リーダーとは、希望を配る人のことである

ナポレオン・ボナパルトは、18~19世紀に活躍したフランスの軍人です。少年の頃から本来数年かけて卒業する士官学校を11カ月で卒業するなど非凡な才能を持っていたナポレオンは、軍人になった後、1793年にフランス革命に反対する反乱軍を24歳の若さで鎮圧し、英雄としてその名を轟(とどろ)かせます。そして、その後も数々の戦いに勝利し、「常勝将軍」と呼ばれるほど国民の人気を集め、やがてフランス第一帝政の皇帝に即位して強大な軍事政権をつくります。

冒頭の言葉は、そんなナポレオンのリーダー論を表す名言として有名です。ナポレオンは、軍事作戦を練る頭脳も、自分や軍にとっての好機を見極める観察眼も優れていましたが、ここぞというタイミングで味方を鼓舞する才能が特に抜きん出ていました。

例えば、1796年にフランス軍とオーストリア軍がアッダ川という川を挟んで対峙(たいじ)した際は、指揮官であるナポレオンが、自ら軍旗を掲げて敵軍に突撃し、味方の兵を勢い付かせてオーストリア軍を打ち破りました。

また、あの有名な「吾輩(わがはい)の辞書に、不可能の文字はない」という言葉も、1800年にイタリアに侵攻したオーストリア軍の虚を突くため、難所のアルプス越えを敢行したときに発したという説があります。

ナポレオンは、ただ配下に命令を下すのではなく、まず自分が率先して勇気を示すことで味方を動かすタイプの指揮官だったようです。

ナポレオンが皇帝になったのは、1804年のこと。もともと王政への不満からフランス革命を起こした国民が、彼を皇帝として受け入れたのは不思議な気もしますが、それもまた、自ら危険な前線に立って背中を見せ、味方を勝利に導くナポレオンの姿が国民の心を捉えた証しなのでしょう。

ここ一番で周りに勇気を示し、苦境を突破していく力。これは、今の経営者にも求められる資質です。会社が苦しいとき、ただ社員に「苦しいのはみんな同じだから我慢しよう」と言う経営者と、「私が引っ張るから共に苦境を乗り越えよう」と言う経営者、どちらが魅力的かは明らかです。

一方で、リーダーだからといって肩肘を張りすぎないこともまた大切です。何度もフランスを勝利に導いたナポレオンですが、1812年のロシア遠征で大敗を喫すると、とたんに力を失い、皇帝の座を追われます。「無敗の英雄」のイメージが彼の政権の支えになっていたために、それが崩れると支持を失ってしまったのです。

経営者は、常に英雄である必要はありません。いざというとき強いリーダーシップで会社を引っ張る心構えさえあれば、普段は信頼できる部下に任せてゆったり構えているぐらいがちょうどよいのかもしれません。

出典:「新約ナポレオンボナパルト。『吾輩の辞書に、不可能の文字はない』名言で知る皇帝の栄光と失脚。10分で読めるシリーズ」(shogo.p.sato、まんがびと、2014年12月)

以上(2024年2月作成)

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画像:ckybe-Adobe Stock

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