書いてあること

  • 主な読者:バス、タクシー、トラック事業者の運行管理者
  • 課題:目視・対面で点呼をしなくても良くなったらしいが詳しく知りたい
  • 解決策:法令など最新情報を確認し、自社の実情に合った対応を進める

1 「点呼」は目視・対面でなくてもOKに

日本の旅客や物流を支えるバス、タクシー、トラックの運行管理者の皆さん。ドライバーに対して実施しなければならない日々の「点呼」のスタイルが大きく変わりつつあります。

従来は、顔を見て、声を聞き、挙動やにおいも分かる「対面点呼」が当然でした。しかし、いわゆる「新・点呼告示」(2023年3月31日・国土交通省告示第266号。対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示)によって、

所定の要件を満たす機器を使った「業務後自動点呼」や「遠隔点呼」も認められる

ようになったのです。

「2024年問題」が迫る自動車運送業界。運行管理者の業務の1つとして重要な「点呼」ですが、その業務負担は、こうした機器の導入で軽減できる可能性があります。ひいては、業界全体のDXにつながることが期待されます。

この記事では、運行管理者が点呼に立ち会わなくてもよい「業務後自動点呼」に特に注目し、自動点呼に対応するための要件などについて分かりやすく解説します。

2 業務後自動点呼を始めるには

1)対象事業者はバス、タクシー、トラック事業者

業務後自動点呼や遠隔点呼が認められるのは、バス、タクシー、トラックの3業種いずれかの事業者に限られます。

自家用の営業車などを使っている「白ナンバー事業者」にも、ドライバーに対して運転前後の飲酒チェックが義務付けられています(アルコール検知器の使用義務化は2023年12月1日から施行予定)が、「新・点呼告示」では対象外です。

2)業務後自動点呼を行うためには

業務後自動点呼は、運行管理者等の立ち会いなしで、

点呼で実施する確認、指示、判断、記録の一部または全てを、国が定める機器認定要件を備える自動点呼機器に代替させる

ものです。

業務後自動点呼は、営業所または営業所の車庫で、その営業所に所属するドライバーに対して行うことが認められています。業務後自動点呼を行おうとする営業所を管轄する運輸支局に、実施予定日の10日前までに届け出をすることが必要です。

なお、国土交通省「運行管理高度化検討会」のウェブサイトで、運送事業者向けチェックリストや、認定を受けた自動点呼機器が紹介されています。詳細は次のウェブサイトをご確認ください。

■国土交通省「運行管理高度化検討会」■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000082.html

ここでは、業務後自動点呼を行うために満たさなければならない、「自動点呼機器の機能の要件」「自動点呼機器を設置する施設・環境の要件」「自動点呼機器の運用上の遵守事項」について解説します。

1.自動点呼機器の機能の要件

自動点呼機器の機能の要件は、新・点呼告示第9条第1号~第14号にわたって定められています。具体的には次のような機能を備えた機器を導入する必要があります。

  • 業務後自動点呼に必要な事項の確認、判断および記録を実施できる機能
  • 運行管理者等が、ドライバーごとの点呼の実施予定、点呼に責任を持つ運行管理者の氏名を入力し、点呼の実施状況および実施結果を確認できる機能
  • 個人を確実に識別できる生体認証(顔認証、静脈認証、虹彩認証など。以下同じ)でドライバー本人と識別された場合に、点呼を開始する機能
  • 生体認証でドライバー本人と識別された場合に、アルコール検知器が作動する機能
  • アルコール検知器による測定結果(ドライバーの呼気中のアルコールの有無または濃度)や、測定時の静止画または動画を自動的に記録・保存する機能
  • ドライバーの呼気中にアルコールが検知された場合に、運行管理者に警報または通知を発し、業務後自動点呼を完了できなくする機能
  • ドライバーが従事した運行業務に係る自動車、道路、運行状況、交代するドライバーに対する通告について、ドライバーが口頭で報告した内容をデータとして記録し、運行管理者が確認できる機能
  • 運行管理者がドライバーに伝える指示事項を、ドライバーごとに画面表示または音声により伝達できる機能
  • 業務後自動点呼に必要な事項の確認、判断および記録がなされない場合や、機器が故障した場合に、業務後自動点呼を完了できなくする機能
  • ドライバーごとに業務後自動点呼の実施予定時刻を設定でき、予定時刻を過ぎても業務後自動点呼が完了しない場合に、運行管理者等に警報または通知を発する機能
  • 業務後自動点呼を受けたドライバーごとに、業務後自動点呼の実施記録(運行管理者の氏名、当該ドライバーの氏名、実施日時などの項目)をデータとして記録し、その記録を1年間保存する機能
  • 自動点呼機器が故障した場合、故障発生日時や故障内容をデータとして記録し、その記録を1年間保存する機能
  • 業務後自動点呼の実施記録や機器の故障発生の記録は修正・消去ができない、または修正できても変更前の情報が保存され消去できない機能
  • 自動点呼機器に保存された、業務後自動点呼の実施記録や機器の故障発生の記録を、CSV形式で出力できる機能

