書いてあること
- 主な読者:経費精算に慣れていない新入社員や若手社員
- 課題:経費精算に必要な領収書を無くしたり、締め切りの後に領収書が見つかったりすると困ってしまう
- 解決策:経費精算に領収書は必須だが、必要事項を記載し、かつ社内ルールに沿った手続きを踏めば経費精算できるなど、さまざまな取り扱いやルールを事前に知っておく
1 なぜ、経費精算はしないといけないのか?
経費精算は仕事で立て替えたお金を請求する行為ですが、この他にも、会社の利益を正しく計算するための手続きという側面があります。
会社の利益は、売上から費用を差し引いて計算します。つまり、経費精算によって費用を把握して利益を求めているのです。また、経費精算は期限内に行わないといけません。法人税の申告は、原則として、決算日から2カ月以内に行うので、それに間に合うように経費精算をする必要があるのです。
いかがでしょうか。経費精算の役割が理解できたと思います。経費精算という行為はシンプルですが、領収書を無くしてしまったり、締切後に未精算の請求書が見つかったりと判断に迷うこともあります。そこで、この記事でよくある請求書の迷いポイントと対応を紹介します。
大切なポイントは、
会社のルールを確認すること
です。効率性やシステム上の作業工程の違いなどから、会社独自のルールを定めていることも多くあります。
2 領収書を無くしたら請求できる?
領収書を無くしたら、まず領収書の発行先に再発行をお願いします。それに応じてくれない場合は、会社に確認をしてから、支払ったことが確認できる書類で代替します。例えば、
- クレジットカードの利用明細書
- IC乗車券の利用履歴
- 振込の場合は通帳のコピー
- 支払いをした日付
- 支払いをした相手先
- 支払った金額
- 支払いの内容(支払いの目的や、購入した商品名など)
- 請求書が添付できない理由
などがあります。支払ったことが確認できる書類もない場合は、
を書いた書類を作成して経費精算することができます。まずは領収書を失くさないことが重要で、万が一失くしてしまった場合は、会社のルールに沿って精算するようにしましょう。
3 締め切りが過ぎた未精算の領収書は請求できる?
経費精算の締め切り後に領収書が見つかったら、すぐに経理担当に報告しましょう。その後は、経理担当の指示に従って、精算手続きをします。ただし、
決算期をまたぐ精算は難しくなることが多い
です。また、どんなことがあっても、領収書の日付を修正するなどして、ごまかしてはいけません。税務調査(税務署などが会社の税金の申告内容をチェックしにくること)などでは、日付は金額同様、厳重にチェックされます。
4 電子データの請求書しか発行されない場合はどうする?
電子データの請求書しか発行されない場合の対応は、会社が領収書を電子化するための経費精算システムを導入しているか、していないかによって対応が違います。
1)経費精算システムを導入している場合
経費精算システムを導入している会社では、請求書を電子データで入手して、システムの手順に従ってクラウドなどにアップロードします。そのため、システムの使用方法についてしっかり理解するようにしましょう。
2)経費精算システムを導入していない場合(紙の経費精算書で精算する場合)
法律により、電子データによる請求書は、電子データの状態で保存することが原則です(システムなどの準備ができていない企業については、2024年1月1日以降義務化)。そのため、電子データを印刷した紙の請求書だけでは不十分です。
電子データによる請求書は、会社に提出して保存する方法や、従業員のパソコンで保存する方法などがあります。紙による経費精算書を提出したあとでも、電子データによる請求書は削除せず、会社のルールに沿って必ず保存するようにしましょう。
5 仕事の本を自分のスマホにダウンロードしたら請求できる?
経費精算できる「経費」とは、
事業に必要で、かつ会社の所有物となるものに限られる
ため、私的な目的で発生した経費は精算できません。
これを本のケースで考えると、経費精算の対象となるのは、会社が所有する業務用の電子書籍デバイスやアカウントで業務に関連する本を購入した場合に限られます。たとえ、仕事に必要な本であっても、自分のスマホなどにダウンロードしたら、原則として、経費精算の対象とはなりません。ただし、会社によって別のルールが定められている場合もあるので、確認してみましょう。
6 外出中に私用で寄り道をした交通費は請求できる?
外出先から自宅に直帰する場合、外出先から通常のルート(最短・最安のルートで検索されたものなど)で帰宅をした部分が精算の対象となります。私用で寄り道をして帰宅した場合には、寄り道分を含めて請求してはいけません。ただし、会社によって別のルールが定められている場合もあるので、確認してみましょう。
7 激混みの新幹線でグリーン車に乗ったら請求できる?
多くの会社は、役員や一定以上の役職者に限ってグリーン車に乗ることを認めています。それ以外の従業員がグリーン車に乗ったら、普通車料金しか精算できません。しかし、「普通席が満席でグリーン車しか空いていない」など特別な事情がある場合は、経費精算が認められる場合があるので、会社のルールを確認してみましょう。
8 インボイス制度が始まったら経費精算で何に注意する?
2023年10月1日にインボイス制度が始まった後は、法律で決まっている事項が請求書(インボイス)に記載されているかどうかを確認しましょう。再発行に手間がかかることから、請求書(インボイス)を受け取る従業員自身も、受取時に要件を満たしたインボイスかどうかをチェックするよう気をつけなければなりません。
インボイス制度の導入により、新たに記載が必要になる項目は、
- 軽減税率の対象品目である旨
- 税率ごとに区分して合計した対価の額
- 税率ごとに区分して合計した消費税額等
- 請求書発行者の登録番号
の4項目(下図表の赤字部分)です。
また、請求書受領者の宛名欄には、「従業員の氏名」や「上様」といった表記ではなく、できる限り会社名で記載してもらうようにしてください。
その他に、少額であることや取引の特徴からインボイスの受領が必要ないケースがあります。一般的な経費精算として出てくる項目でインボイスが不要となるものには次のようなものがありますので、チェックしておきましょう。
●3万円未満の公共交通料金
例:鉄道、バス、船舶に限る(航空機やタクシーはインボイスが必要)
●3万円以上の公共交通料金で乗車券が回収されてしまうもの
例:特急料金込みだと3万円以上となるが、切符がJR等に回収されてしまうケース
●3万円未満の自動販売機および自動サービス機からの商品の購入等
例:自動販売機でのジュースの購入、コインロッカーの使用等
以上(2023年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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画像:Andrey Popov
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