今日は、日本の卓球界を題材に、「世代交代」というテーマで話をしたいと思います。

2023年5月には、卓球界において注目すべきニュースが2つありました。1つは、過去オリンピックに3大会連続で出場し、メダル3つを獲得した石川佳純(いしかわかすみ)さんが、現役引退を表明したこと。もう1つは、世界卓球2023南アフリカ大会の女子シングルスで、早田ひな(はやたひな)さんが、実に58年ぶりに中国人選手に勝利してのメダル獲得を成し遂げたことです。私は卓球に関しては素人ですが、それでもお二人のこれまでの試合や会見の様子を見ていて、「あぁ、なんて格好いい世代交代なんだろう……」という思いに駆られました。

石川さんの引退会見の印象は、一言で言うなら「爽やか」でした。「自分自身、やりきったと思えた」というポジティブな引退理由もそうですし、会見中に彼女が言った「結果が出なかった時、そこからがスタート」というメッセージには、長い現役生活の中で数々の挫折を経験し、それでも前を向いて進み続けた彼女の卓球人生が集約されているようで、胸が熱くなりました。

次は、早田さんです。小学生の頃から石川さんに憧れ、共に団体戦に出場した経験もある早田さんは、石川さんが引退を表明した際、「自分が卓球界を受け継げるようになる」という思いをコメントし、2023南アフリカ大会にて、銅メダル獲得という形でその思いを結実させました。

早田さんが石川さんから受け継いだのは、卓球界をけん引する立場だけではありません。早田さんは準決勝で惜しくも世界ランキング1位の選手に敗れましたが、彼女は試合後、悔し涙を浮かべながら、「努力しか私はできない。努力がいつか報われるように、最後の最後まで努力し続けたい」と語りました。私はこの言葉を聞いて、石川さんの「挫折をバネに再スタートを切る」という思いに重なるものがあるように感じました。きっと、憧れの対象であった石川さんの「格好いい背中」を見てきた早田さんには、石川さんの「イズム」がしっかりと受け継がれているのでしょう。

さて、皆さん。皆さんは「世代交代」という言葉を聞いて何を連想しますか。会社に勤めていると、仕事の引き継ぎなど事務的なものを連想するかもしれませんが、私はそれ以上に引き継ぐべきものがあると思っています。それが、まさに石川さんのような「格好いい背中」です。

先達が長い時間をかけて後進に見せてきた、仕事に取り組む姿。その背中には、先達が大事にしてきたこだわりや信念、つまり「イズム」が表れます。これらは言葉で教えられるものではなく、先達の背中から、後進が感じ取ることでしか継承できません。

今、会社にいる年配の人たちは、若い人たちに誇れる背中がありますか。そして、若い人たちは、彼らのイズムを引き継ぐ準備はできていますか。ぜひ考えてみてください。

以上(2023年6月)

pj17144
画像:Mariko Mitsuda

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