2.自動点呼機器を設置する施設・環境の要件

自動点呼機器を設置する施設・環境の要件は、新・点呼告示第10条に定められています。

なりすまし、アルコール検知器の不正使用および所定の場所以外で業務後自動点呼が実施されることを防止するため、

業務後自動点呼実施場所の天井などに監視カメラを備え、運行管理者等が、業務後自動点呼を受けるドライバーの全身を常時または業務後自動点呼実施後に、明瞭に確認することができること

が求められます。

3.自動点呼機器の運用上の遵守事項

自動点呼機器の運用上の遵守事項は、新・点呼告示第11条第1号~第11号に定められています。詳細は割愛しますが、

  • 業務後自動点呼の運用に関し必要な事項について、あらかじめ運行管理規程に明記し、関係者(運行管理者等、ドライバー)に周知すること
  • 自動点呼機器の使用方法、故障時の対応などについて、関係者にあらかじめ教育・指導を行うこと
  • ドライバーの呼気からアルコールが検知された場合や、自動点呼機器が故障した場合に、運行管理者が確認できる体制を整えること
  • 業務後自動点呼の対象となるドライバーの識別に必要な生体認証情報は、本人の同意を得て取得すること

などが求められます。

業務後自動点呼は、条件付きで認められるもので、

運行管理者等は点呼に立ち会う必要はないものの、非常時に常に対応できる体制

が必要です。非常時には自動点呼は完了しないので、運行管理者等がすぐに駆けつけ対応できるようにしなければならないでしょう。

3)業務後自動点呼の実施に係る届け出の様式

繰り返しになりますが、業務後自動点呼を行おうとする場合、当該の営業所を管轄する運輸支局に、実施予定日の10日前までに届け出ることが必要です。業務後自動点呼の実施に係る届出書は、前述した国土交通省「運行管理高度化検討会」のウェブサイトから入手できます(次のURLから直接Wordファイルをダウンロード可能です)。

■業務後自動点呼の実施に係る届出書(旅客運送用)■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001612811.docx
■業務後自動点呼の実施に係る届出書(貨物運送用)■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001612812.docx

届出書は1枚ですが、添付書類は多岐にわたって用意する必要があります。届け出自体は、運輸支局の担当宛てにメール送信でも可能です。

3 自動点呼機器の導入費用の補助・助成

業務後自動点呼を行うためには、自動点呼機器や監視カメラの導入が欠かせません。

国土交通省は、「過労運転防止のための先進的な取り組みに対する支援」などとして、自動点呼機器などを導入する自動車運送事業者向けに補助事業を行っています。

2023年6月末時点で対象機器の募集が行われており、その選定が終わった後、支援施策の詳細が公表される予定です。

■国土交通省自動車局「事故防止対策支援推進事業」■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/subcontents/jikoboushi.html

また、全日本トラック協会では、各都道府県トラック協会の会員事業者のうち、中小事業者を対象として、自動点呼機器の導入費用(周辺機器、セットアップ費用および契約期間中のサービス利用料を含む)の一部を助成しています。助成額は、1事業者当たり1台分(上限10万円)で、安全性優良事業所(Gマーク事業所)を有する事業者は2台分(上限20万円)になります。

■全日本トラック協会「令和5年度 自動点呼機器導入促進助成事業について」■
https://jta.or.jp/member/shien/tenko2023.html

4 近い将来、「業務前」自動点呼もOKに?

2023年3月23日に開催された国土交通省「運行管理高度化検討会(令和4年度第4回)」では、業務前自動点呼の導入に向けた実証実験を2023年度前半に開始するとしており、早ければ2023年12月ごろから業務前自動点呼が解禁されるかもしれないという見立てもあります。今後も、政策の動向をウオッチしながら、自社の実情に適した点呼のあり方を探ってみてはいかがでしょうか?

以上(2023年8月)

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画像:scharfsinn86-Adobe Stock

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