書いてあること

  • 主な読者:最新の税制動向をアップデートしたい中小企業の経営者、税務担当者など
  • 課題:中小企業に関係のある税制改正大綱のポイントだけ教えてほしい
  • 解決策:令和6年度税制改正大綱の中で中小企業に関係の深い項目を把握する

1 賃上げ促進税制の上乗せ措置の拡充や繰越控除制度の創設

賃上げ促進税制(中小企業版)とは、従業員の給与支給額(雇用者給与等支給額。以下「給与等」)を前年度より1.5%以上アップさせた企業や個人事業主を対象に、一定の税額控除を行う制度です。原則の税額控除率(15%または30%)に、上乗せできる控除率の追加のほか、要件が変更されます。また、その年に控除できなかった控除額について、5年間繰り越して控除できる制度が創設されます。

現行制度では、上乗せ措置を受けるためには教育訓練費のみの増加割合が要件となっていましたが、改正により、

教育訓練費の増加割合要件の緩和(10%から5%)と合わせて、教育訓練費の額が給与等の0.05%以上という要件が追加

されます。

また、

女性活躍推進支援や子育てサポートが進んでいるとして厚生労働省の認定を受けている企業については、追加で控除率を上乗せ(5%)できる

ようになります。

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原則の税額控除率は従来と同じですが、追加された子育てサポートや女性活躍推進の認定要件を満たした場合は、税額控除額が最大45%(現行は最大40%)となります。この改正は、2024年4月1日から2027年3月31日までの間に開始する各事業年度において適用されます。

 

2 戦略分野国内生産促進税制の創設

半導体など一定の商品の販売量に基づいて計算された金額を税額控除できる制度(戦略分野国内生産促進税制)が創設されます。対象となる製品分野は、

半導体、電気自動車等(蓄電池)、鉄鋼(グリーンスチール)、基礎化学品(グリーンケミカル)、航空燃料など

です。

この制度の適用を受けるためには、

  • 青色申告書を提出している
  • 産業競争力強化法の改正法の施行日から2027年3月31日までの間に認定事業適応事業者となる
  • 産業競争力基盤強化商品生産用資産の取得等をして、国内にある事業の用に供している

の3要件を満たす必要があります。また、控除額はそれぞれ商品の仕様ごとに決められています。

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3 イノベーションボックス税制の創設

研究開発の成果(特許権など知的財産から生まれる一定の所得)に対して、30%の所得控除ができる制度(イノベーションボックス税制)が創設されます。

対象となる知的財産(特定特許権等)は、国内で研究開発を行った

  • 特許権
  • AI分野のソフトウェアに係る著作権

です。

また、取引先については、

  • 譲渡の場合は、居住者もしくは内国法人(関連者を除く)に対するもの
  • 貸し付けの場合は、上記のような限定はなく他の者(関連者を除く)に対するもの

とされています。この改正は、2025年4月1日から2032年3月31日までの間に開始する各事業年度に適用されます。

4 中小企業のM&Aに備えた準備金制度の拡充

M&A実施後に発生し得るリスク(買収企業に簿外債務の存在が見つかるなど)に備えるため、準備金を積み立てた場合に、その積立額を損金に算入することができる制度があります。

現行制度では、損金に算入できる準備金の積立額は投資額の70%が限度となる仕組みだけでしたが、改正により、一定の認定を受けた場合に、

  • その認定に係る特別事業再編計画に従って最初に取得をした株式等については90%
  • 上記1.に掲げるもの以外の株式等については100%となる新たな制度(以下「新制度」)

が加えられます。なお、株式等の取得価額が100億円超または1億円未満である場合などは対象外となります。

また、積み立てた準備金は、将来的に取り崩さなければなりません(益金として処理)。現行では、5年間の据え置き期間経過後、原則5年間で均等額の取り崩し(例えば2024年4月に準備金5000万円を積み立てた場合、2029年以降5年間にわたり、1000万円ずつ取り崩す)を行います。ただし、新制度により積み立てた準備金については、据え置き期間が10年間となります。

この改正は、産業競争力強化法の改正法の施行日から2027年3月31日までの間に認定を受けた株式等の取得に対して適用されます。

5 交際費等の損金不算入の緩和と中小企業特例の延長

交際費は、原則として損金に算入できません(損金不算入)が、一定金額以下の飲食代であれば交際費から除外され損金に算入できます。現行では1人当たり5000円以下が基準でしたが、改正により

1人当たり1万円以下に引き上げ

られることになりました。この改正は、2024年4月1日以後に支出する飲食費に適用されます。

また、中小企業が受けられる年800万円まで損金に算入できる特例については、適用期間が3年延長され、2027年3月31日まで延長されることとなりました。

以上(2024年2月)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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画像:Bacho-shutterstock

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