書いてあること
- 主な読者:人材や設備投資を検討している中小企業の経営者・税務担当者
- 課題:人材・設備投資をした場合に受けることができる税金対策を知りたい
- 解決策:投資活動を行った場合に選択することができる税優遇の基本的な仕組みや、主な投資に関する税制の概要を説明
1 企業の成長に欠かせない「投資」に係る優遇税制
企業の成長には、人材や設備などに対する投資は必要不可欠です。これらの投資活動を活性させるために、税制においても減税や軽減措置などの優遇規定を幾つか設け、その後押しを行っています。本稿では、このような投資活動を行った場合に選択することができる税優遇の基本的な仕組みや、主な投資に関する税制の概要を説明します。
なお、本稿では、法人税の内容について紹介しますが、個人事業者(所得税)についても同様な優遇税制が設けられており、これらの内容は法人税と基本的な部分で変わりはありません。
2 優遇税制の基本的な仕組み
1)青色申告の選択
税制において、人材確保や設備などに対する優遇税制を受けるための大前提として、納税者は青色申告を選択する必要があります。そして、青色申告を選択するためには、青色申告を行おうとする事業年度が開始する日の前日まで(設立の日の属する事業年度の場合は、設立の日以後3カ月を経過した日とその事業年度終了の日とのいずれか早い日の前日まで(注))に、一定の事項を記載した「青色申告の承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出し、その承認を受ける必要があります。
青色申告の承認を受けると、納税者は税法に定める人材確保や設備購入などに関する一定の要件を満たす投資を行った場合に、納税者自身の選択により、特別償却や税額控除などの優遇税制を受けることができるようになります。
(注)個人の場合は、適用を受けようとする年の3月15日(その年の1月16日以後、新たに事業等を開始した場合には、その事業等を開始した日から2カ月以内)までです。
2)特別償却と税額控除の違い
優遇税制の種類は幾つかありますが、投資活動に関するものとして、主に特別償却と税額控除を挙げることができます。
特別償却は、通常の減価償却費(以下「普通償却費」)の他に、設備の取得など投資をした固定資産の取得価額に、一定の割合を乗じて計算するなどした特別な償却費(以下「特別償却費」)の損金算入を認めるという制度です。よって、損金に算入することができる償却費が増加(普通償却費+特別償却費)することで、所得金額を減少させる効果があり、資本投下の資金を早期に回収することが可能になります。
一方、税額控除は、所得金額から算出された当事業年度の法人税額から、投資をした固定資産の取得価額などに一定の割合を乗じて計算した金額を直接法人税額から控除し、納める法人税額を減少させることができる制度です。ただし、直接法人税額から控除することができる金額は、原則として所得金額から算出された当事業年度の法人税額の10%または20%が上限となります。
なお、特別償却と税額控除のいずれも適用を受けることができる要件を満たしている場合でも、重複適用はできません。また、確定申告後に「特別償却(税額控除)から税額控除(特別償却)への変更」も認められません。どちらの制度を適用したほうが、自社にとって有利になるかは、会社の事情ごとに異なるため、いずれの制度を選択するかを申告書の提出期限までに、税理士などの専門家と相談して決めておく必要があります。
3)一時償却と割増償却の違い
特別償却については、さらに一時償却と割増償却に分けることができます。一時償却は、原則として取得した固定資産の使用を開始した事業年度のみに適用される「初年度償却の制度」になりますが、割増償却は一定の期間において「複数の事業年度において適用を受けることができる制度」になります。また、一時償却の計算方法は、取得した固定資産の取得価額を基に計算されるのに対し、割増償却は、普通償却費に一定の割合を乗じて特別償却費の額を計算します。この割増償却の制度は、建物や構築物、機械装置など使用可能期間の年数が比較的長い資産について適用されることが多いようです。
3 主な「投資」に関する税制
1)中小企業投資促進税制(機械等・特定経営力向上設備・経営改善設備の取得)
中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が、2019年4月1日から2021年3月31日までの間に一定の設備投資を行った場合には、7%の税額控除または30%の特別償却(一時償却)の適用を受けることができます。なお、対象となる設備投資には次のものがあります。
2)商業・サービス業・農林水産業活性化税制
認定経営革新等支援機関等による経営の改善に関する指導および助言を受け、かつ、売上高または営業利益の伸び率が年2%以上であることの確認を受けた中小企業者等が、2019年4月1日から2021年3月31日までに一定の経営改善設備投資を行った場合には、7%の税額控除または30%の特別償却(一時償却)の適用を受けることができます。なお、対象となる設備投資には次のものがあります。
3)給与等の引き上げ及び設備投資等を行った場合等の税額控除(賃上げ・設備投資促進制)
2018年4月1日から2021年3月31日までに開始する各事業年度において、企業が国内雇用者に対して給与等を支給し、一定の要件を満たす場合には、給与等支給増加額の15%(教育訓練費の額の比較教育訓練費の額(前事業年度及び前々事業年度の教育訓練費の額の年平均額)に対する増加割合が20%以上であるときは、給与等支給増加額の20%)の税額控除の適用を受けることができます(法人税額の20%が上限)。さらに、中小企業者等のときは、一定の要件を満たすときは、給与等支給増加額の25%の税額控除の適用を受けることができます(法人税額の20%が上限)。
4)中小企業の防災・減災の設備投資に係る特別償却の創設
青色申告書を提出する中小企業者等(前事業年度の所得金額の平均が年15億円を超える法人など一定の法人を除く)は、次の要件を満たす場合、一定の設備等(特定事業継続力強化設備等)の取得価額の20%を特別償却の適用を受けることができます。
- 中小企業等経営強化法の事業継続力強化計画または連携事業継続力強化計画の認定を受けた者
- 中小企業等経営強化法の改正法の施行の日から2021年3月31日までの間に一定の設備等(特定事業継続力強化設備等)を取得等し、事業の用に供した場合
特定事業継続力強化設備等とは、災害への事前対策を強化するための設備等で、次のものをいいます。
4 優遇税制の適用を考える際の留意点
これらの優遇税制は、その時々の政策の影響を受けるため、毎年行われる税制改正の動向を注視しておきましょう。税制改正では、それぞれの制度で定められている要件など(資本金の額や取得資産の金額基準、適用期限など)が変更されることが多くあり、実際に適用を受ける際には最新の適用条件を満たさなければなりません。また、実務上の手続きとして、申告書に証明書や認定書の写しを添付する必要があるため、あらかじめ、税務署や顧問税理士に相談の上、適用を受ける制度をよく確認するようにしましょう。
以上(2020年3月)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)
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