書いてあること
- 主な読者:ライドシェア解禁の動向を知りたい経営者など
- 課題:ライドシェア解禁に向けた議論が進められているが、ポイントがつかみにくい
- 解決策:2024年4月から、タクシーの需要に供給が追い付かない地域・時期・時間帯に限り、タクシー事業者の管理下でのライドシェアが解禁予定だが、詳細は未定
1 2024年4月から、ライドシェアが一部解禁へ
ライドシェアは、配車アプリを介して乗客とドライバーをマッチングし、乗客がドライバーに対価を支払って目的地まで車で運んでもらうサービスです。米国のUberなどが有名で、現地の移動で利用したことがある人もいるのではないでしょうか。配車アプリの機能によりますが、乗客は、乗降場所の設定、料金の決済まで事前に行えるようになっています。ドライバーは、指定された場所で乗客を乗せて目的地まで運べばよく、料金を受け取り損なう心配もありません。
便利なライドシェアですが、日本では、いわゆる「白タク」行為として道路運送法によって禁止されています。その一方で、タクシーの需要に供給が追い付かない観光地や過疎地の交通インフラ問題が顕在化しています。
2023年12月には超党派の議員勉強会が、ライドシェアの導入について、2024年中にも必要な法整備を行うよう政府に求める提言を取りまとめました。その後、政府は、2024年4月から、タクシー事業者の運行管理の下でライドシェアを一部認める方針を固めました。
この記事では、注目されるライドシェアについて、道路運送法による規制の概要を押さえたうえで、規制緩和に向けた政府の方針について解説します。
2 道路運送法による規制の概要
1)旅客自動車運送事業は許可制
道路運送法では、他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して旅客を運送する事業を旅客自動車運送事業と定め、国土交通大臣による許可制をとっています。
タクシーは、一般乗用旅客自動車運送事業に該当します。タクシー事業者は、運行管理者の選任をはじめとする運行管理体制の整備をしなければならず、旅客運賃・料金も国土交通大臣の認可を受けなければなりません。ドライバーは第二種運転免許の保有などの要件を満たす必要があります。
ライドシェアは、現行法では無許可で一般旅客自動車運送事業を営む「白タク」行為に該当し、一般のドライバーが自家用車を使って乗客を運び運賃・料金を得ることは禁止されています。これに違反したドライバーは、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処されます(併科あり)。なお、乗客側の罰則は定められていません。
2)自家用車による有償運送は原則禁止
道路運送法では、自家用車による有償運送を原則禁止しており、自家用車による有償運送が認められるのは、
市町村、NPO法人などが地域住民や観光客を対象に、国土交通大臣の登録を受けて行うとき(自家用有償旅客運送)
などに限られます。自家用有償旅客運送は、運送の対価として実費の範囲内での収受が認められています。2006年の制度創設以降、全国に広まり、2022年3月末時点で、
- 地域住民や観光客の移動手段を確保する「交通空白地有償運送」は、670団体で実施
- 介護を必要とする者の移動手段を確保する「福祉有償運送」は、2470団体で実施
されています。
3 政府による規制緩和の主な方針
1)2024年4月からライドシェアが一部解禁
2023年12月20日に開かれたデジタル行財政改革会議で、政府は、
現状のタクシー事業では不足している移動の足を、地域の自家用車や一般ドライバーを活かしたライドシェアにより補う
という方針を打ち出しました。具体的には、
- タクシー事業者の配車アプリで蓄積しているデータを基に、タクシーが不足している地域・時期・時間帯を特定する
- タクシー事業者が運送主体となり、地域の自家用車・ドライバーを活用し、アプリによる配車とタクシー運賃の収受が可能な運送サービスを2024年4月から提供する
としています。この新制度の創設に先立ち、現行の自家用有償旅客運送についても、
- 適用対象となる「交通空白」について、「地域」だけではなく、夜間などの「時間帯」による空白の概念も取り込む
- 従来、タクシー運賃・料金の2分の1が目安とされてきた有償運送の対価を、タクシーの約8割まで引き上げ、ドライバーの適正報酬を確保する
- 一定のダイナミックプライシングを導入する
など大幅に見直されます。
さらに、利便性を向上するために、
- NPO法人などの非営利団体だけでなく、株式会社も運送の実施主体からの受託により参画できることを明確化する
- 道路運送法の許可または登録の対象外の運送(無償運送)について、アプリを通じたドライバーへの謝礼の支払いが認められることを明確化する
としています。
一般のドライバーは、タクシー事業者の管理下で自家用車を使って乗客を運び運賃・料金を得られるようになるわけですが、詳細は未定の部分が多く、政策の動向を継続してウォッチしていく必要があります。
例えば、タクシー事業者と一般のドライバーの関係は「安全性の確保を前提に、雇用契約に限らずに検討を進める」とされており、タクシー事業者から一般のドライバーへの業務委託契約が成り立つのか、運行の安全性をどのように確保するのか、万一事故を起こしたときの責任はどうなるのかなどの課題があります。
2)第二種運転免許取得者の確保に向けた制度の改正
政府は、深刻なタクシードライバー不足を改善するため、ドライバーになるための運転免許を取得しやすい制度に改める方針も打ち出しています。具体的には、
- 第二種運転免許取得に係る教習について、1日当たりの技能教習の上限時間の延長や、教習内容の見直しなどを図り、2024年4月以降できる限り早期から教習期間を大幅短縮する
- タクシードライバーになるために課せられている道路運送法に基づく法定研修の期間要件(10日)を撤廃する
- タクシー業務適正化特別措置法に基づいて課されている地理試験について、2023年度中に廃止する
としています。また、2024年4月以降に行う第二種免許試験について、多言語での受験を可能とし、外国人のドライバーへの積極的な採用を促す方針です。
4 今後の政策動向に注目
タクシー業界のドライバー不足の背景には、高齢ドライバーの引退だけでなく、求職者が賃金の高い別の仕事を選ぶ傾向が続いていることが挙げられます。
さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大期には、乗客数が激減したためにドライバーを辞めてしまうケースも相次ぎました。国土交通省によると、個人タクシーを除くタクシードライバーの数は、2020年3月末時点の26万1671人から、2022年3月末時点では22万1849人と大幅に減少しました。
そうした中、観光地や過疎地の移動手段を確保するための一策として期待を集めるライドシェア。2023年12月20日に開かれたデジタル行財政改革会議で、政府は、
タクシー事業者以外の者がライドシェア事業を行うことを位置付ける法律制度について、2024年6月に向けて議論を進めていく
と、期限を設けて言及しています。
業界団体の強い反対もある中、一足飛びに全面解禁とはいかないものの、2020年に「いわゆる『ライドシェア』は引き続き導入を認めないこと」が附帯決議として明記された(第201回国会の衆議院国土交通委員会(4月14日)、参議院国土交通委員会(5月26日))ところからは、方針が大きく転換されたといえるでしょう。今後の政策動向が注目されます。
以上(2024年2月作成)
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画像:terovesalainen-Adobe Stock