年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、三谷 淳(みたに じゅん)さん(未来創造グループ 未来創造弁護士法人 代表弁護士・税理士、株式会社未来創造コンサルティング 代表取締役)です。
日本一裁判しない弁護士。
こう呼ばれる三谷さん。未来創造弁護士法人のホームページにも堂々と掲げられています。「裁判しない弁護士」とは、今の弁護士業界の中では、かなり異端児かもしれません。しかし、こういう姿勢こそ、経営者に本当に寄り添っているのではないでしょうか。実際、多くの経営者から支持されている三谷さんです。
三谷さんが、自身が代表を務める未来創造弁護士法人で「従業員を大切にする会社の新しい福利厚生」として始めた事業が、「Law Room(ロールーム)」です。これは、
会社が無料で導入でき、従業員やその家族も無料で弁護士相談できるサービス
で、現在は全国の会社に提供しています。
ロールームの背景には、三谷さんの「プライベートの悩みを弁護士がサポートすることによって、従業員の生産性を向上させたい。従業員を大切にする会社に導入してほしい」という熱い思いと、「次世代に少しでもよい社会を残したい」という切なる願い、そして、稲盛和夫氏の盛和塾での学びや出会いがありました。
「本当に従業員を大切にする会社」には、特におすすめの新しい福利厚生、ロールーム。ひいては、人的資本経営にもつながっていきます。その内容をご紹介します。
1 企業が伸びることは、日本を救うこと
「企業が経営を伸ばすということは、日本を救うということだ!」を掲げ、顧問弁護士として、多くの会社を応援してきた三谷さん。三谷さんの根底には、「このままでは日本はまずい」という危機感、そして「日本をなんとかしたい」という思いが強くあります。昭和50年生まれと最後のボリュームゾーンにあたる世代の三谷さん。これからの日本を考えたときに「自分たちがなんとかするしかない」という強い当事者意識を持っています。グループ名・法人名に冠した「未来創造」も同様で、「自分たちの未来は自分で作る」という当事者意識を表しているそうです。三谷さんはこう語ります。
「私にも子どもがいるので、この国を子どもたちに渡すときのことを考えます。私の父が昭和戦中生まれで、高度経済成長期を経験し、世界GDP2位の国を作り上げた世代。素晴らしい努力があったと思うのです。
ただし、その後、社会保障制度に手をつけずに、自分たちが恩恵を受けていたから、日本のピンチを生んだのも彼ら世代だと、私はそういう風に感じることもあります」
ご自身も、我が子から将来どんなふうに言われるかと考えた三谷さん。子どもから「お父さんの世代って悪いことしかしてないじゃん」とか「何もいいことしてないじゃん」って言われてしまうかもしれないと、本気で思ったそうです。それが2010年ごろのことで、それから三谷さんは、
少しでもマシな社会を次世代に残したい
と奮起します。日本の収支を鑑みて、具体的にやるべきことを考えたところ、社会保障費を削ること、消費税を上げること、あとは、法人税や所得税を増やして儲かる会社を増やす、これで均衡するくらいだなと。しかし、消費税を上げることや社会保障費を増やすことは、民間にはできません。
「民間の自分には稼ぐことしかできない。だとしたら自分は稼いで付加価値を出す、人の役に立って利益を出して、国に納める。これが、次の世代に渡すことだ。
ただし自分1人でやっても、たいしたことはきっとできない。(日本をよい社会にして次世代に渡すというような)そういう思いで会社を経営している経営者たちをとことん応援しよう」
「企業が経営を伸ばすということは、日本を救うということだ!」 未来創造グループ・三谷さんの次世代への思い、日本をなんとかしたいという「本気」がここに集約されています。
●三谷さんが代表弁護士を務める未来創造弁護士法人
https://www.mirai-law.jp
2 従業員を大切にする会社の新しい福利厚生「ロールーム」
1)とことん従業員に寄り添う「ロールーム」
従業員が無料で弁護士に相談できる「ロールーム」は「従業員を大切にする会社の新しい福利厚生」として打ち出されています。
会社が導入するときに未来創造弁護士法人と交わす契約書にも、導入する前提として「従業員を大切にする会社である」ということが明記されており、三谷さんも「導入の条件は、従業員を大切にする会社かどうかに尽きます」と強調します。
ここで、ロールームの仕組みを見ていきたいと思います。聞けば聞くほど、本当に従業員ファーストで、かつ、それが会社の成長につながると実感できる内容です。
会社が導入する際の費用は無料。そして、従業員が弁護士に相談する費用も無料です(1回60分以内のご相談)。普通、弁護士に相談するとなると、高額な費用がかかるイメージがあります。一般的には、弁護士への相談料は通常30分で5000円、60分であれば1万円などかかるところ、ロールームは会社の福利厚生として60分無料で受けられるので、とても貴重です。しかも、会社側にもお金はかかりません。
ロールームに寄せられる相談のうち、90%くらいは、弁護士の法的な助言によって、「こうしてみます」「心配することはありませんでしたね」といったように、その場のご相談だけで解決するそうです。
残り10%ほどは、弁護士が窓口となって交渉したり、裁判所で手続きを取ったりした方がよいケースがあります。その場合は、「ご本人のご希望があれば、改めて委任契約を結び、費用をいただいてお手伝いをさせていただきます」ということです。
●従業員が無料で弁護士相談できる「ロールーム」
https://lawroom.mirai-law.jp/
2)ロールームでは、どのような相談が寄せられるのか?
