突然ですが、皆さんの周りに「この人、面倒だな」と感じる人はいますか? 「面倒」の意味はいろいろありますが、私がイメージしているのは「人に何かを言われても、簡単には自分の意見を曲げない頑固な人」です。例えば、リーダーがチームの行動方針を提案したとき、1人だけ反対するような人です。リーダーや他のメンバーからすれば、反対する人を説得するのには手間も時間もかかるので、面倒だと思う気持ちも分かります。
ただ、私はこうした面倒な人こそ、会社に必要な人材だと思っています。ちょうど大河ドラマで「どうする家康」が放映中ですので、けさは徳川家康の家臣を例に、この話をしたいと思います。
家康の家臣の多くは、家康の一族に代々仕えた譜代の武士で、本拠地にちなみ「三河武士」と呼ばれます。三河武士は戦場では勇敢な一方で、冒頭で話した「面倒な人」が多いことでも有名です。
例えば、三河武士の中でも随一の猛将として知られる本多忠勝(ほんだただかつ)です。彼は、娘婿の真田信之(さなだのぶゆき)が、家康の敵となった父・昌幸(まさゆき)と弟・幸村(ゆきむら)の助命を嘆願した際に、「真田親子を助けなければ、自分は徳川の兵と戦って死ぬ」とまで言って後押ししました。忠勝以外にも似たようなことをした家臣はいます。家康の立場からすれば、面倒なことこの上ないでしょうが、彼は多くの場面でこうした家臣の振る舞いを許し、少なからずその意見を聞き入れています。なぜでしょうか?
私は、家康がこの三河武士の面倒さを、逆に頼もしく感じていたからではないかと思います。誰かとの衝突を恐れず、そこに自分の命を懸けられる家臣は、他国と戦いになったときに頼りになるからです。しかも、家康に異を唱えた三河武士の多くは、自分の損得だけではなく、徳川家や家康のことまで考えていました。信之の嘆願を後押しした忠勝は、信之に恩を売ることによって、信之と真田家の家臣や旧領の民を徳川家がしっかり掌握できるメリットまで考えていたはずです。
家康の三河武士への信頼感は、豊臣秀吉に「あなたの宝物は何か」と聞かれた際、「私のために命を懸けてくれる家臣が500人います。それが宝物です」と答えたという逸話からも分かります。
私たちの仕事の話に戻ります。この会社では、残念ながら経営者である私が決めることに、異を唱える人がほとんどいません。スピーディーに物事を進められるのは良い面もありますが、一方で「皆さんは、ただトップに従うだけでいいのか」「自分の本気をトップにぶつけてでも成し遂げたいことはないのか」と不安にもなります。
私の考えが全部正しいなんてことは、あり得ません。ですから、皆さんの中に、会社の方針に少しでも疑問を抱いている人がいるのなら、それを私にぶつけてきてください。衝突を恐れず、そこに本気で挑める人が、これからの会社を支えます。ここぞというときには、面倒な三河武士になることも大切なのです。
以上(2023年7月)
pj17147
画像:Mariko Mitsuda