高齢化や生産年齢人口(15歳~64歳)の減少が続く中で、ビジネスケアラー(仕事をしながら家族等の介護に従事する者)の数は増加傾向にあり、介護に起因した労働総量や生産性の減少が懸念されております。
介護と仕事の両立実現に向けては、職場・上司の理解が不足していることや、両立体制構築に当たっての初動支援が手薄いこと、介護保険サービス単体ではカバー範囲が限定的であること等が課題として挙がり、従業員個人のみでは十分な対応が困難な状況です。
本稿では、日本でのビジネスケアラーの人数推移を解説するとともに、企業が行える仕事と介護の両立支援について、ご紹介してまいります。
1 ビジネスケアラーなどの推移
2030年には家族介護者833万人に対して、その約4割(約318万人)がビジネスケアラーになるとされています。また、ビジネスケアラー発生の労働生産性損失や離職に伴う経済損失額は、約9兆円に上ると推計されています。
(経済産業省「家族介護者・ビジネスケアラー・介護離職者の人数の推移」)
政府は2016年に「介護離職者数ゼロ」を掲げ、「介護離職の防止」に対する取り組みが進められてきました。しかしながら、2020年時点でビジネスケアラーは介護離職者に対して37倍超の人数がおり、深刻な問題となっていることが見て取れます。
2 仕事と介護の両立支援
2017年の法改正で、介護休業制度の見直しなどが行われ、介護離職者数は大きく増加することなく推移しています。一方で、在職しているがゆえ問題が見えづらいビジネスケアラーに対し、フォローが行き届いていない状況が生まれているのではないでしょうか。
企業としては、従業員にヒアリングなどを行いながら、以下のような法定の介護支援策の推奨や、必要に応じて法定外の支援策を検討すること、職場内での理解と助け合いを促していくことが肝要です。
《育児介護休業法に基づく介護支援》
介護休業 |
対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割で休業を取得できる。 |
介護休暇 |
介護や世話をするために、年5日(対象家族が2人以上の場合は、年10日)まで、1日または時間単位で休暇を取得できる。 |
所定外労働の制限 |
介護をするために申請した場合、所定外労働を免除しなければならない。 |
時間外労働の制限 |
介護をするために申請した場合、1か月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせてはいけない。 |
深夜業の制限 |
介護をするために申請した場合、深夜に働かせてはいけない。 |
短時間勤務等の措置 |
短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤の制度、介護費用の助成などの措置を講じる |
3 さいごに
前述の通り、今後ますますビジネスケアラーが増加することが想定されており、看過しては生産性の低下、ひいては介護離職に至る可能性もあります。これは企業にとっても労働者にとっても不幸でしかありません。
高齢化が進展するこれからの時代を見据え、皆が介護を行う当事者になり得るという可能性について認識を共有しながら、ビジネスケアラー対策への準備を進めてみてはいかがでしょうか。
※本内容は2023年9月11日時点での内容です
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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