ロールームに、具体的に寄せられる相談内容は、主に次のものだそうです。
- 離婚:夫婦間のトラブル。離婚したい。配偶者から「離婚したい」と言われた
- 相続:争いになっているなどというよりは、そもそも入口の段階での躓き。なにをどうしたらよいのか、手続きがわからない
- 交通事故:事故に遭ってしまった。事故を起こしてしまった
- 借金:会社や人に言えない借金を抱えている
- 不動産:賃貸契約をしている大家さんと話が合わないとか、購入した家の近隣の住民トラブルなど
確かに、どれも深刻であり、知り合いには相談しにくい内容かもしれません。従業員が100人いれば、年間1.5人ほどくらいの割合で相談が上がってくるそうです。大きな会社よりも小さい会社の方が周知されるのが早く、相談率が高い、と三谷さん。
「逆にいえば、100人に1人くらいは、弁護士に相談しなきゃいけない悩みを、どこかに抱えてらっしゃるものなのだなと思います。
それをどこにどういうルートで相談するかで、その後の解決も左右されますが、何も知らないと、やはりインターネット検索などで、マーケティング的な方法で広告宣伝をしている法律事務所へたどりついてしまいますよね」
その点、会社側が福利厚生として用意してくれていて、守秘義務を遵守してもらえる、さらに従業員の家族もサービスを利用できる。そういう信頼できる法律事務所の存在は心強いものです。
●ロールームのカード。従業員がいつも携行でき、困ったときにすぐ相談できる心強い味方
(出所:りそなCollaborare事務局にて撮影)
3)なぜロールームが生まれたか?
「日本一裁判しない弁護士」の三谷さんは、弁護士としては珍しく、係争に勝つことよりも争いを未然に防ぐトラブル防止を武器に、会社の経営を心底応援する弁護士であり続けようとしています。こうした三谷さんに対して、三谷さんのところの従業員があるとき、こう質問を投げかけます。
「企業を応援するなら、そこで働く従業員も応援すればいいのではないでしょうか。なんで従業員の応援をしないのですか?」
それまで「BtoBの応援をするのが、私の思いをより社会に還元できるのかな」と考えていたという三谷さん。しかし、従業員からの言葉をきっかけに考えてみると、次のように思えたといいます。
「たしかに家で、離婚問題に悩んでいるとか、夫婦仲が悪いとか、会社に言えない借金があるとか、そういう人が仕事に集中できるわけがないのですよね。それなら、私たちがその悩みを聞き解消して、仕事に集中してくれたら、従業員の生産性が上がり、企業の生産性も上がる。付加価値が上がる。利益が増える。この国を救うことになるのではないかと」
もちろん守秘義務を負っていますので、従業員から相談された内容は、会社に漏れることは一切ありません。従業員からすると、「会社に筒抜けになってしまうのでは」という不安があるかもしれませんが、そこも大丈夫、会社には漏れないので安心して相談できます。
ただし、会社の業務に関するご相談やパワハラなど会社と利害の対立するような相談は受けられないとしています。会社が従業員の福利厚生として導入する趣旨と合わなくなってしまうからです。
このあたりも、本当によく考えられており、従業員にとっても会社にとっても「超安心設計の福利厚生サービス」と言えそうです。
生い立ちなどを振り返ってお話ししていただくと、なんと、大学3年生のときに最年少で司法試験に合格した三谷さん。31歳のときに独立しますが、ご自身いわく「天狗になっていた」ところもあってなかなか顧客が増えない……。そうしたときに、三谷さんを変えてくれたのは稲盛和夫氏の盛和塾だったそうです。参加者が暖かく、「人間としてすごい人とは、こういう人をいうのか」と思えるお手本となる人たちと出会えて、稲盛氏がずっと言い続けていた「利他」にも触れていった三谷さん。
「そこで出会ったのは『経営者の身のまわりで起こる全てのことは、自分のせいである』という自責の考え方。それまでの私はまるで逆でした。全部他責、他人のせいにしていました。
