ここ数年、スタートアップに関連する税制は毎年のように改正されています。スタートアップの成長を促すために研究開発、人材確保、資金調達といったさまざまな方面で複数の制度が創設されており、ぜひ最新の内容(2024年.3月期に使える内容)をキャッチアップしておきたいところです。
そこで、この記事では制度の適用を受ける主体ごとに知っておきたい内容を解説します。自社に関連のありそうな税制についてピックアップし、その内容を確認してみましょう。なお、この記事で紹介する内容は2023年7月時点のものとなります。
- 研究開発税制:スタートアップ企業が適用
- ストックオプション税制:スタートアップ企業の従業員らが適用
- オープンイノベーション促進税制:スタートアップ企業へ出資する企業が適用
- エンジェル税制:スタートアップ企業へ出資する個人投資家が適用
1 研究開発税制:スタートアップ企業が適用
研究開発税制は、研究開発費用を支払った企業自身が適用できる優遇税制です。この制度はスタートアップ企業が支払った試験研究費用の一部を法人税額から控除できるというものです。研究開発税制は
- 一般試験研究費の額に係る税額控除制度(総額型)
- 特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)
- 中小企業技術基盤強化税制
の3つの制度で構成されています。ただし、1.と3.を同時に選択することはできません。
1)一般試験研究費の額に係る税額控除制度(総額型)
スタートアップ企業が支払った試験研究費の額に一定割合(1%~14%)を乗じた金額を、法人税額から控除できます。ただし、控除できるのは法人税額の25%相当額が上限です。
2)特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)
特別試験研究費とは、
大学、国の研究機関や他の企業との共同研究や委託研究などのために支払った試験研究費
です。
試験研究費の中に特別試験研究費がある場合に、上記1)に加えて、スタートアップ企業が支払った特別試験研究費の額に一定割合(20%、25%または30%)を乗じた金額を、法人税額から控除できます。ただし、この制度により控除できるのは、1)および3)とは別枠で、法人税額の10%相当額が上限となります。
なお、税額控除ができる割合は、
- 大学、国の試験研究機関などとの共同研究費用や委託研究費用の場合:30%
- 国公立大学などの外部化法人などとの共同研究費用や委託研究費用の場合:25%
- 上記以外の場合:20%
になります。
3)中小企業技術基盤強化税制
資本金の額が1億円以下など中小企業である場合には、法人税額が控除できる割合が上記1)より優遇されています。
企業が支払った試験研究費の額に一定割合(12~17%)を乗じた金額を法人税額から控除できます。ただし、上記1)制度との併用はできません。ただし控除できるのは法人税額の25%相当額が上限となります。
2 ストックオプション税制:スタートアップ企業の従業員らが適用
ストックオプション税制は、スタートアップ企業の従業員らが適用できる優遇税制です。ストックオプションとは、
従業員や取締役(以下「従業員ら」)に対して付与する自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた価格(権利行使価格)で取得できる権利
をいいます。
例えば、自社株式の株価が100円のときに、「今後3年間は自社株式を100円で取得できる」ストックオプションを従業員らに付与します。もし、3年後株価が500円に上昇したときに、従業員らがストックオプションの権利を使った場合、500円の自社株式を100円で取得することができます。取得した直後にその株式を売却すると、400円の利益が従業員らにもたらされます。
この例では、ストックオプションを行使して自社株式を取得した直後に売却し現金化していますが、成長の著しい会社(株価が上昇している会社)の場合、自社株式を取得した後、しばらく保有し続ける従業員らもいます。そのような従業員らが適用できる優遇税制がストックオプション税制です。
ストックオプション税制は、通常だと権利行使時(自社株式を取得しただけで、まだ現金として利益を得ていないとき)に時価と権利行使価格の差額に所得税が課税される(通常ストックオプション)ところ、
株式売却時まで繰り延べ、株式売却時に売却価格と権利行使価格との差額を譲渡益課税とする制度(税制適格ストックオプション)
です。
税制適格ストックオプションの主な要件は、次の通りです。
- 付与の対象:企業およびその子会社の取締役・執行役・使用人
- 発行価格:無償発行
- 権利行使期間:付与決議日後2年を経過した日から10年(設立5年未満の未上場企業は15年)を経過する日まで
- 権利行使限度額:年間の合計額が1200万円以下
- 権利行使価額:ストックオプションに係る契約締結時の時価以上の金額
- 譲渡制限:新株予約権は他者への譲渡が禁止
- 保管委託:行使後は証券会社または金融機関などによる保管・管理等信託が必要
3 オープンイノベーション促進税制:スタートアップ企業へ出資する企業が適用
オープンイノベーション促進税制は、スタートアップ企業に出資した企業が受けられる優遇税制です。企業がオープンイノベーションを目的にスタートアップ企業に出資すると、その出資により取得した株式の取得価額の25%を所得から控除できる制度です。
出資する株式が新規で発行される株式の場合(新規出資型)と、すでに発行されている株式を取得した場合(M&A型)でそれぞれ要件が異なります。
なお、所得の控除を受けた事業年度以降(新規出資型は3年以内、M&A型は5年以内)に一定の事由が生じた場合、控除を受けた額を益金(税務上の収益)に算入しなければなりません。主なケースには、
- 対象企業が青色申告書の提出の承認が取り消された
- 対象企業が解散した
- 対象株式の取得から5年を経過した場合(5年以内に一定成長要件を満たす場合を除く。M&A型のみの要件)
などがあります。
4 エンジェル税制:スタートアップ企業へ出資する個人投資家が適用
エンジェル税制は、スタートアップ企業への投資を行った個人投資家が受けられる優遇税制です。個人投資家がスタートアップ企業に投資を行った際に、
- 優遇措置A:「対象企業への投資額-2000円」をその年の総所得金額から控除できる(総所得金額×40%もしくは800万円のいずれか低い方の金額が上限)措置
- 優遇措置B:対象企業への投資額全額をその年の他の株式譲渡益から控除できる措置
のいずれかを受けられます。それぞれ適用を受けるためには一定の要件を満たす必要があります。また、株式売却時において損失が生じた場合は、
その損失をその年の他の株式譲渡益と通算(相殺)できる
だけではなく、
その年に通算(相殺)しきれなかった損失については、翌年以降3年にわたって、順次株式譲渡益と通算(相殺)ができる
ことになっています。
1)優遇措置Aの主な適用要件
設立5年未満のスタートアップ企業のうち、設立経過年数に応じた規定を満たす企業を対象とした投資が要件となります。
2)優遇措置Bの主な適用要件
設立10年未満のスタートアップ企業のうち、設立経過年数に応じた規定を満たす企業を対象とした投資が要件となります。
以上
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年7月11日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
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