書いてあること
- 主な読者:「PR活動は大企業のやるもの。中小企業には関係ない」と考え、PR活動をしたことのない中小企業
- 課題:PR=大掛かりで素人には難しいという先入観がありハードルが高いと誤解している
- 解決策:コスト、手間、人員を最小限に抑えて始められる。適切な記者と掲載媒体に、適切な情報を適切な方法で伝えれば、大きな宣伝効果が得られ、営業もしやすくなる
1 PR活動は営業が「売りやすく」なる後押しをしてくれる!
皆さんの会社では、PR活動をしていますか? PR活動をしたことのない中小企業の方々は、「PR活動は大企業のやること」などと考えていないでしょうか。中小企業がPR活動に抱きがちな、下記の先入観。実は、これらは全て誤解です。
- PR活動は大企業のやること。中小企業には関係ない
→中小企業もPRに成功すれば大きな効果を得て、営業がしやすくなる - 良い商品・サービスを作っているから、PRなんて必要ない
→良い商品・サービスでも、情報発信をしないと伝わらない。だからこそ、PRすべき - 自分で「すごい」と吹聴するなんて恥ずかしい
→「すごい」と評価するのは記者や顧客であって、会社は情報を伝えるだけ - 芸能人を呼んで、大きな会場で発表会? うちにはムリ
→PRは規模の大きさではなく、情報の届け方を工夫することによって成果につながる
中小企業に適したPR活動のやり方がありますし、良い商品・サービスだからこそ、効果的なPR活動によって話題になれば、より高い効果が見込めるのです。
「せっかくの良い商品・サービスを提供する会社が消えていき、情報発信の巧みな会社が生き残るのを見てきました」と語るのは、企業のPR・マーケティング支援をするビーコミの代表取締役の加藤恭子さん。『話題にしてもらう技術』(技術評論社)の著書もある加藤さんは、中小企業の経営者の皆さんに、
「まずは小さく始めてみませんか?」
と提言します。小さく始めても、
話題になれば、「あの商品ですね」で話が通じ、営業もしやすくなる
と言います。
この記事では、中小企業が成果を得られるPR活動について、記者と企業広報の双方の経験を持つ加藤さんにお話しいただきます。皆さんの会社がPR活動を始めるきっかけになれば幸いです。
2 小さく始めるPR活動とは?
1)まずは他社の情報発信を参考にする
PRというと、大企業が行い、テレビなどでも放送される、ゲストに芸能人が登場するようなイベントをイメージするかもしれません。しかし、商品・サービスの取材を目的に訪れた記者たちの本音はというと、「芸能人に食いつくのは芸能記者だけ」「商品やサービスの情報が欲しいのに」という声が聞かれます。商品・サービスについて書きたい記者にとって、欲しい情報でなければ、いくら旬の芸能人を呼んだところで記事などに取り上げられにくいでしょう。それならばエンジニアが、商品の裏側やスペックについて、詳しく技術説明をするほうが望ましいのです。大切なのは、
「発信する内容が、自社の商品・サービスを届けたいユーザーにマッチしているのか?」という視点
です。
自社の商品・サービスでハッピーになるのはどんな人たちなのか。そして、まずは、
顧客(や販売代理店)となり得る人たちが、どこで情報を得ているのかを見ること
から始めましょう。業界紙かもしれませんし、特定のウェブ媒体かもしれません。
また、うまく情報発信をしている他社が、いつ、どこで、どのように情報発信しているのかを見るのも第一歩です。Twitterのアカウントを作って、つぶやかずに、まずは他社のアカウントの発信を見るだけでもよいでしょう。
2)きらびやかな記者発表会ではなく、地道な勉強会・説明会を積み重ねる
1.新商品がなくても開催できるメディア向け勉強会
発表会という形式にこだわる必要はありません。また発表できる新商品が頻繁にあるとも限らないでしょう。そこで、新商品を主役として押し出すのではなく、業界動向や周辺知識など、記事を書くのに役立つ情報を学べる勉強会や説明会という形式を取るのです。ポイントは、
前提となる知識がなくても参加できることを記者に伝え、参加のハードルを下げること
です。例えば、IT関連のサービスを提供する会社であれば、セキュリティーの勉強会としてランサムウェアをテーマに、近年の被害状況や対策などを学んでもらいます。少人数の技術説明会という形式を取ることもあります。こうした勉強会に参加する記者は、情報感度が高く熱心な人が多いものです。その分、良い記事につながりやすいでしょう。
参加した記者たちからは、「発表会だと、主催した会社からも、また社内からも、記事執筆を期待されてしまうプレッシャーがある。勉強会ならば、聞いてみて、内容が良ければ記事にしようという気軽さで参加できるからよかった」という声もあるそうです。
2.副業ライター・フリーライターの力を借りる
開催時間や曜日も工夫しましょう。昨今は副業やフリーランスのライターも増えているので、平日の夜間や週末に行うことで参加しやすくなります。メディア単位でPR対象者を考えることも大切ですが、
「人」単位を対象に考えると、意外にPR先が広がる
ものです。なぜなら、副業やフリーランスのライターは、複数のメディアに寄稿していることが多く、1人へのアプローチが多くのメディア掲載につながり得るからです。
このような勉強会を地道に積み重ねることで、「もっと掘り下げたい」と大きなインタビュー記事につながった事例もあれば、1回の勉強会ですぐに記事になった事例もあります。後者は、業界では当たり前のこととして言及してこなかった商品の機能について説明したところ、記者は「目新しい情報」と判断して記事になりました。このように、業界の常識として「言うまでもないことだ」と思い込んでいる事柄でも、受け手が変われば、全く新しい情報となり得るのです。例えば、このメディア向け勉強会・説明会も、PR活動をしている人には当たり前で、今更説明する必要はないのかもしれません。しかし、初めて聞く人にとっては、新鮮でニュース性のある情報ではないでしょうか。
