を見直していったほうが、次の採用に活かせますし、会社の成長にもつながります。
むしろ、自分たちに都合の良い人材しか活かせない会社には、今後人が集まらなくなる恐れがあります。国内では人口減で労働人口が減る上に、国際化の進展によって海外で働くハードルが下がりつつあるからです。
SDGsの原則である「誰一人取り残さない」という言葉も、道雪の視点と重なる部分があるといえます。世界の流れは、取り残された側ではなく、取り残した側が“しっぺ返し”を受ける方向に進んでいるといえるかもしれません。
出典:「名将言行録:現代語訳」(岡谷繁実原著、北小路健、中澤恵子訳、講談社、2013年6月)
以上(2023年3月)
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