書いてあること

  • 主な読者:労働災害の発生に備えておきたい経営者
  • 課題:労働災害が発生した場合、社員の治療費や休業中の生活費などが心配
  • 解決策:まずは「法定補償(労災保険の給付)」について理解し、それだけでは不十分と思われる場合、「法定外補償(私的な保険など)」への加入を検討する

1 労災の法定補償だけで、社員やその家族を守りきれる?

足場から転落する、有害物質にさらされる、長時間労働で疲弊する、ハラスメントで精神を病むなど、社員がけがや病気になるリスクはさまざまです。社員の事故等が労働災害(労災)として認定されれば、社員や遺族は労災保険から保険給付が受けられます。いわゆる労災の「法定補償」です。法定補償は手厚いといえますが、被害の大きさによっては治療費や生活費を賄うのに不十分なケースもあります。

そこで、民間の保険会社が提供する労災の「法定外補償」(私的な保険など)に加入する会社があります。例えば、

製造業・建設業・運輸業など労災が発生しやすい業種では、法定補償を基本としつつ、法定外補償にも加入して、手厚い補償体制を実現

しています。

法定外補償に加入するか否かはさておき、「労災に対する備えはどの程度か?」を把握することは重要です。ということで、この記事では、

労災の「法定補償の支給額」「法定外補償の相場」

を紹介していきます。

2 労災の法定補償の支給額

1)労災の法定補償

労災の法定補償では、業務に関連して発生する業務災害、通勤途中(単身赴任先と帰省先住居間の移動中等を含む)で発生する通勤災害に対して保険給付を行います。保険給付には、定額支給のものや、「給付基礎日額の○○日分」などの形で支給額を計算するものがあります。なお、給付基礎日額は原則として次の方法で計算します。

給付基礎日額=労災発生以前3カ月間の賃金総額(3カ月を超える期間ごとに支払われる賞与等を除く)÷その期間の総日数

2)主な保険給付

労災の法定補償の主な保険給付は次の通りです。なお、業務災害の場合、保険給付の名称に「補償」という文言が付きます。例えば、業務災害によって療養が必要な場合は療養補償給付と呼ばれます。ただし、葬祭に要した費用については、業務災害では葬祭料、通勤災害では葬祭給付と呼ばれます。

1.療養(補償)給付

労災による傷病のため、労災指定病院等で療養を受けるときに、必要な療養の給付(現物給付)が受けられます。労災指定病院等以外で療養を受けたときは、必要な療養の費用が支給されます。

2.休業(補償)給付

労災による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないときに、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額が支給されます。休業(補償)給付の支給期間に制限はありませんが、社員が療養を開始してから1年6カ月が経過し、傷病(補償)年金の支給を受けるようになると支給されなくなります。

3.傷病(補償)年金

労災による傷病が療養開始後1年6カ月を経過した日または同日後において、「傷病が治っていないこと」「傷病による障害の程度が厚生労働省令で定める傷病等級に該当すること」のいずれも満たしたときに、傷病の程度に応じ、給付基礎日額の313日~245日分の年金が支給されます。

4.障害(補償)年金

労災による傷病が治った後に「障害等級第1級~第7級」に該当する障害が残ったときに、障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日~131日分の年金が支給されます。

5.障害(補償)一時金

労災による傷病が治った後に「障害等級第8級~第14級」に該当する障害が残ったときに、障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日~56日分の一時金が支給されます。

6.介護(補償)給付

傷病(補償)年金か障害(補償)年金の受給者のうち、第1級の者または第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している者であって、現に介護を受けているときに支給されます。常時介護を要する状態か、随時介護を要する状態かなどによって支給額が異なります(最大で17万1650円)

7.遺族(補償)年金

労災により死亡したときに、受給権者および受給権者と生計を同じくしている遺族の人数等に応じ、給付基礎日額の245日~153日分の年金が支給されます。

8.遺族(補償)一時金

労災により死亡した当時、遺族(補償)年金を受け得る遺族がいないときに、給付基礎日額の1000日分の一時金が受給権者に支給されます。

また、遺族(補償)年金を受けている者が失権し、かつ、他にこれを受け得る者がいない場合であって、既に支給された合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないときに、給付基礎日額の1000日分から既に支給した年金の合計額を差し引いた額が受給権者に支給されます。

9.葬祭料(葬祭給付)

労災により死亡した者の葬祭を行うときに、31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額が支給されます。その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分が葬祭を行う者に対して支給されます。

3 労災の法定外補償の相場

1)業務災害の障害補償

業務災害の障害補償の給付額の推移は次の通りです。

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2018年の障害等級1級の給付額は3182万円です。2008年から緩やかな増加傾向にありましたが、2018年は減少しています。

2)通勤災害の障害補償

通勤災害の障害補償の給付額の推移は次の通りです。

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2018年の障害等級1級の給付額は1879万円です。業務災害と同様、通勤災害も2018年は減少しています。

3)業務・通勤災害の遺族補償

業務・通勤災害の遺族補償の給付額の推移は次の通りです。

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2018年の遺族補償の給付額は業務災害で3262万円、通勤災害で1930万円です。いずれも、2008年から緩やかな増加傾向にありましたが、2018年は減少しています。

4 参考:労災の発生状況について

1)労災の発生状況の推移

労災の発生状況の推移は次の通りです。

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2020年の死傷者数(全産業)は13万1156人です。製造業、建設業、陸上貨物運送事業などは労働者の職業柄、労災が発生しやすい傾向にありますが、商業などの第三次産業で死傷者数が増えている点は見逃せません。

2)労災と認定された過労死等の状況

長期間の過重業務による脳・心臓疾患や精神障害も労災の認定基準の1つです。近年の状況は次の通りです。

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2019年度は、脳・心臓疾患が936件、精神障害が2060件の労災認定の請求がありました。

これらの事案と2016年度以前に労災認定の請求がされた事案の中でまだ方針が決定していない事案を含め、保険給付をするか否か(労災として認定するか否か)が決定されたのが決定件数であり、脳・心臓疾患が684件、精神障害が1586件となります。

さらにこのうち、保険給付が決定したのが(労災として認定されたのが)支給決定件数であり、脳・心臓疾患が216件、精神障害が509件となります。

以上(2021年6月)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:amorn-Adobe Stock

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