3)「出したい」情報と「欲しい」情報の距離を縮める
会社の「出したい」情報と、ユーザーの「欲しい」情報が乖離(かいり)していることが、かなりの頻度で見られます。記者は読者の欲しい情報を提供したいのですから、もちろんユーザーの目線で情報の価値を判断します。会社と記者(ユーザー)の「情報に対する価値」のギャップを縮めることが必要です。
また、昨今は過剰なターゲティング広告やステルスマーケティングに対して厳しい目が向けられています。それは「欲しい」情報が適切に届いていないからともいえるのではないでしょうか。届け方を間違うと「しつこい」情報として嫌われてしまいますが、欲しい情報が、欲しいときに、欲しい形で提示されれば、途端に「うれしい」情報に変わるものです。
そもそもPRとはpublic relationsの略で、メディアなどを介して情報を適切な相手に届けることで、公衆との関係を構築することを指します。PR活動を始めると、自社の商品・サービスをより欲しているユーザーへ情報が届きやすくなります。
4)タイミングよく情報を届けるコツ
情報を届けるタイミングは、
- ユーザーが欲しいとき
- 会社が出したいとき
の両方を考慮する必要があります。両者が合致するタイミングがあれば、なおよいでしょう。また、1回出して終わりではなく、継続的な情報発信をこまめに続けていくことが大切です。ニュース記事には、よほど季節外れといったもの以外は、特に時期を問わないことが多いです。なお、お盆やお正月の少し前など、他社の情報提供が減る時期にあえて情報提供を行うと、ライバルが少なく取り上げてもらいやすくなります。
また、タイムリーにメディアへ情報を届けるコツとして、
例年繰り返されている特集に着目する
方法があります。雑誌や業界紙では、例年同じ時期に似たテーマの特集が組まれる傾向があります。バックナンバーを見て、例えば「3カ月後に半導体特集が組まれそうだな」というものがあれば、それに合致した情報をメディアへ提供してみるとよいでしょう。
3 会社や経営者のメッセージ・ストーリーを伝えてみよう
ユーザーや記者が知りたい情報はさまざまで、会社側が思うよりも幅広いものです。例えば、次のような情報は、会社が思っている以上に、ユーザーや記者にとって価値があるものです。
- 商品・サービスの誕生秘話
- 工場の従業員がどんな思いで作っているか
- 商品の仕組み
- ユーザーの声
- 経営者の方針や理念
会社や経営者のメッセージやストーリーを伝えていきましょう。「うちの会社にストーリーなんてないよ」と思う経営者がいるかもしれませんが、
どんな会社や経営者、商品・サービスにもストーリーはあります。
また、
商品・サービスには必ずある、誰かの困り事を解決したり、豊かさにつながったりしている部分を伝えていく
のも、PRの大きな役割です。
ストーリーを「棚卸し」するには、社内でも社外でも構いませんので、客観的に聞き手になってくれる人との対話を通していくと、思わぬ気付きを得られたり、言語化されていったりするでしょう。メッセージやストーリーに引かれて、商品・サービス、ひいては会社を好きになってもらえれば、ユーザーは「少し値が張るとしても買おう」という気になるものです。
4 ユーザーとの架け橋に 中小企業に無理のない体制
1)PRの業務は兼務からでもOK。ただし「評価される仕組み」は必要
商品・サービスについて、問い合わせ窓口として、総務担当者を配置している会社は少なくありません。しかし、その場合、2つの問題があります。
- 「問い合わせがあったときの対応」という受け身になっていること
- 業務外の役割を兼務する形になっていること
2つ目については、隙間時間に片手間にやる雑務としてではなく、きちんとその人の業務として与え、評価にもつながる仕組みにすべきです。またその分、他の業務量を減らす工夫も必要です。そうでなければ、「本来の業務ではないのに」と不満が募りかねません。
最初は兼務でよいですが、PRの効果が出てきて、取材依頼など業務量が増えたところで、専任者を考えましょう。ただ、昨今のスタートアップやベンチャー企業では、早い段階で専任のPR担当者を置く流れになってきています。それだけPRの重要性を感じているのだといえます。
2)秘書がPR担当を兼務すると失敗するワケ
秘書がPR担当を兼務して失敗するケースも見受けられます。その原因は、
秘書兼PRが、会社・経営者のほうばかりを向いてしまい、客観的な視点を持てないから
です。会社・経営者のことを大好きな秘書がPR担当になること自体は問題ありません。ただし、経営者に対して、「今、会社・経営者は、世間からこう見えていますよ」と客観的に言える人でなくてはなりません。そうでないと、例えば時代にそぐわない発言をしてしまうといった経営者の行動を事前に止めることができなかったり、お詫び文書をタイムリーに出すことができなかったりと、リスクにつながりかねないからです。
加藤恭子(かとう きょうこ)
株式会社ビーコミ 代表取締役
IT系月刊誌、ウェブメディアでの記者・編集者を経て、外資系テクノロジー企業の日本法人立ち上げに参画。マーケティングマネージャーを経て、現職。記者として取材する側、企業の広報として取材される側、両方の経験を活かし、スタートアップから多国籍企業まで企業のPR/マーケティングを支援。テクノロジー企業の広報の実務支援やアドバイス、コミュニケーション活動のサポートを多く手掛ける。著書に『話題にしてもらう技術』(技術評論社)がある。
ホームページ:https://www.b-comi.jp/
以上(2023年2月)
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画像:Tierney-Adobe Stock