書いてあること
- 主な読者:飛沫感染の防止のためにアクリル板を設置していた飲食店など
- 課題:アクリル板が不要になったので処分したい
- 解決策:アクリル板は産業廃棄物として処理する。SDGsを意識するならリサイクルも可能
1 不要になったアクリル板。つくる責任、つかう責任
新型コロナウイルス感染症は、感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザなどと同じ「5類感染症」に変更されました(2023年5月8日)。これに伴い、コロナ禍で実施してきた感染対策の見直しが進み、アクリル製のパーティション(以下「アクリル板」)の撤去が進んでいます。ここで問題となるのが、不要となったアクリル板の処理ですが、保管するには場所をとるので、結局、廃棄せざるを得ないでしょう。
この記事では、要らなくなったアクリル板を処分する際のポイントと、リサイクルの可能性を探っていきます。この取り組みは、SDGsの12番目のゴールである「つくる責任、つかう責任」にも関係してきます。
2 アクリル板は産業廃棄物
飲食店などが使ったアクリル板は、
産業廃棄物(廃プラスチック類)になるので、一般ごみとして捨てることはできない
ことになっています。そのため、適切な産業廃棄物処理業者(以下「処理業者」)に収集運搬や処分を委託しなければなりません。通常、処理業者はアクリル板のサイズと枚数、引き取り場所(建物の階数やエレベーターの利用可否、駐車スペースの有無)などを基に、収集運搬や処分の費用を算出します。東京都内のある処理業者にヒアリングしてみたところ、
縦60センチメートル×横1メートルほどのサイズのアクリル板が数枚程度の場合、付近に駐車しているトラックまで持参してもらう条件で、1枚2000~3000円の費用感になる(4月21日現在)
ようです。
なお、環境省は5類感染症への変更に合わせ、4月28日に処分についての情報提供を開始しました。
■環境省「不要になった新型コロナウイルス感染症対策の備品等(パーティション等)について」■
https://www.env.go.jp/recycle/waste/infect_contr.html
3 アクリル板はリサイクルできる?
処理業者の中には、主に廃プラスチック類の収集運搬を行うプラスチック回収業者や、主に廃プラスチック類の中間処分を行うリサイクル業者があります。廃プラスチック類は、次の3つの方法でリサイクルされています。
1.サーマルリサイクル(エネルギー回収)
廃プラスチック類を焼却し、発生した熱を発電や熱源に利用します。
2.マテリアルリサイクル(再生利用)
廃プラスチック類を洗浄、粉砕し、粒状化したものを溶融して再製品化します。
3.ケミカルリサイクル
廃プラスチック類を化学反応によって分解し、高炉・コークス炉原料として利用したり、ガス化、油化したりします。
2020年の国内の廃プラスチック類の有効利用率は次の通りです。
環境省リサイクル推進室へのヒアリングによると、アクリル板を含むアクリル製の廃プラスチック類について次のようなコメントが得られています。
これまでは海外輸出や焼却(サーマルリサイクル含む)、埋め立て処分が大半でした。マテリアルリサイクルをしている事業者は少なく、ケミカルリサイクルには多額の設備投資が必要なので、なかなか進みませんでした。
4 マテリアルリサイクルの好事例
緑川化成工業(東京都台東区)は、アクリル製品のマテリアルリサイクルをしています。プラスチック関連製品の加工・成形をしている同社は、国内で初めてエコマークを取得した再生アクリル板「リアライトRE」を約20年以上にわたって市場で展開しています。
「リアライトRE」の再生原料含有率は約80%。原料を再利用するため、本来のアクリル製品の製造よりも工数が少なく、初期製品とくらべてCO2排出量を71%削減できるそうです。
アクリル製品のマテリアルリサイクルは、
アクリル素材の回収→粉砕→溶解→再原料(ペレット)化→再生アクリル板などに成形
というフローで、再度市場に展開されます(図表2参照)。
アクリル板は、製造方法によって
- マテリアルリサイクルができる押出板
- マテリアルリサイクルができないキャスト板
に分かれます。ただ、製品になった状態で両者を見極めるのは難しく、この点がアクリル板の再原料化の難関です。そのため、これまでの同社の再原料化は、事前に選別された工場内端材(プレコンシューマー材)を主原料としていました。今後はアクリル板の大量廃棄を想定し、
2023年10月から独自技術による識別ラインの稼働を予定
しているそうです。
■緑川化成工業■
https://www.midorikawa.co.jp/
5 ケミカルリサイクルの可能性
ケミカルリサイクルは、2021年に三菱ケミカルと住友化学が参入し、実証設備を新設し終えたところです。三菱ケミカルは、2023年3月にアクリルグッズ等再生利用促進協議会に発起人として参画しました。同協議会はアクリル製品の再生利用を促す啓蒙活動と回収活動を行っており、活動の中で回収したアクリル製品は、三菱ケミカルがリサイクルをします。
また、住友化学は、2023年春からケミカルリサイクル品のサンプル提供を開始し、事業化に向けた取り組みを進めています。
■アクリルグッズ等再生利用促進協議会■
https://lucca-tokyo.co.jp/acrylic-recycling-pc/
6 (参考)アクリル板を保管しておく際の注意点
新型コロナウイルス対策を助言する厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」は、感染再拡大に備え、アクリル板について当面の保管を提唱しています。保管は次のようにして、ダンボールなどにまとめておくとよいでしょう。
- 表面が傷つきやすいので、積み上げた状態で埃が付かないように覆いをする
- たわみやすい性質があるので、斜めに並べず平積みする
- 保管場所は温度が50度以下の場所で、なるべく紫外線が当たらず、湿度の低い場所にする(50度を超えると変形するおそれがある)
以上(2023年6月)
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画像:maroke-Adobe Stock