書いてあること

  • 主な読者:自社の法人税等の負担を正確に把握し、支払いを抑えたい経営者や税務担当者
  • 課題:黒字で同じ課税所得があっても、資本金や地域によって法人税等の負担額が違う
  • 解決策:法人税の仕組みと法人税実効税率の計算式やその計算要素を理解する

1 法人税の支払いを抑えたいですよね?

法人税は、「課税所得」という財務会計でいうところの利益に課されるものですが、財務と税務では考え方が違います。財務会計では費用になっても、税務では損金として認められない部分があります。いずれにしても、経営者にとって、法人税は安いに越したことはありませんから、接待交際費や会議費、役員報酬などについて顧問税理士などに相談しながら、少しでも法人税を安くしようと工夫をします。

ところで、いわゆる法人税にはいくつかの種類があって、それぞれ計算方法が違うことをご存じですか? 足元の2024年度では、

法人実効税率(中小法人、かつ標準税率の場合)は33.58%

ですが、なぜこうなるのか、法人税の仕組みを理解すれば、法人税の支払いを少なくするための考え方も分かってきます。この記事で分かりやすく解説していきます。

2 法人税等の正体

1)法人税等の正体

一般的にいわれる法人税には、文字通りの法人税の他に地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税が含まれます。企業が負担する「法人税等」は、これらの項目の合計になるわけですが、その計算に使用される税率は2つあります。

1つは「表面税率」です。表面税率とは、

それぞれの税項目の税率を単純に足し合わせたもの

であり、申告や納税の際に用いられます。ただし、事業税は翌期に損金算入が認められているなどの理由から、表面税率は企業の実質的な法人税等の負担率よりも高くなります。

もう1つは、この記事のテーマである「法人実効税率」です。法人実効税率とは、

先ほどの事業税の損金算入なども加味したもの

であり、企業の実質的な法人税等の負担率となる他、税効果会計などでも利用されます。

法人実効税率の計算式は次の通り複雑です。そのため、一口に法人実効税率の引き下げといっても、どの部分に変更があるのかを知っておく必要があります。

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2)実際に負担する税額に差が生じる?

黒字と赤字とでは法人税等に大きな差が出ます。さらに言うと、

黒字企業で同じ課税所得がある企業であっても、資本金の額や地域によって法人税等の負担額が変わってくる

ことをご存じでしょうか?

法人税等の仕組みは複雑で、単純に課税所得をベースに計算されるものばかりではありません。法人税等の計算過程を正しく理解することで、新たに法人を設立する場合や、減資・増資を考える場合の税負担軽減についての勘所をつかむことができます。

3 法人税と地方法人税の概要

1)法人税の概要

法人税は次の算式で計算されます。

  • 法人税額=所得金額×税率

法人税の税率は資本金の額などによって異なり、その分かれ目は1億円です。普通法人の法人税の税率は次の通りです。

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2)地方法人税の概要

地方法人税は次の算式で計算されます。課税標準法人税額とは、法人税確定申告書上の一定の金額を合計したものになります。

  • 地方法人税額=課税標準法人税額×10.30%

4 法人住民税の概要

法人住民税は、法人都道府県民税と法人市町村民税に分かれ、それぞれ均等割と法人税割によって計算されます(東京23区内の法人都民税は、法人市町村民税分を分けず、合わせて計算されます)。

均等割は、資本金等の額や従業者数といった「会社の規模」に応じて決まります。「資本金等の額」とは、「資本金の額または出資金の額」と「資本準備金または加入金」の合計額(一定の要件を満たす場合には、一定の調整あり)です。

  • 法人道府県民税(均等割)の標準税率は、資本金等の額に応じて年額2万円から80万円までの5段階に区分されています(東京23区内の場合は別途設定あり)。
  • 法人市町村民税(均等割)の標準税率は、資本金等の額と従業者数に応じて年額5万円から300万円までの9段階に区分されています。

また、法人市町村民税は制限税率が定められており、標準税率の1.2倍の範囲内で、市町村ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

法人住民税(法人税割)は次の算式で計算されます。

  • 法人税割額=法人税額×税率

法人住民税(法人税割)の標準税率および制限税率は次の通りです。なお、法人住民税は制限税率が定められており、その範囲内(図表3を参照)で、都道府県・市町村ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

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5 法人事業税の概要

法人事業税の算出方法については、電気供給業・ガス供給業・保険業を営む法人と、それ以外の業種を営む法人で適用される課税計算方法が異なりますが、この記事では電気供給業・ガス供給業・保険業ではない法人(以下「普通法人等」)に注目します。普通法人等の法人事業税は、資本金の額または出資金の額(以下「資本金の額」)に応じて、所得割、外形標準課税(付加価値割、資本割、所得割)のいずれかにより計算されます。

1)普通法人等で、資本金の額が1億円以下の法人

普通法人等で、資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税は所得割によって算定されます。法人事業税(所得割)は次の算式で計算されます。

