書いてあること
- 主な読者:人材紹介を使って採用をしたい経営者、採用担当者
- 課題:こちらの意図した人材が紹介されてこない。また、相手の担当者をうまくコミュニケーションが取れない
- 解決策:人材紹介の仕組みを理解し、上手く求職者に情報を伝達するようにする
1 採用率を上げるキーパーソンは誰だ?
成功報酬型の「有料人材紹介サービス」(以下「人材紹介」)は、求職者の紹介を受けるだけなら費用は掛からず、採用に至った場合は、年収の30~35%を紹介料として企業が人材紹介会社に支払う仕組みです。
紹介料は決して安くありませんが、人材採用難の中、今では人材紹介を取り入れる中小企業が急速に増えています。ところが、人材紹介を使いこなしている中小企業の経営者は多くないようです。
人材紹介では多くのプレーヤーが登場するため、うまく使わないと“伝言ゲーム”になってしまいます。そして何より、自社を担当する「企業担当者」とのコミュニケーションが大事です。
2 人材紹介は企業担当者を介した“伝言ゲーム”
1)基本的なスキーム
企業と求職者を結び付けるという意味では、人材紹介の仕組みはシンプルです。しかし、そのスキームには数多くのプレーヤーが登場し、さまざまな情報が“伝言ゲーム”のようにやり取りされます。基本的な人材紹介のスキームを確認してみましょう。
企業サイドには企業担当者、求職者サイドには「キャリア・アドバイザー」(以下「CA」)が付いて、それぞれの活動をサポートします。人材紹介会社によって企業担当者やCAの名称は異なりますが、役割は同じです。
また、企業担当者にはアシスタントが付きます。アシスタントは、主に企業とCAの間に入って面接などのスケジュール調整を行います。通常は、複数の企業担当者に1人のアシスタントが付く体制になっています。
2)“伝言ゲーム”の流れ
企業の求人票や、求人票では表現しにくい職場の雰囲気などの情報は、企業担当者からCAに伝えられ、CAが求職者に紹介します。求職者が自社に応募してきたら、その情報はCAから企業担当者に伝えられ、企業担当者が企業に紹介します。
求職者の応募後、企業は本格的な選考に入ります。この段階で重要になるのは、面接では明らかにされにくい求職者の本音や、併願先の選考状況などの情報です。これらの情報は、CAが求職者から聞き出して、企業担当者を通じて企業に伝えられます。
企業は、そうした情報を基に情報戦を繰り広げます。例えば、求職者が「働きやすさ」を重視していることが分かったら、企業担当者を通じて、社内イベントで社員が和やかに談笑している画像などを求職者に提供し、自社をアピールします。
3)企業担当者は企業の味方
このように、企業担当者は企業の情報源であり、宣伝係であり、アドバイザーでもあります。そして、企業担当者は良好な関係を築いている企業を強く応援します。そのため、企業は企業担当者と積極的にコミュニケーションを取ったほうが有効的なのです。
では、企業担当者と良好な関係を築くためにはどうしたらよいのでしょうか。次章で、大手人材紹介会社で働く複数の企業担当者から聞いた、「企業担当者がサポートしやすい企業」の特徴を紹介します。
3 企業担当者がサポートしやすい企業とは
1)事業内容を丁寧に説明する
人材紹介は、企業が企業担当者に事業内容と採用したい人材像を伝えることからスタートします。企業担当者の業界知識はほぼ期待できません。事業内容は、会社案内やウェブサイト、実際の商品などを見てもらいながら、時間を掛けて丁寧に説明します。
執務スペースや工場も見学してもらい、できれば2~3人の社員と話をする機会を設けましょう。企業担当者は、現場の雰囲気を体感することで企業に対する理解が深まり、パートナーとしての意識も高まります。
2)「人柄や性格に関する軸」は実際に会って判断する
採用したい人材像は、「キャリアに関する軸(中途採用の場合、職務経験や希望年収など)」と「人柄や性格に関する軸(明るく元気である、勤勉であるなど)」に分けて伝えると、企業担当者が整理しやすくなります。
ただし、人柄や性格に関する軸を満たすのは難しいものです。求職者は自分を良く見せるために、明るさや勤勉さを必ずといってよいほどアピールしてきますが、本当にその通りなのは一部だからです。
