書いてあること
- 主な読者:中高年世代の社員の「更年期障害」が気になっている経営者・労務担当者
- 課題:更年期障害になるとどうなる? 会社としてどう対応すればいい?
- 解決策:加齢により性ホルモンの分泌量が減り、体やメンタルに不調を来す。更年期障害の正しい知識を社内に周知しつつ、産業保健や福利厚生などのサポート体制を整える
1 温厚だった社員が突然、感情的に?
温厚だった社員が急に怒りやすくなったり、強い口調になったりして、びっくりしたことはありませんか? なかには、他の社員に暴言を吐いてパワハラになりかけたなんて事例も……。こうした事態の原因の1つかもしれないのが「更年期障害」です。
更年期障害とは、簡単に言うと
加齢により性ホルモンの分泌量が減ることで起きる、体やメンタルの不調のこと
です。症状はさまざまですが、ささいなことで反射的に怒ったり、唐突に感情が昂ぶって涙を流したりするなど、精神が不安定になるというものがあります。更年期障害の症状は、
早ければ40歳を過ぎたころから顕在化し、女性だけではなく男性もなり得る
もので、女性のピークが50代前半、男性のピークは50代後半といわれています。会社は社内の男女比率に関係なく、対策を講じる必要があるでしょう。
具体的には、
- 更年期障害の正しい知識を社内に周知すること
- 産業保健や福利厚生などのサポート体制を整えること
が大切です。更年期障害に詳しい現職の産業医がポイントを解説します。
2 更年期障害の正しい知識を社内に周知する
1)更年期障害の原因と主な症状
前述した通り、更年期障害は加齢により性ホルモンの分泌量が減少することで発症します。女性の場合、「エストロゲン」という女性ホルモンが、閉経の前後数年間(40代~50代ごろ)に急激に減ることで症状が表れます。一方、男性の場合、「テストステロン」という男性ホルモンが、30代ごろから緩やかに減ることで症状が表れます。
性ホルモンが減少すると、「幸せホルモン」といわれるセロトニンなども不足し、精神の安定が崩れてイライラするようになります。また、メンタルだけでなく、体温が上がりやすくなり、だるさも強くなるなど、体にも不調を来します。主な症状は図表1の通りです。
性機能障害(ED)、生理不順以外の症状は男性・女性で共通する症状が多いですが、
- 女性の場合、「のぼせや顔の火照り」「異常な発汗」などに悩まされやすい
- 男性の場合、「抑うつ」「性欲の低下」などに悩まされやすい
という傾向があります。
2)更年期障害の治療法の例
更年期障害の疑いがあって医療機関を受診する場合、女性の場合は「婦人科」の更年期外来、男性の場合は「内科」や「泌尿器科」の男性更年期外来などが窓口になるでしょう。また、メンタルの不調が主な悩みであれば、「心療内科」や「精神科」も選択肢となり得ます。
更年期障害の治療法は、症状に応じた薬剤の投与や生活習慣の改善指導など、さまざまあります。薬物療法の場合、代表的な治療法が「ホルモン補充療法」です。女性の場合はエストロゲン、男性の場合はテストステロンを補充するというもので、通常、
- 問診(困っている症状、嗜好品などの生活習慣、女性の場合は月経の有無なども)
- 検査(血圧・身長・体重測定、血液検査、症状に応じた検査なども)
- 薬剤の投与(女性の場合、内服薬・貼り薬・塗り薬など。男性の場合、筋肉注射など)
という流れで治療が進みます。
個人の状況によって異なりますが、通常、検査を含む診察にかかる時間は1回の受診につき1~2時間ほど、通院頻度は月に1~2回ほどでしょう。また、治療期間については、薬剤投与を開始してから最低数カ月経過してから効果が見られ始めますが、その後も経過を見つつ、何年もかけて治療するケースがあります。
ホルモン補充療法以外には、例えば、抑うつや不眠などの症状が見られる場合に「向精神薬」や「睡眠薬」を投与する、のぼせや顔の火照り、異常な発汗などの症状が見られる場合に「漢方薬」を投与するといった対応が考えられます。個人の症状や環境に応じて最適な治療法が選ばれ、その内容に応じて通院頻度や治療期間も変わってきます。
3)更年期障害の状況(年代別)
厚生労働省が、2022年に全国の20~64歳の男女(計5000人)に対して実施したアンケート調査では、更年期障害の状況(年代別)について図表2のような結果が出ています。
女性の場合、40~49歳の3.6%、50~59歳の9.1%が「医療機関への受診により、更年期障害と診断されたことがある/診断されている」ことが分かります。また、40歳~49歳の28.3%、50~59歳の38.3%が「更年期障害の可能性があると考えている」となっています。更年期障害と診断されずとも、その可能性に悩まされている人はかなり多いようです。
