書いてあること
- 主な読者:仕事はできるが、勤務態度が悪い社員に困っている経営者や人事労務担当者
- 課題:解雇もやむを得ないが、仕事はできるのでいなくなった後の影響が大きい?
- 解決策:「服務規律違反」には毅然と対処しつつ、「解雇する前」の段階で手を打つ
1 優秀だけど問題が多い社員。残すかどうか?
仕事はできるが、短気で口が悪い、上司の命令に従わない、遅刻が多いといった問題の対応は難しいものです。ただの問題社員なら、場合によっては辞めてもらう(解雇する)という選択肢がありますが、相手が会社の中核を担う優秀な社員だと、辞めた後の影響が心配です。とはいえ、優秀だからといって問題社員を放置するわけにはいきません。
このようなケースにどのように対応すべきかについて、次の2つを紹介します。
- 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する
- 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ
2 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する
就業規則には「服務規律(社員が守るべき基本的な行動規範)」があります。誰が相手でも「服務規律」を厳格に適用することが基本です。その上で、勤務態度が悪い社員には次のような流れで対処します。
図表のうち、2)については労働条件通知書、雇用契約書や就業規則への定めが、3)から5)については就業規則への定めが必須です(ただし、1)については特に定めは不要)。
また、5)の「普通解雇」とは、
社員としての適性がない(能力、健康状態、勤務態度などに問題がある)ことを理由とする解雇
です。問題社員に対処する場合、「懲戒解雇」をイメージする人も多いでしょうが、懲戒解雇は原則、横領やハラスメントなど重大な問題行為を対象とした処分なので、単に勤務態度が悪い社員に対して行っても無効となる可能性が高いです。
図表のケースであれば、1)から4)までの行程を経ても社員の勤務態度が改善されなければ、5)の普通解雇は免れないという考え方です。逆に言えば、
1)から4)までの行程で社員が問題行為を起こさない状況をつくれば、解雇する必要はなくなる
ということになります。次章では、「『解雇する前』の段階で手を打って社員を会社に残す」という観点から、図表の各行程のポイントを紹介していきます。
3 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ
1)注意:問題行為は必ず注意する。ただし、社員の言い分も聞く
社員の勤務態度に問題があれば、まずはその上司が「君の言動は間違っている。改めなさい」などと注意します。大切なのは、「問題行為を発見したら必ず注意する」という姿勢です。時によって対応がまちまちになると、せっかく注意をしても社員から「今日は、上司の機嫌が悪いから注意されたのかな」などと、軽く受け取られる恐れがあります。
また、注意する際は社員の言い分も聞きます。例えば、仕事の進め方について上司の命令を聞かない社員は、もしかしたら自分のやり方のほうが合理的だと思っているかもしれません。実際にそうならば、
「君のやり方のほうが良さそうだ、今回はそれでやってみよう。ただし、次回から自分の考えを試したい場合は事前に相談してくれ」
と社員の意見を取り入れつつ、相談を怠ったことを注意します。
繰り返し注意しても改善が見られない場合、
「注意書」「指導書」などの形で、どのような注意をしたかを書面で残しておく
と、「言った、言わない」のトラブルになるのを防げます。
2)配置転換など:問題行為を起こしにくく、能力を発揮できる状況をつくる
注意しても社員の勤務態度が改善しなければ、
- 短気で口が悪い社員は、他の社員と関わらずに1人でできる業務を与える
- 上司の命令に従わない社員には、思い切って権限を移譲してみる
- 遅刻が多い社員は、「9時始業、18時終業」などの均一的な労働時間管理が適していない可能性を考え、働く時間を自分で決められる「フレックスタイム制」を適用する
といった具合に、配置転換や労働条件の変更を検討します。社員の勤務態度を改めさせるというよりも、社員が問題行為を起こしにくい状況をつくるイメージです。
ただし、例えば「問題行為は起きにくいが、単純作業しか行わないポジションに就ける」といった配置転換は、場合によってはパワーハラスメントになる恐れがありますし、優秀な社員を活用し続けたいという会社側の意図にも反します。ですから、