悪いのはお客さん、従業員。俺はすごいのになぜって思っていたのですが、お客さんが増えないのは、自分がすごくなんかないからだ。自分に力がないからだ。そこに気付かせてもらえました。従業員が言うことを聞かないのは、尊敬されてないからだという、当たり前のことに気付かせていただいて、気持ちが楽になりました。
これまでは、他人が悪くて、変えられないから、常にイライラしていたのですが、『自分に原因がある、自分はコントロールできるから自分さえ変わればまだよくなれるのだ』とイライラがなくなりました」
「稲盛さんは『利他こそが人生を成功させるために一番大切な要素なのだ』と言っています。人がみな利他であれば、裁判など起きないのではないか。相手への思いやりを持って、つまり『利他』を実践して仕事をすれば、ビジネス上もうまくいくのではないか。心底、そう思うようになりました」
こうした気付きや思いが、「日本一裁判しない弁護士」そして「従業員を大切にする会社の新しい福利厚生=ロールーム」へとつながっていると感じます。大人になってから、自分の考え方を大きく変え、しかも行動に移すのは簡単なことではありません。思慮深く頭脳明晰かつ、とても温かい心。それらに裏打ちされた、成し遂げる行動力。そうしたものが三谷さんを形作っているように思います。
3 なんのためのサービスか? 原点に立ち返って考えた
ロールームのスタートや継続には、三谷さんたち未来創造弁護士法人の中でも大いに議論があったといいます。特に無料で相談を受ける点については、「お金になりやすい(個別案件につながりやすい)ものだけを無料で聞きましょう」「相談分野を絞って無料で受けましょう」といった議論が出てきたこともあるそうです。ビジネスとして、当然出てくる意見だと思います。
しかし、そこで三谷さんは立ち止まって考えよう、と呼びかけたそうです。
「ちょっと待って。このサービスは、何のために始めたのでしたか? 従業員の悩みを解決して、生産性を上げてもらうためですよね。
それなのに、『その悩みは聞くけども、この悩みは聞きません』って、そんなのないでしょうという議論を、社内でしました」
ほかの法律事務所では、マーケティング的にどこが儲かるか分析して、同様のサービスを実施しているところもあります。「それと同じことをやるのか。われわれがこのサービスを立ち上げようとした原点は、そんなものじゃありませんでしたよね」と、三谷さんは自社の従業員たちに投げかけます。
「マーケティング的なやりかたをしている法律事務所は、莫大なマーケティング費用をかけて、案件を集めています。
私たちのロールームは、基本的に広告費用をかけていません。会社の社長が、自分の会社の従業員に『これ良いから使ってみて』と推奨してくださることによって、マーケティング費用0なわけです。社長がそうやってくれるわけですよね。
であれば、それで来てくださる従業員の方のご相談は、全部聞こうよ、と。
『どちらが社会の役に立つか。役に立つほうが最後に成功する』というのが、稲盛さんの言葉でもありますから」
三谷さんは、こうも続けます。
「私たちのサービス、ロールームは、相談が来ないと何も始まりませんから、どんな悩みでも相談してください、となります。絶対に世の中のためになることをやっているという自信と実感がありますから、胸を張っておすすめできます。
私たちは、これ(ロールーム)で、名を上げるとか売り上げがどうだ、収入がどうだとは考えたことがなくて、絶対にこれはみなさんにお役立てていただけると確信しています。
従業員の育成の場にもなるし、弁護士の育成の場にもなるし、何をとってもいいことなのではないかと思っています」
ロールームを通じて実現されるであろう「従業員がイキイキ働く、仕事に集中する、生産性を上げる」、これは、まさに今、会社が実現しなければならない人的資本経営にとって欠かせない、というかむしろ根幹の部分ではないかと思います。
ロールームのような「本当に従業員を大切にする会社の新しい福利厚生」が、会社にとってデフォルトになる日は、それほど遠くはない気がします。新しい素晴らしい未来を感じさせていただきました、三谷さん、本当に有り難うございます!
●従業員が無料で弁護士相談できる「ロールーム」
https://lawroom.mirai-law.jp/
以上(2023年7月作成)