書いてあること

  • 主な読者:がんになった社員の「治療」と「仕事」の両立を支援したい経営者
  • 課題:具体的にどのような支援が必要か分からない
  • 解決策:治療の過程で社員の不安は変わるので、それに応じた支援をする

1 がんになった社員の約7割が、仕事を続けている

2人に1人が「がん」になる時代。誰にとっても無縁の病気ではありません。厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」が中小企業を対象に実施した調査によると、がんになった社員がいると回答した会社は26%に上ります。一方、注目すべきは、

がんになっても69%の社員は、勤務を継続している(休職中を含む)

という点です。

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がんは重い病気ですが、医療技術の進歩により、仕事を続けながら治療することもある程度可能になりました。そこで、この記事では、がんになっても仕事を続けたいと望む社員のために、会社が社員の「治療」と「仕事」を両立できるように支援する方法を紹介します。

2 社員の不安に寄り添うことが大切

1)治療と仕事の両立のために望むこと

東京都の調査によると、治療と仕事の両立に当たって、がんになった社員は職場に次のようなことを求めています。

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2)がんになった社員の不安に寄り添った支援を

がん治療の大まかな流れは、

がん発見 → 通院治療もしくは入院・手術 → 自宅療養(通院治療・経過観察) → 職場復帰(通院治療・経過観察)

となりますが、その過程で、社員の不安と会社が行うべき支援は変わります。図表3は「社員の不安」と「会社の支援」の関係をイメージしたものです。会社は、

社員の不安に寄り添い、その解決に必要な支援を都度検討することが大切

です。

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次章では「会社の支援」について、実務上のポイントを紹介していきます。

3 会社が支援を行う際のポイント

1)病状を確認

社員からがんであるとの申告があった場合、

現在の健康状態、手術の有無を含めた治療スケジュール・治療方針などを確認

します。

がんは進行度合いや治療方法などによって病状が大きく異なります。例えば、抗がん剤の影響で、気分が優れない時間があったり、注意力が散漫になったりする場合もあります。そこで、

  • 従来通りの勤務が可能なのか、通勤に支障がないか、業務上、配慮を要することなど、会社が喫緊に対応すべき事項を確認
  • 手術などによって、休職する可能性があるのかを確認

します。

2)休暇や勤務形態を相談

社員には手術や通院などが必要になります。社員と相談して、休みの見込み日数や、勤務形態などを確認します。

厚生労働省によると、がん(悪性新生物、腫瘍)で入院した患者の平均在院日数は、全体で19.7日となっています。

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通院治療の日数については具体的な数値は示されていませんが、例えば、

  • 化学療法(抗がん剤治療):1~2週間程度の周期で治療を行うことが多い
  • 放射線治療:基本的に毎日(月~金、数週間)照射を受けることが多い

など、治療法や患者の状況に応じて相応の時間を要するようです(厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」)。

社員が休む場合、年次有給休暇も使えますが、治療が長引くと日数が足りなくなるので、「病気休暇」を設けるのもよいでしょう。病気休暇とは、

社員が業務外の私傷病によって就労できない場合に付与する休暇

で、会社が就業規則などで独自に定めます(有給にするか無給にするかは、会社の自由)。長期間働けないなら休職させるのも1つの方法ですが、「仕事をしつつ、定期的に休んで治療を受けたい」という場合、病気休暇のほうが対応しやすいかもしれません。この他、時短勤務やテレワークなどのニーズについても確認するとよいでしょう。

3)金銭的な負担への配慮

図表5は、厚生労働省の調査を基に、がん(悪性新生物、腫瘍)治療の平均費用を試算したものです。入院する場合、どの部位も治療費が平均6万円を超え、さらに食事・生活療養費が別途発生します。

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がんになった社員は自分の病状もそうですが、こうした金銭的な負担にも不安を抱えています。ただ、治療費の負担を軽減できる支援制度もいくつかあるので、例えば図表6のような情報を社員に提供してあげると、少しは不安が和らぐかもしれません。

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4)周囲の社員への説明

社員の中には、上司や同僚にがんであることを伝えたくないという人もいます。個人情報保護の観点からも、本人の同意なく、他の社員に病名を伝えることは避けなければなりません。

とはいえ、周囲の社員の理解なくして仕事と治療の両立は難しいため、どの程度、病気について説明するかなどを相談しておきます。例えば、病名を明らかにしないものの、

「病気で手術が必要になるため、しばらく休暇を取得する」「手術後は重いものを運ぶのが難しくなる」など、病状の一部や、従来通りの働き方が難しくなること

を伝えます。

4)業務分担の確認

周囲の社員が業務を代替できるような体制にしておきましょう。具体的には、担当している業務を洗い出し、業務マニュアルを作成します。

社内に既存の業務マニュアルのフォーマットがない場合は、業務マニュアル作成ソフトの利用を検討してみましょう。用意されたフォーマットに必要事項を記入したり、スマートフォンで手順を撮影した動画をアップしたりすることができます。

5)復帰後の計画の相談

社員から復帰のめどについて連絡があったら、復帰後の計画を相談します。その際、主治医に意見書を提出してもらうと、復帰の可否や就業上必要な配慮が明らかになります。

守秘義務があるため、会社が本人の同意を得て主治医の意見を聴取するか、本人を通じて主治医に意見書を提出してもらうなどしてもらいます。確認すべき点は、

  • 現在の病状
  • 復帰の可否と配慮や禁止事項
  • 勤務時間・職場環境・病状に影響する作業や通勤方法
  • 今後の見通し
  • 日常で気を付けるべき事項

などです。厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では、意見書を求める際の様式例を掲載しているので、参考になります。

■厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html

6)復帰後のフォロー

いざ復帰してみると、想定した以上に負担が大きく、予定通りに勤務できなかったり、周囲の社員に遠慮して無理をしてしまったりすることがあります。一方、経過が良好にもかかわらず、周囲がいつまでも過度に気を使って業務の負担を減らそうとすることで、本人が仕事にやりがいを感じられず、不満や悩みを抱いてしまうこともあります。

復帰後1カ月目は週に1回、2カ月目以降は2週に1回など、定期的に面談の時間を設けるなどして、勤務の負担感や安全面での不安など、困り事がないかを確認します。

また、本人だけでなく、支援する周囲の社員とも面談の機会を設けます。特に、直属の上長の不安や負担は大きいものです。周囲の社員の様子とともに、上長の状況なども確認し、必要があれば業務分担の配分を変更し、メンタル面でのフォローを行うようにします。

以上(2024年5月更新)

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画像:unsplash

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