社員が「どうすれば問題行為を起こしにくいか」だけでなく、「どうすれば能力を発揮しやすいか」も考慮した上で、配置転換などを実施することが大切
です。
3)懲戒処分:貢献度に応じて処分を軽減しつつ、警告を忘れない
配置転換などをしても効果がなければ、就業規則の懲戒事由に基づいて懲戒処分を検討します。懲戒処分は、一般的に次の7種類に分けられます。なお、社員の問題行為に対して重すぎる懲戒処分や、弁明の機会を与えずに行った懲戒処分は無効になり得ますので注意が必要です。
- 戒告:厳重注意を言い渡す(懲戒処分として行うので、前述した「注意」とは異なる)
- けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
- 減給:一定期間、賃金額を下げる
- 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
- 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
- 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
- 懲戒解雇:即時に解雇する
一概には言えませんが、単に勤務態度が悪い社員に対して懲戒処分を行う場合、
一般的には「1.戒告」から「3.減給」あたりが妥当(「口が悪い」が行き過ぎてパワハラに当たる指導を繰り返した場合などは、「4.出勤停止」「5.降格」もあり得る)
です。実際は、「当該行為の動機、目的、方法、頻度等の行為態様」「会社に与えた損害や周囲への影響」「社員の過去の処分歴・指導歴や反省態度」「会社側の落ち度」「社員の会社への貢献度」などを考慮して慎重に判断します。例えば、社員が過去に新サービスを立ち上げたなど、客観的に評価できる実績がある場合、
その貢献度を考慮して、処分を引き下げること
が可能です。とはいえ、単に処分を軽くするだけだと社員が増長する恐れもあるので、
「今回は、君のこれまでの会社への貢献度を考えて軽い懲戒処分とする。ただ、今後勤務態度に改善が見られなければ、次はより重い処分を科す用意がある」
といった具合に、社員が反省しない場合の警告もします。
4)退職勧奨:退職を促しつつ、社員に反省の意思があれば雇用継続を検討する
懲戒処分後も状況が変わらなければ、「退職勧奨」の実施を検討します。退職勧奨とは、
会社から社員に自主退職を促し、社員が同意した場合に退職させること
で、一般的な流れは次の通りです。
- 「注意」「配置転換など」「懲戒処分」を実施したが状況が改善しなかったため、会社としては社員に自主退職してもらいたいと考えている旨を伝える
- 退職勧奨に応じる場合の条件(退職金の支払い、年次有給休暇の消化など)について説明する
- 社員に退職勧奨に応じるかを確認し、応じた場合に退職が成立する
退職勧奨は、会社が一方的に労働契約を解除する解雇と違い、社員に退職を強制するものではありません。ですから、
仮に社員がこの時点で「退職したくありません、これまでの勤務態度を改めます」などと言ってくるようであれば、反省の様子によっては雇用を継続する
という選択肢もあります。逆に、ここでも社員が反省せず退職勧奨にも応じない、あるいは「勤務態度を改める」というのが口だけで、その後も改善が見られないといった場合、解雇せざるを得ないという判断になります。
5)普通解雇:この行程まで来たら雇用継続は諦める
退職勧奨後も改善が見られなければ、「普通解雇」の行程に移ります。労働基準法では、
普通解雇に限らず、解雇はその30日前に解雇予告をして実施しますが(解雇予告手当を支払えば日数を短縮可)、一度解雇予告をしたら会社の意思で撤回することは不可
です。つまり、普通解雇を決定したら、社員の雇用を継続するのは諦めなければなりません。繰り返しになりますが、どれだけ優秀であっても、この行程まで来て勤務態度に改善が見られないような社員を雇用し続けることは、企業秩序を危うくします。企業秩序と社員の定着、両立できればそれが一番ですが、
いざ両立が難しくなったときは、企業秩序を優先するという姿勢を貫くこと
が大切です。
以上(2023年10月)
(監修 弁護士 田島直明)
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