主な読者:人手不足に悩む経営者の皆様
ポイント:
- 技能実習生の平均賃金は10年前の1.4倍となり、日本人の若者との格差は縮小
- 言語や文化の違いもあり、外国人労働者の労災発生割合は過去10年で2倍
- 外国人労働者の雇用に関する法改正で雇用機会が拡大
- 利点と課題を踏まえたリスクコントロールが必要
1 外国人労働者の必要性とリスクについて
日本は少子高齢化による人手不足で、多くの企業が従業員の採用・雇用に苦戦していますが、その対策の一つとして、外国人労働者の受け入れが考えられます。しかし、外国人労働者の受け入れは、様々なメリット・デメリットがあり、リスク管理上の課題もあるため、慎重に検討することが必要です。
厚生労働省によると、外国人労働者は2022年10月末時点で約182万人と10年前の2.7倍に増えており、製造業や卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業などに多くなっています。また、ものづくりや1次産業などの現場で働く人材へのニーズも強く、技能実習(34万3千人)や留学生のアルバイト(25万9千人)といった形で労働力を確保しています。特に日本人が集まりにくい業種を中心に採用のニーズは強く、技能実習生の平均賃金は10年前の1.4倍となり、日本人の若者との格差は縮小しています。
今後は新興国の賃金上昇で、海外の若者が期待する水準も上がることが想定される中で、生産性を高め日本国内で賃上げを進めなければ外国人材の確保は非常に厳しくなると想定されます。日本の人手不足が深刻化する中、外国人が日本の産業や経済、地域社会を支える担い手として共生できる社会、日本で働く外国人が能力を最大限に発揮できる多様性に富んだ活力ある社会を実現するためには、外国人を適正に受け入れ、技能実習制度や特定技能制度が直面する様々な課題を踏まえた新制度が必要と考えられます。
また、外国人労働者の労災発生割合は日本人を含めた全労働者よりも高く、増加傾向にあり、過去10年で2倍にまで増えています。最も労災発生率が高いのは、「技能実習」の3.79であり、労働者全体の1.6倍、外国人全体の1.4倍もの数値となっています。このように外国人雇用は必要不可欠ですが、一方では円安で日本の賃金水準の魅力が低下し、外国人雇用に関するリスクがどんどん高まっているため注意が必要です。
(出所:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和2年10月末現在)」)
2 外国人労働者の雇用に関する法改正の方向性について
そのような中で、政府の有識者会議は外国人雇用に関する技能実習と特定技能の両制度の見直しを議論しています。現行制度はトラブルが絶えないため、人権保護を重視した待遇改善が中心的なテーマですが、新制度のポイントは大きく5つと考えられます。
1つ目は「在留期間」であり、従来は5年間で、特定技能への移行は限定的でしたが、新制度では基本3年ですが、特定技能に移行することで延長を可能にする予定です。
2つ目は「制度の目的」であり、従来は「人材育成を通じた国際貢献」でしたが、新制度では「人材確保と人材育成」を目的とする予定です。
3つ目は「転職」ですが、従来は原則不可でしたが、同一企業で1年超の就労などの要件を満たせば本人の意向による転職を可能にします。
4つ目が「日本語能力」であり、従来は要件がありませんでしたが、就労開始前に基礎的能力を付けることを要件とするようです。
最後の5つ目が「特定技能への移行」であり、従来は移行できない職種がありましたが、新制度では全ての職種で移行を可能にする予定です。
今回の新制度への移行によって、外国人労働者を雇用し易くなる一方で、外国人雇用に関わるリスクによって企業側の責任が重くなり、外国人雇用のコストが一段と増す可能性があるため、人材確保に向けた生産性の向上が必要不可欠になると考えられます。また、日本企業側の問題点として、外国人労働者が労働環境を求めない安価な労働力という勘違いや、住宅・携帯等の手配や銀行口座の開設などの支援体制の不備、暴力的な指導・暴言や差別用語による精神的な攻撃や宗教上の行為を不当に制限するなどのパワハラや暴力行為等の人権侵害や差別、それらの精神的なケアが不十分な現状も残っているため、新制度に移行してもその辺りの認識を改めなければ国際的な人材獲得競争で不利になると考えられます。
(出所:サクセスネット事務局作成)
3 外国人雇用の利点と課題について
外国人を採用する利点としては、人手不足の解消や若くて優秀な人材の確保、社内のグローバル化と活性化や新しいアイデア創出の可能性、求人広告費用等のコスト改善や助成金の活用等がありますが、課題としては、コミュニケーションの問題や価値観・慣習・文化の違い、在留資格の確認の必要性や外国人労働者特有の雇用に関する手続きや労務管理の煩雑さ等が挙げられるため、これらの利点と課題を踏まえた判断が求められます。
尚、外国人労働者であっても、日本で働く以上は、日本の労働基準法や労働社会保険関係法令が適用されるため、日本人を採用する場合と同等の義務と責任が生じますが、外国人の場合は、それに加えて、日本で働く資格を持たない人に就労させた場合は「不法就労助長罪」として3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が科され、雇用対策法に基づき外国人労働者の雇入れ及び離職の際に必要となる外国人雇用状況の届出義務に違反があった場合も30万円以下の罰金が科されるというリスクも生じます。
また、業務上のリスクとしては前述の労働災害が考えられますが、外国人労働者は日本語能力が不十分で安全衛生における業務指示や標識などの理解が難しいために労働災害に繋がるというケースもあり、安全配慮義務を果たしていくためには日本人社員以上に安全衛生教育に取り組む必要があります。また、日本語によるコミュニケーションが不十分で、雇用に関する価値観などが異なると、労使間や従業員同士の衝突が起こり、ハラスメントや差別的行為、人権侵害等の雇用慣行に関わるリスクも高くなるので注意が必要です。
4 外国人雇用に対するリスク対策
上記のようなリスクをコントロールして外国人労働者を雇用するには、先ずは外国人労働者雇用についての正しい知識を得ることが必要です。不法就労になるケースや適用される労働関連法令、雇用対策法における必要な手続き、外国人労働者への正しい接し方(異文化コミュニケーションなど) といった知識を、現場含めて事前に勉強しておく必要があるでしょう。但し、知識を得ると言っても自社だけでは限界があるため、労働関連法令や外国人雇用に関する専門知識を有している社会保険労務士や外国人労働者を専門とする人材紹介サービス会社を活用して、コンサルティングや受け入れ態勢の構築支援を受けることでリスクをコントロールすることも有用と考えられます。
また、外国人雇用の業務的リスクへの対応については、コミュニケーション方法や雇用に関する価値観の違いから労災事故や雇用トラブルも日本人の場合よりも起こりやすいという特徴がありますので、より厳格に労働社会保険関係諸法令を遵守すると共に、安全配慮義務や職場環境配慮義務を果たしていく必要がありますが、それらを守っていても外国人労働者とのトラブルを100%なくすことは困難と考えられます。
そのため、それらのリスクに備えた財務的な備えは必要不可欠であり、労働災害に備えた上乗せの労災保険や使用者賠償責任保険、雇用慣行に関わるリスクに備えた雇用慣行賠償責任保険等を活用することが求められます。また、人権問題が重要視される中でそのような事故や事件が発生した場合、株主代表訴訟等に発展し、会社や取締役が賠償請求される可能性もあるため、それらを補償する会社役員賠償責任保険(D&O)等を検討することも必要となるでしょう。
(出所:ARICEホールディングスグループ作成)
以上(2023年12月)
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画像:photo-ac
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