書いてあること

  • 主な読者:適正な会計・税務処理を徹底した経営者・経理担当社
  • 課題:固定資産に関する会計・税務上多くの規定があるため、処理を行う際、判断に迷いやすい
  • 解決策:固定資産に関する会計・税務上の取り扱いについて、「取得時」「修理・改良時」「除却・売却時」に分けて解説

1 判断に迷う固定資産の会計・税務上の処理

固定資産(本稿においては有形固定資産に限る)に関しては、会計・税務上多くの規定があるため、処理を行う際、判断に迷うことが少なくありません。

固定資産と一言で言っても、建物や機械装置、車両などさまざまなものがあります。そのため、固定資産を取得すると、まずは、その固定資産がどの種類に分類されるのかを判断していかなければなりません。主な固定資産の種類は次の通りです。

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例えば、社屋を新たに建設した場合には、建物本体(「建物」)だけでなく、電気設備や給排水・衛生設備、ガス設備などの「建物附属設備」、舗装道路・路面などの「構築物」などに分類し、それぞれの取得価額などを決めていかなければなりません(詳細は後述)。

また、修理・改良や除却・売却を行った場合も、会計・税務上の判断が必要になります。

本稿では、固定資産の取得、修理・改良、除却・売却時の会計・税務上のポイントを紹介します。なお、実務では、会計上の処理においても税法上の規定を適用している企業が多いことから、本稿においては、税法上の規定を前提にしています。また、最終的な判断については、公認会計士や税理士などの専門家と相談するようにしましょう。

2 取得時(購入の場合)のポイント

1)取得価額の決定

取得価額は次の算式で計算されます。

  • 取得価額=購入代価+事業の用に供するために直接要した費用

固定資産の取得価額には購入代価だけでなく、「事業の用に供するために直接要した費用」が含まれます。例えば、機械の据付費や試運転費用などが該当します。

なお、次の費用については、固定資産の取得価額に含めなくてもよいとされています。

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2)減価償却方法などの選択

ほとんどの固定資産は減価償却という手続きが必要になります。減価償却とは、取得価額を耐用年数にわたって適正に配分(減価償却費(費用)として計上)することで、適正な期間損益計算を行うことを目的とした会計上の計算手続きになります。なお、土地のように使用や時間の経過で価値が減少しないものは、減価償却を行いません。

減価償却は、事業の用に供した日(使用を開始した日)から行わなければならないため、取得時に減価償却方法や耐用年数を判断しておく必要があります。

1.減価償却方法

主な減価償却方法としては定額法、定率法、生産高比例法があります。なお、生産高比例法は、対象資産が限定されているため、本稿では説明を省略します。

定額法とは固定資産の耐用年数にわたって、毎期、均等の額を減価償却費として計上する方法です。一方、定率法とは固定資産の耐用年数にわたって、毎期、前期末の未償却残高(取得価額-減価償却累計額)に一定の償却率を乗じて計算した金額を減価償却費として計上する方法です。

定額法と定率法の違い(イメージ)は次の通りです。

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現在、新たに取得した建物・建物附属設備・構築物の減価償却方法として選択できるのは定額法のみとなります。その他の固定資産(生産高比例法の適用が認められているものを除く)は、定額法または定率法のいずれかを選択して適用することになります。

定額法と定率法の大きな違いは、固定資産の減価償却費につき、耐用年数にわたって平均的に計上するか、耐用年数の初期には多く、後になるにつれて少なく計上するかという点です。なお、耐用年数を通して見た場合、減価償却費の合計額はいずれも同額になります。

減価償却方法は、固定資産の種類ごとに選定し、税務署に届出を行います。もし、届け出た減価償却方法を変更しようとするときは、原則として、その変更しようとする事業年度開始の日の前日までに税務署に申請書を提出し、承認を受けなければなりません。

2.耐用年数

法定耐用年数とは固定資産が使用できる期間として、法的に定められている年数をいい、減価償却を行う期間として使われます。法定耐用年数は、固定資産の種類・仕様・用途などさまざまな要素ごとに細かく規定されており、それぞれの固定資産の特徴を考慮して決定します。

3)少額の減価償却資産と一括償却資産

1.少額の減価償却資産

少額の減価償却資産とは、「使用可能期間が1年未満」または「取得価額が10万円未満」のいずれかに該当する減価償却資産(減価償却を行う固定資産)をいい、その事業の用に供した事業年度において、取得価額の全額につき損金経理(費用として経理)をした場合に、その全額を損金(税務上の費用)の額に算入することができます。

つまり、固定資産として計上するのではなく、消耗品費などの費用と同様に処理できます。そのため、減価償却を行う必要がありません。

なお、特例として青色申告を行う中小企業者等(資本金の額などが1億円以下で一定の法人)の場合は、一定の範囲内で、取得価額が30万円未満である減価償却資産を少額の減価償却資産と同様に処理することができます。

2.一括償却資産

一括償却資産とは、取得価額が20万円未満の減価償却資産をいい、3年間の均等償却をすることができます。

つまり、機械装置や工具器具備品などの個々の耐用年数を把握し、固定資産として計上するのではなく、一括償却資産として計上し、3年間の均等償却を行います。そのため、通常の減価償却を行う必要はありません。

少額の減価償却資産と一括償却資産、中小企業等の少額減価償却資産の特例の概要は次の通りです。

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3 修理・改良時のポイント

固定資産は長期にわたり使用するものも多く、修理・改良(以下「修理等」)が必要になることがあります。ここで問題となるのが、その修理等のための支出を費用(修繕費)として計上するのか、または新たな固定資産の取得と見なし、固定資産として計上するのか(資本的支出)の判断です。

修繕費は通常の維持管理または原状回復のための支出をいいます。一方で、資本的支出とは、固定資産の修理等のうち、その固定資産の価値や耐久性を高めたと認められる支出をいいます。例えば、資本的支出に該当するものとしては、次のようなものがあります。

  • 建物の避難階段の取り付け等、物理的に付加した部分に係る費用の額
  • 用途変更のための模様替え等、改造または改装に直接要した費用の額
  • 機械の部分品を特に品質または性能の高いものに取り換えた場合のその取り換えに要した費用の額のうち、通常の取り換えの場合にその取り換えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額

ただし、上記の事例だけでは判断のつかない修理等が多く、次の修繕費と資本的支出の判断用フローチャートを参考にしながら、実際の修理等ごとに検討する必要があります。

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4 除却・売却時のポイント

固定資産は老朽化や陳腐化により、除却・売却することになります。除却・売却したときには、その時点における固定資産の帳簿価額と売却価額の差額を固定資産除却(売却)損益として計上します。なお、除却・売却の際に、手数料などの付随費用が生じたときは、その金額は固定資産除却(売却)損益に含めて処理します。

除却の場合には、実際に廃棄せずに保有している固定資産であっても、次の場合には固定資産除却損を計上することができます。

  • その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
  • 特定の製品の生産のために専用されていた金型などで、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況などから見て明らかなもの

なお、一括償却資産として3年間の均等償却をしているものを償却期間中に除却または売却した場合には、上記の取り扱いとは異なります。一括償却資産に係る固定資産除却(売却)損に相当する額(当該事業年度に減価償却費として計上できる金額を除く)は損金の額に算入することができないため、除却または売却した事業年度においても、引き続き3年均等償却を行うことになります。実務上は、一度固定資産除却(売却)損を計上し、税務申告書上で調整をすることになります。

以上(2020年3月)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

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