書いてあること
- 主な読者:決算対策の一環などとして、旅費交通費を損金にしたい経営者
- 課題:電車やタクシー代は全て旅費交通費でよいのか? 請求も手間がかかる
- 解決策:必要な旅費交通費は損金になるが、証憑(しょうひょう)はしっかり残すこと
1 旅費交通費とは
旅費交通費とは、
役員や従業員(以下「社員等」)に支給する通勤費や社用車で必要となるガソリン代、出張時に必要となる宿泊費や日当などの費用
です。旅費交通費は事業を行う上で必要不可欠な費用であり、税務上も原則として損金になります。ただし、取引先を接待する際に使ったタクシー代は交際費とされたり、出張によって支給する日当が高額すぎる場合は給与にされたりするなど、独特な取り扱いをされることがあるので注意が必要です。
旅費交通費が損金になるかどうかのポイントは、
- きちんと実費精算していること
- 出張旅費規程を作っていること
です。詳しく見ていきましょう。
2 損金になる旅費交通費の2つのポイント
1)きちんと実費精算していること
取引先との商談のために必要な電車やタクシーなどの移動費用は、実費精算が原則です。その都度、精算するのは手間がかかるため、週1回や月2回などと精算日を決め、経費精算書を作成して精算する方法が多く取られます。経理担当者は、社員等から経費精算書と領収書の提出を受け、内容をチェックした上で精算を行い、経理処理をします。経費精算書には交通機関などの利用日や利用金額の他、交通手段や経路、目的、得意先の名称なども入れるとよいでしょう。
なお、目的が曖昧であったり、領収書の添付がなかったりする場合は、私的費用などとして交際費あるいは給与として取り扱われることがあるため注意しましょう。
2)出張旅費規程は作っていること
出張では、交通費や宿泊費の他、現地で発生する通信費その他の雑費がかかります。これらの雑費についても実費精算が原則ですが、細かいものまで全て実費精算するのは手間です。出張期間が長い場合はなおさらです。そのため、実費精算に代えて、「日当」を支給することがあります。実費精算と異なり、日当は定額で支給するものなので、一定の要件を満たす「出張旅費規程」を作り、その規程に基づいて支給します。こうして支給された日当は損金になります。
気になるのは、出張旅費規程で満たす「一定要件」ですが、これは2つあります。
- 支給する役員および使用人の全てを通じて、適正なバランスが保たれている基準によって計算・支給されるものであること
- 同種規模類似法人(同業他社)と比較して、一般的に支給している金額として相当と認められる金額の範囲内であること
1.の要件のポイントは、出張する社員等の全てが日当の支給対象であることです。特定の社員等のみを支給対象にしたり、同じ役職なのに支給金額にばらつきがあったりすると、税務上の要件を満たさないことになるので注意しましょう。なお、役職によって必要となる雑費も異なりますので、役職に応じて支給金額に差をつけることは問題ありません。
2.の要件のポイントは、同業他社などと比較して金額が高額すぎないことです。もし、高額であると判断された場合は、給与として所得税の源泉徴収の対象とされます。特に役員に対するものについては損金にならないので注意しましょう。税務上の具体的な基準はありませんが、
- 一般社員:2000〜3000円
- 役職者:3000〜5000円
- 役員:4000〜6000円
の範囲で設定している会社が多いです。必要に応じて、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
3 旅費交通費で迷いやすい実務Q&A
1)通勤交通費はいくら支給してもいいの?
通勤交通費は、原則として会社側では損金になり、社員等側においても所得税の対象にはなりません。ただし、一定の金額を超えて支給した場合、その超過した部分については社員等の所得として取り扱われ、所得税の源泉徴収の対象となります。
所得税の非課税とされる金額(範囲)は次の通りです。
1.交通機関で通勤する人
支給する運賃相当の全額が非課税とされますが、1カ月当たり15万円が上限です。ここでいう運賃とは、「通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路及び方法で通勤した場合」をいいます。住宅事情に伴って新幹線通勤をする人もいると思いますが、新幹線通勤をせざるを得ない状況であれば、特急料金を含めて15万円までは非課税とされます。15万円を超える部分は非課税とはなりません。
2.マイカー通勤の場合
マイカー通勤の場合は、実際の片道通勤距離に応じて下表の金額までが非課税です。
3.マイカーと交通機関を利用する人
自宅から最寄り駅までマイカーを利用し、最寄り駅から勤務先までは交通機関を利用する場合、上記の1.と2.の合計金額が非課税とされますが、上限は15万円です。
2)出張に合わせて帰宅しても、全て旅費交通費として処理していいの?
単身赴任者が出張した場合、その出張先が自宅に近ければ自宅に帰ることもあるでしょう。この場合にも、出張の目的や行路から見て、あくまでも出張が主な目的であり、かつ業務を行う上で必要な出張である限り、往復の旅費交通費は損金になり、出張者側においても所得税の源泉徴収の対象とはなりません。
反対に、帰宅すること自体が主な目的と判断された場合は給与として取り扱われ、所得税の源泉徴収の対象となります。特に出張者が役員である場合、旅費交通費として処理していても、税務上は役員給与として損金にならないので注意しましょう。
旅費交通費として認められる場合と給与として取り扱われる場合の例は下記の通りです。
3)展示会に得意先を招待した際の交通費や宿泊費は、旅費交通費か交際費か?
自社商品の展示会に得意先を招待し、その交通費や宿泊費を負担した場合の取り扱いです。これは、より多くの人に自社商品を知ってもらい、売上の増加・促進を図るために必要な費用であるため、旅費交通費として損金とすることが認められます。一方、展示会とは名ばかりで、得意先を招待して宴会を行うことを主目的としている場合は、交際費として取り扱われます。
従って、展示会を行う趣旨や期間その他が記載されている計画書や企画書などを証憑書類とともに保管しておき、税務調査で質問された場合においても、十分な説明ができるようにしておきましょう。
4)定額の通勤手当を廃止し、実費精算に切り替えた場合、税務上取り扱いで変わる点はあるの?
コロナ禍において、通勤手当を廃止した会社が多くあります。通勤手当を実費精算へ切り換えた場合も税務上の取り扱いは変わらず、旅費交通費として損金となります。なお、実費精算の場合は従業員ごとに出勤日や出勤経路の確認など詳細の確認を怠らないようにしましょう。
以上(2022年5月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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画像:Mariko Mitsuda