書いてあること

  • 主な読者:古い賃金規程を使っていて、内容を見直していない経営者
  • 課題:具体的にどう賃金規程を見直せばよいのか分からない
  • 解決策:「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」を中心にチェックする

1 賃金規程の記載事項にヌケモレはないですか?

賃金規程とは、

就業規則のうち、賃金に関する基本事項を本則と別に定めたルールブック

です。物価高の影響などで賃上げに向けた動きが活発化する中、賃金テーブルの見直しなどで規程に目を通す機会も多いでしょうが、その前に1つ質問です。御社の賃金規程は、法律上記載すべき事項を全て網羅していますか?

労働基準法(以下「労基法」)には、就業規則に記載すべき事項として、

  • 絶対的必要記載事項:必ず記載しなければならない事項
  • 相対的必要記載事項:定めがある場合に記載しなければならない事項

が定められています。賃金規程についても、図表1の通り記載すべき事項が決まっていて、なおかつそれぞれの項目について、法律上守らなければならないルールがあります。

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この記事では、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項それぞれについて、法律上のルールや定め方のポイントをまとめています。「今は賃金規程を見直すつもりはない」という人も

賃金規程のポイントを押さえれば、賃金の基本ルールを一通り復習できる

ので、読んでおくと社員とのトラブル予防などに役立つかもしれません。

なお、「賃金規程のひな型」については、次の記事で紹介しているので、興味がある方はぜひご確認ください。

2 必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)

1)賃金(臨時のものは除く)の決定・計算方法

1.賃金規程の適用範囲

賃金規程を適用する社員を定めます。例えば、正社員とパート等とで賃金のルールが異なる場合、正社員の賃金は「賃金規程」、パート等の賃金は「パートタイマー用就業規則」で定めるのが一般的です。

2.賃金体系

基本給や手当など自社の賃金体系を整理し、賃金規程に定めます。

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少々複雑なのが手当です。なぜなら、手当には労基法上、

  • 基準内賃金(割増賃金の計算基礎に含まれる賃金)に該当するもの
  • 基準外賃金(割増賃金の計算基礎から除外される賃金)に該当するもの

があるからです。そのため、新しい手当をつくったり、古い手当を廃止したりする場合は注意しましょう。基準外賃金に該当する手当は次の7つで、それ以外は全て基準内賃金になります。

  • 家族手当(扶養家族の人数に応じて支給されるものに限る)
  • 通勤手当(通勤距離や通勤費用に応じて支給されるものに限る)
  • 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支給されるものに限る)
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

3.賃金形態

時給制、日給制、月給制など、賃金形態を定めます。

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4.賃金からの控除

賃金は全額払いが原則ですが、法令や労使協定で別段の定めがある場合、控除して支払うことができます。次のように控除する項目を定めます。

  • 法令:所得税、住民税、社会保険料など
  • 労使協定:組合費、レクリエーション費など

なお、労使協定により控除できるのは、内容が明白なものだけなので、例えば「控除が必要と会社が判断したもの」など、曖昧な定めは認められません。また、「社員が備品を紛失した場合、その代金」などと定めて、会社の持つ債権と賃金を相殺することも禁止されています(ただし、社員が自らの意思で同意した場合は、控除が認められます)。

5.賃金の支給額

基本給、手当などの支給額を定めます。また、時間外労働(法定労働時間を超える労働)、休日労働(法定休日の労働)、深夜労働(原則22時から翌日5時までの労働)の残業手当の計算方法についても、次の割増賃金率に違反しないよう注意します。

  • 時間外労働:25%以上。時間外労働が60時間超の場合、超過時間分については50%以上
  • 休日労働:35%以上
  • 深夜労働:25%以上

なお、よく時間外労働と所定外労働(所定労働時間を超える労働)を混同する人がいますが、両者は必ずしもイコールではありません。例えば、社員の1日の所定労働時間が7時間の場合、7時間を超えて働いても法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)に達しなければ、割増賃金を支払わなくても違法ではないのです。支払うか支払わないかは、会社が賃金規程で定めます。

この他、注意が必要なのが休暇等の賃金です。例えば、年次有給休暇(年休)は必ず有給にしなければなりませんが、育児休業や介護休業は有給でも無給でもよいとされています。休暇等の種類ごとに、有給・無給の区別を明らかにしておきましょう。

2)賃金の支払方法

賃金は金融機関振り込みが一般的ですが、労基法上は通貨で直接本人に支払う(手渡し)のが原則です。金融機関振り込みにする場合、必ず社員の同意を取得した上で行います。

3)賃金の締切り・支払時期

1.通常の支払い

賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払うのが原則なので、次のように計算期間と支払日を定めます。なお、賃金の支払日が土・日・祝日の場合、その前日に支払うのが一般的です。

  • 賃金の計算期間:毎月1日から月末まで
  • 賃金の支払日:翌月10日(前月の賃金締切り分)

2.臨時払い

社員が死亡や退職などをした場合の賃金の支払いについて定めます。こうした場合、社員や遺族からの請求に応じて7日以内に、会社はそれまでの労働に対する賃金を支払わなければなりません。

3.非常時払い

出産、疾病、災害など非常時の賃金の支払いについて定めます。社員が非常時の費用に充てるために賃金の支払いを請求してきた場合、会社はそれまでの労働に対する賃金を支払わなければなりません。

4)昇給に関する事項

昇給の算定期間や時期などを定めます。昇給は人事考課などに基づいて、毎年1回定期に行うのが一般的です。ただし、会社の業績が悪化した場合なども考え、昇給を行わないケースについても明らかにします。また、社員とのトラブル防止のため、降給の基準も定めておきます。

3 定めがある場合に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)

1)臨時の賃金(賞与)

賞与を支給するかしないかは会社の自由ですが、一度賃金規程に定めを設けたら、その定めに従って支給しなければなりません。賞与については労基法上、賃金規程に何を記載すべきかが特に決まっていませんが、次のような内容を定めておくとよいでしょう。

1.賞与の支給時期と支給回数

「夏季と冬季に年2回支給する」など、賞与の支給時期と支給回数を定めます。ただし、会社の業績が悪化した場合なども考え、賞与を支給しないケースについても明らかにしておきます。

2.賞与の支給額と対象期間

賞与の支給額の決定方法を定めます。賞与は一般的に、社員の業務成績・勤務態度の考課結果などに応じて決定します。その際、考課の対象期間を賞与の種類(夏季賞与、冬季賞与など)ごとに明らかにします。

3.賞与の支給対象者

賞与を支給する社員、支給しない社員を定めます。一般的に、考課の対象期間内に勤務実績があって、支給日に在籍している社員を対象とします。

2)最低賃金額

最低賃金額(賃金の最低保障額)が決まっている場合、その金額を定めます。ただし、最低賃金法を下回る金額は設定できません。最低賃金には、

  • 地域別最低賃金:都道府県ごとに設定されている最低賃金
  • 特定最低賃金:特定の産業について設定されている最低賃金

の2種類があり、両方が適用される会社の場合、いずれか高額なほうが最低賃金となります。地域別最低賃金と特定最低賃金の金額などは、厚生労働省ウェブサイトから確認できます。

■厚生労働省「賃金(賃金引上げ、労働生産性向上)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/index.html

以上(2024年3月更新)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像:ESB Professional-shutterstock

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