  • 所得割額=所得金額×税率

また、具体的な税率は所得に応じて決まります。普通法人等で、資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税(所得割)の標準税率および制限税率は次の通りです。なお、法人事業税(所得割)については制限税率が定められており、標準税率の1.2倍の範囲内で、都道府県ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

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2)普通法人等で、資本金の額が1億円超の法人

普通法人等で、資本金の額が1億円超の法人(以下「外形標準課税法人」)の法人事業税は、外形標準課税制度が適用され、付加価値割、資本割、所得割によって計算されます。

外形標準課税法人の法人事業税の標準税率および制限税率は次の通りです。なお、いずれについても制限税率が定められており、標準税率の1.2倍の範囲内で、都道府県ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

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外形標準課税法人の法人事業税(付加価値割額)は次の算式で計算されます。付加価値とは、「付加価値額=収益配分額(報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料)±単年度損益」によって計算されます。

  • 付加価値割額=付加価値額×1.2%

外形標準課税法人の法人事業税(資本割額)は次の算式で計算されます。

  • 資本割額=資本金等の額×0.5%

外形標準課税法人の法人事業税(所得割)は、普通法人等で資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税(所得割)と同様の算式で計算されます。

6 特別法人事業税の概要

特別法人事業税は次の算式で計算されます。

  • 標準税率により計算した法人事業税の所得割額×税率

特別法人事業税の税率は次の通りです。

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7 資本金の額や地域によって異なる?

1)条件を変えて比較しよう

法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税(以下「法人税等の額」)は、資本金の額や地域によって異なります。例えば、資本金の額が1億円を超えるか超えないかで、法人税の軽減税率や、法人事業税の外形標準課税の適用の有無が判断されたりします。

また、地域によっても、法人事業税(所得割)や法人住民税(法人税割)などの税率が異なります。

ここで、資本金の額が1億円と2億円の法人がそれぞれ超過税率の影響が小さい市町村にある場合と、超過税率の影響が大きい市町村にある場合の法人税等の額を比較してみましょう。なお、本事例は納税額の計算であるため、表面税率についての比較となります。

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2)資本金の額によって異なる法人税等の額

A社の資本金の額が1億円と2億円の場合では、法人税等の額の差額は956万円(1億8408万6000円-1億7452万6000円)となります。B社の資本金の額が1億円と2億円の場合では、法人税等の額の差額は992万4000円(1億8952万6000円-1億7960万2000円)となります。

差額の主な要因は、法人税と法人事業税にあります。

法人税について、資本金の額が1億円以下の場合は、所得のうち800万円までは通常23.2%のところ、15%の軽減税率の適用を受けることができます。

一方、外形標準課税(所得割)の税率は、外形標準課税の適用を受けない場合の法人事業税(所得割)の税率に比べて低く設定されています。そのため、外形標準課税の適用を受ける資本金の額が2億円のケースの方が、納税額が少なくなります。本ケースでは全て利益が出ているケースのため、上記のような納税額の比較となりました。外形標準課税では、利益が出ていない年にも、付加価値割や資本割が課税されますが、外形標準課税の適用を受けない場合には法人事業税の納税額は0となります。将来の損益予測も合わせて検討することが大切です。

3)地域によって異なる法人税等の額

超過税率の影響が小さい市町村にあるA社と、超過税率の影響が大きい市町村にあるB社では、資本金の額が1億円である場合の差額は544万0000円(1億8952万6000円-1億8408万6000円)となります。

資本金の額が2億円である場合の差額は507万6000円(1億7960万2000円-1億7452万6000円)となります。

差額の主な要因は、前述した通り、超過税率の影響の度合いです。法人事業税(所得割・外形標準課税)、法人道府県民税(法人税割・均等割)、法人市町村民税(法人税割・均等割)については、制限税率が定められており、各自治体によって制限税率の範囲内で税率を定めることができるのです。

例えば、法人事業税(所得割)で超過税率を適用している都道府県は、宮城県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県があります。それ以外の39道県については標準税率を適用しています。また、全国の各市町村の法人市町村民税率(法人税割・均等割)については、総務省「法人住民税・法人事業税 税率一覧表」を参考にするとよいでしょう。

■総務省「法人住民税・法人事業税 税率一覧表」■

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/czei_shiryo_ichiran.html

8 税金に詳しい経営者になろう

「税金は顧問税理士に任せておけばいい」と考えている経営者がいるかもしれません。しかし、税金を詳しく理解することは、経営戦略を考える上でも大切な視点です。

新しく会社の立ち上げを検討するときに、資本金をいくらに設定するか、どこに本社を置くかで法人税等の額は変わってきます。これらのことを検討する際、それぞれのケースの税負担を考慮することで、その負担を抑えられるかもしれません。

また、新たな投資を検討する際には、税法上の特別償却・特別控除を適用できるかどうかの検討も忘れてはいけません。もし知らずに、それらの制度を適用しなかった場合、本来は支払う必要がなかった税金を支払うことにもなりかねません。

顧問税理士に任せるだけではなく、自分自身である程度税金の知識を持つことも、経営戦略を考える上で大切なことなのです。

以上(2024年9月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:pixabay

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