人柄や性格は会って確かめるしかありません。そのため、書類選考の合格基準は少し低めに設定するのも一策です。会ってみると、意外と優秀な求職者に出会えることがありますし、企業担当者も多様な求職者を紹介しやすくなります。
3)難題でもぶつけてみる
かなうかどうかは別として、企業が採用したい人材像は「言ったもの勝ち」のところがあります。例えば、「育児が一段落して、もう一度働き始めようとしている女性」といった一見難しそうな人材像でも、企業担当者に伝えればそれなりに探してくれます。
人材紹介を使い慣れていない企業は、企業担当者に遠慮して、このような難題をぶつけません。しかし、企業担当者の印象はこれとは違っていて、「難題をぶつけられるほど、自分は頼りにされている」と意気に感じることが多いものです。
4)携帯電話に連絡をする
大手人材紹介会社に勤める中小企業マーケットの企業担当者の場合、1人当たり100社以上のクライアント(企業)を受け持っています。そのため外出が多く、人材紹介会社に電話をしてもつかまりにくいため、携帯電話に連絡するのが基本です。
また、比較的遅い時間に連絡をしても大丈夫なことが多いようです。現職がある求職者との面接は18時以降になることが多いのですが、面接後に企業担当者と携帯電話で作戦会議をすることも珍しくありません。
5)アドバイスに耳を傾ける
企業担当者は、「自分が担当するクライアント(企業)の採用活動をサポートしたい」という強い思いを持っています。個人差はありますが、「自分のアドバイスが奏功してクライアント(企業)が採用に成功する」ことが高いモチベーションになっています。
それにもかかわらず、企業が自分のアドバイスに聞く耳を持ってくれなければ、企業担当者は、自分のアドバイスは必要とされていないと考え、求職者を紹介するだけになります。こうなってしまうと、収集できる情報が限られ、採用活動に支障を来します。
企業には採用に対する独自の考えがあり、それが企業担当者のアドバイスと違うこともあります。ただし、企業担当者は採用のプロです。アドバイスを実践するか否かは別として、企業担当者のアドバイスに聞く耳を持ったほうが得になるのです。
6)良好な関係を築こうとしている
中小企業の場合、社長が企業担当者と打ち合わせをすることが多く、打ち合わせ後、そのまま2人で飲みに行くことも珍しくありません。こうした場を持つことで、企業担当者との関係性が強化されることもあります。
この他にも、以前にその人材紹介会社を通じて採用した社員が元気に働いている姿を見せるのも、企業担当者の“やる気をくすぐる”良い方法です。企業担当者は、自分が紹介した人材が幸せに働いているのかを気にしているものです。
7)CAを味方にする
以上のポイントに配慮する企業のことを、企業担当者は「働きやすそう」「オープンな社風」などと高く評価し、これをCAに伝えます。CAは良い企業を求職者に紹介したいため、企業担当者からの情報を踏まえて、評判の良い企業を求職者に紹介します。
4 企業担当者を代えてもらう
前章で「企業担当者がサポートしやすい企業」を紹介したのは、企業担当者に迎合するという意味ではなく、人材紹介のスキームでは、企業担当者がとても重要な役割を担っていることを説明したかったからです。
もう一面から考えると、理解力やコミュニケーション力などが乏しい企業担当者は、企業のパートナーとして不適切です。企業担当者が次の項目に幾つも当てはまり、指摘をしても改善されないなら、人材紹介会社に変更を申し出ることもやむを得ません。
- 何度説明しても、事業内容を正しく理解してくれない
- 何度説明しても、紹介されてくる求職者が自社の希望に近付かない
- 約束した日時に連絡をしてこない。ひどい場合には忘れている
- 連絡を避けてほしいと伝えた時間帯でも、お構いなしで連絡をしてくる
- 紹介されてくる求職者の面接キャンセルが多い
- 面接後、催促をしなければ求職者の感想を教えてくれない
- CAとの連携がうまくいっていないようだ
- 求職者に伝えてほしいと依頼した内容が伝わらない
- 求職者の併願先の情報がほとんど上がってこない