男性の場合、「医療機関への受診により、更年期障害と診断されたことがある/診断されている」「更年期障害の可能性があると考えている」割合は、女性に比べると全体的に低めです。しかし、実は
男性は女性に比べ、性ホルモンの減少スピードが緩やかで、更年期障害に気付きにくい
という傾向があります。本人が自覚していないだけで、実際は男性更年期障害である可能性が残されている点に留意する必要があります。
3 産業保健や福利厚生などのサポート体制を整える
更年期障害やその疑いがある社員に対応する際、必要となる心構えやサポート体制の内容について紹介します。
1)みんなが「誰もが更年期障害になり得る」という意識を持つ
社員の誰かが急に怒りやすくなったり、強い口調になったりすると、周囲はネガティブに受け取ってしまいます。しかし、こうした変化を短絡的に性格の問題にしたり、無遠慮に「更年期障害なんじゃない?」とからかったりすると、本人をさらに傷つけ、問題が複雑化します。
更年期障害になった本人は、心のゆとりを失い、人に相談できずに自分を責めるなどとてもつらい状態にありますから、社員1人1人が
「誰もが更年期障害になり得る」という意識を持ち、思いやりを持って接すること
が大切です。ただ、社員の自助努力に期待するだけでは、こうした意識はなかなか育ちません。そのため、例えば、
専門家を講師に招いて「更年期障害に関する社内セミナー」を開催し、加齢によって体やメンタルに起きる変化、更年期障害の人との向き合い方などを丁寧に指導してもらう
のがよいと思います。講師は産業医や保健師、あるいは健康経営や女性活躍の支援をしている会社などに依頼するとよいでしょう。なお、前述した通り、特に男性は「自分が更年期障害である」ということに気付きにくい傾向がありますが、こうしたセミナーはそんな社員に気付きを促し、医療機関の受診につなげる良いきっかけにもなります。
2)更年期障害に関する相談窓口を設置する
図表2で、「自分が更年期障害かもしれない」と悩んでいる人は、女性を中心に相当数いるというデータを紹介しました。こうした人たちのために、
更年期障害について相談できる窓口を設置すると、症状が軽いうちに対処できる可能性
があります。
大企業では社内に産業医が常駐しており、保健師の相談窓口も設置されているケースも多いのですが、社内にそうした医療専門職がいない中小企業でも、外部の産業医や保健師に委託し、月に数回会社に来てもらって、社員の健康相談に乗ってもらうことが可能です。
なお、社員が「自分は更年期障害である」と気付いていない場合については、経営者や上司が本人の状況(症状の内容など)を見て、相談窓口や医療機関の情報提供をすることも効果的でしょう。その際は、「君は更年期障害だろうから、相談(受診)しなよ」などと決め付けるのではなく、「もしも、この先つらい状況が続くなら、一度、相談(受診)してみてもいいかもしれないね」など、本人の意思を尊重した言い方を心掛けることが大切です。
3)特別休暇やオンライン診療などの福利厚生を検討する
可能な範囲で、更年期障害の社員向けの福利厚生を検討するのもよいでしょう。
例えば、分かりやすいのは、
医療機関を受診する際などに利用できる、会社独自の「特別休暇」を導入
することです。ホルモン補充療法の場合であれば、時間単位や半日単位の休暇を複数回取得できるような制度設計にしておくとよいでしょう。休暇を有給にしたり、受診費用の一部を会社が負担したりすることも併せて検討すれば、社員が更年期障害の治療により前向きになってくれる可能性もあります。
この他、
社員が福利厚生でオンライン診察を受けられる「オンライン社内診療所」を導入
するという方法もあります。サービスごとに異なりますが、症状の悩み、病歴や薬剤の服用歴歴、アレルギーの有無などを事前問診で確認し、チャットやビデオ診察の後、処方・送薬までが可能です。当社でも企業の福利厚生プランとして、更年期障害に対する漢方の処方を含むオンライン診療サービスを提供しています。
社員の中には、自分が更年期障害かもしれないと思っても「医療機関に行く時間がない」「年単位で治療を継続することに気が進まない」などと考え、通院をためらってしまう人がいますが、「いつでも・どこでも」のオンライン診療であれば、こういった課題は解決されるため、必要な医療へつながる第一歩となることを期待します。
以上(2024年2月作成)
(執筆 株式会社フェアワーク 吉田健一)
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