書いてあること
- 主な読者:税務調査などで指摘されないように適切に税金対策をしたい経営者
- 課題:税務上の寄附金の範囲は広く、意図せず間違った処理をすることがある
- 解決策:債権放棄や無利息貸付などは相手に経済的利益が生じ、寄附金となることがある
1 税務上の曲者「寄附金」
税務上の寄附金の範囲は一般的なイメージよりも広く、次のようになります。
税務上の寄附金の範囲は広く、また判断も複雑なため、本来は寄附金として処理すべき取引を別の項目(勘定科目)で処理してしまうケースがあります。問題は、
寄附金で一定の金額を超える部分は損金に算入できない
ことです。法人税の申告の際に、適切に寄附金を処理していないと税金計算に誤りが生じるなどの問題が出てきます。
2 寄附金課税の仕組み
1)寄附金課税とは
まず、寄附金課税の仕組みを確認しましょう。寄附金課税とは、
財務上は寄附金(費用)として処理された取引について、税務上の調整により、一部に課税すること
です。具体的には、一定の金額(以下「損金算入限度額」)を超える部分については課税所得に加算されます。
寄附金課税のイメージは次の通りです。
2)寄附金の損金不算入の概要
寄附金の損金算入限度額は、どのよう先への支出なのかによって違います。
国、地方公共団体への寄附金、財務大臣の指定した寄附金および特定公益増進法人等への寄附金を損金に算入するには、
確定申告書に寄附金の額を記載して、寄附金の明細書(法人税の別表)を添付するとともに、領収書など寄附金に該当することを証する書類を会社側においても保存
する必要があります。また、債権放棄や無利息貸付など後述する要注意の取引については、「一般の寄附金」に区分されることが想定されます。
仮に、資本金等の額が1億円、所得の金額が1000万円の普通法人の一般の寄附金に係る損金算入限度額は次の通りです。この場合、年間の寄附金の額が12.5万円を超える部分は、課税所得に加算されます。
(1億円×12/12×2.5/1000+1000万円×2.5/100)×1/4=12.5万円
3 要注意の取引
1)債権放棄
債権放棄とは、
売掛金や貸付金などの債権の回収を放棄すること
です。債権放棄のうち、「取引先が民事再生法や会社更生法の手続きを申し立て、その規定により金銭債権が切り捨てられた場合」など、一定の条件を満たした部分は貸倒損失として損金に算入できます。
逆に、これらの基準を満たしていない場合は寄附金として取り扱われます。これは、
本来回収することができる権利を放棄することで、債務者に経済的利益が生じたとして、寄附金として取り扱う
という考え方です。債権放棄について寄附金とされる金額は、権利を放棄した債権の額となります。
2)無利息貸付または低利息貸付
無利息貸付または低利息貸付をした場合、
本来なら受け取れる利息を受け取らないことで、相手に経済的利益が生じたとして、寄附金として取り扱う
ことになります。寄附金とされる金額は、
- 無利息貸付:本来受け取るべき利息の額
- 低利息貸付:本来受け取るべき利息の額と、実際受け取っている利息の額との差額
になります。なお、本来受け取るべき利息の額に規定はなく、会社の事情や日ごろの取引状況などの観点から個別に判断します。
3)低額譲渡または低額供与
低額譲渡または低額供与とは、
その譲渡や供与が行われたときの時価に対し、実際の取引金額が低い場合の取引
です。この場合、
時価とかけ離れた取引は、その差額分、相手側に経済的利益が生じたとして、寄附金として取り扱う
ことになります。寄附金とされる金額は、
その譲渡または供与時の時価と実際の取引金額との差額のうち、実質的に贈与や無償の供与をしたと認められる金額
です。また、取引金額が低額なだけで必ず寄附金となるわけではなく、その取引の理由や背景に、贈与や無償の供与の意図があるかないかなどを考慮するケースもあります。
4)関係会社間の取引
関係会社間の取引は、利害関係が相反する第三者との取引に比べ、価格などが自由に設定できるので、税務調査などで重点的に調査されます。したがって、完全支配関係がある会社(100%親子会社など)以外の関係会社間の取引については、前述した支出や取引に該当しないよう、また税務上の寄附にならないように一層注意が必要になります。
以上(2022年3月)
(監修 税理士 石田一也)
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