- 1カ月間の紹介が0件でも、一切連絡をしてこない
企業担当者に情が移ることもありますが、頼りにならない企業担当者と付き合っていても採用のチャンスを逃すだけです。こうした意味でいうと、人材紹介を使う際、企業が最初に採用するのは、求職者ではなく企業担当者ということになります。
5 企業担当者と連携した採用活動
1)まずは求職者の本音を引き出す
企業担当者とのやり取りが重要になってくるのは、本格的な選考に入ってからです。特に中途採用の場合、求職者には「自社に転職する、併願先に転職する、転職をやめて現職にとどまる」という3つの選択肢があります。
自社に入社してもらうために、企業はライバルとなる併願先や求職者の現職よりも自社のほうが優れているポイントを見つけ、求職者にアピールしなければなりません。そのために、求職者の本音と自社の印象を企業担当者に質問し、情報を得ましょう。
すると、「併願先はA社とB社です。また、他の人材紹介会社を通じた先もあるようです。面接後のアンケートでは御社を第1候補と回答していますが、恐らくA社の意欲が高く、御社は2番手だと思います」といった情報を得られることがあります。
次に企業担当者に質問するのは、求職者が転職に際して重視している軸です。求職者が年収アップを重視しているのなら、募集条件の変更を検討します。そうではなく、キャリアアップを重視しているのなら、キャリアプランを提示します。
2)併願先の弱点を突く
併願先の弱点も、企業担当者を通じて探ります。例えば、「併願先A社の人事部は厳しい。求職者が現職のトラブルで面接に10分遅刻したところ、事前に連絡していたにもかかわらず『始末書』を書かされた」といったケースがあったとします。
併願先A社のような不寛容な姿勢を、企業担当者とCAは快く思っていないはずです。そこで、自社はそれを逆手に取り、真摯で寛容な姿勢を示すことで企業担当者とCAを味方に付け、自社のことを求職者に強く勧めてもらいます。
求職者に家族がいたら、その意向も探ります。転職先選びには、家族の意向も影響します。もし、家族も併願先A社の対応を嫌悪していたら、次の面接の際、「ご家族にも当社のオープンな社風をお伝えください」と一言添えて、家族にも自社をアピールします。
3)交渉に応じるか否かを決める
企業担当者が求職者に面接のアドバイスをすることもあり、求職者の心理をある程度理解しています。例えば、求職者が年収アップを提示するのはよくあることです。企業担当者は、それが譲れない条件なのか、軽い気持ちなのかを感覚的に判断しています。
企業にとって年収は重要な募集条件です。求職者が年収アップを提示してきたら、企業担当者の意見を聞いてみましょう。すると、「『そうなったらいいな』くらいの気持ちのようなので、聞き流していいと思います」といった回答を得られることもあります。
4)求職者に直接メッセージを送る
人材紹介の仕組みでは、面接以外の場で企業が直接求職者と話をすることはできません。一方、最後の一押しなど、どうしても自分の言葉で求職者に伝えたいことがあります。そのような場合は、手紙やメールを書き、企業担当者を通じて求職者に送ります。
こうしたメッセージは、面接をした直後であったり、週末に考えてもらうために金曜日の夜であったりと、送るタイミングも重要です。企業担当者に意図を伝え、指定した時間に送ってもらうようにします。
5)貴重な情報を聞き出せるかも?
企業担当者は、口頭なら教えてくれそうでも、文書やメールには残せない情報を持っています。関係が良好なら、飲みにケーションなどのときに、さわりだけ教えてくれるかもしれません。その情報は採用活動を進める上で有益なものになるでしょう。
6)全ては企業担当者との良好な関係があってこそ
人材紹介を使って採用率をアップするためのキーパーソンは、企業担当者であることがお分かりいただけたことでしょう。企業は、付き合っていく企業担当者を妥協せずに選び、さまざまな情報を引き出しながら採用活動を進めていくことが大切です。
以上(2019年10月)
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画像:unsplash