書いてあること

  • 主な読者:お客様からの苦情に適切に対応していきたい経営者
  • 課題:現場で臨機応変に対応するのもよいが、まずは対応を統一したい
  • 解決策:苦情対応マニュアルを策定し、周知徹底する。マニュアルはカスハラ(カスタマーハラスメント)対策にもなる

1 重要なのは、苦情対応の方針を共有しておくこと

商品・サービスを提供する上で、お客様からの不平・不満(以下「苦情」)は避けられないものであり、また、いろいろなお客様がいますから対応に絶対の正解はありません。とはいえ、

臨機応変に対応することは大切ですが、その前に、まずは統一された対応を取る

必要があります。そこで必要になるのが「苦情対応マニュアル」です。

また、昨今は暴力、暴言、土下座の要求など、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント、お客様による著しい迷惑行為)」が問題になっています。苦情はお客様の貴重な意見であり、尊重すべきものですが、一方で

カスハラは決して許容せず、会社として毅然とした対応をし、従業員を守る姿勢を示す

必要があります。カスハラに対する姿勢も含め、会社としての苦情対応の方針をマニュアルに示しておくことは、苦情対応に当たる社員にとっても安心材料になります。

2 苦情対応マニュアルのひな型

以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【苦情対応マニュアルのひな型】

第1章(はじめに)

第1条(目的)

本マニュアルは、当社が提供する商品・サービスなどへの苦情に対する対応手順並びに留意点について定め、苦情への適切な対応、および円滑かつ円満な解決を図ることを目的とする。

第2条(用語の定義)

1)苦情とは、当社が提供する商品・サービス、商品・サービスの提供に伴う諸活動、当社の企業姿勢などに対してお客様から寄せられる不満・不快の表明のことをいう。

2)カスタマーハラスメントとは、1)の苦情のうち、次のいずれかに該当する言動をいう。

  1. 要求の内容が妥当性を欠く言動(当社が提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない要求、商品・サービスの内容と無関係の要求など)
  2. 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動(暴力、脅迫、中傷、暴言、土下座の要求、セクシュアルハラスメントなど)

第3条(苦情対応の基本的な考え方)

1)苦情は、お客様からの貴重な意見であり、尊重すべきものである。当社はお客様からの苦情を歓迎するものとし、その旨をお客様に対し表明する。

2)苦情を受領した際には、お客様第一の精神で誠心誠意対応する。

3)苦情を受領した際には、お客様の性別・年齢・人種などにかかわらず公平に対応する。

4)第1項から第3項は、カスタマーハラスメントには適用しない。会社はカスタマーハラスメントを許容せず、事案が発生した場合は従業員の保護を第一に考えて対応するとともに、必要に応じてお客様に対する警告や取引の停止、法的措置などを検討する。

第4条(機密保持)

お客様個人が特定できるような情報は、苦情対応の目的にのみ利用し、お客様がその公開について明確に同意しない限り情報を公開しない。

第2章(苦情対応の手順)

苦情対応は次の手順で行う。

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第3章(従業員の職務)

お客様と接する従業員(以下「対応者」)、苦情対応責任者(以下「責任者」)が行う職務は次の通りとする。

1)苦情の受理

  1. 苦情受理時、対応者はお客様の話を十分に聞き、苦情内容とお客様の要求の把握に努める。その際、対応者はお客様の話を否定するような発言はしない。
  2. 対応者は、お客様に不愉快な思いをさせたこと、手間を取らせたことについて謝罪する。ただし、問題の発生原因など、責任の所在が不明なことについては不用意に謝罪することは避ける。
  3. 対応者が必要であると判断した場合、別室で話を聞くことができる。その際は、責任者などを交え、必ず複数名で話を聞くこととする。また、必要に応じてお客様との会話を録音する。
  4. 対応者は、苦情の内容を責任者に報告する。
  5. 苦情の申し出が、電子メールや手紙など、直接対話を伴わない手段で行われた場合には、対応者は受理した旨をお客様に通知し、責任者に報告する。
  6. 対応者は、苦情の受理に当たってカスタマーハラスメントやそれに類似する言動があった場合、その旨を速やかに責任者に報告する。

2)苦情内容の評価・調査

  1. 責任者は、受理した苦情について、妥当性、重大性、複雑性、即時処置の必要性などから評価する。
  2. 責任者は、対応者などに事情聴取を行い、苦情の内容、原因およびお客様の状況などの客観的事実の調査を行う。

3)苦情対応方法の検討

  1. 責任者は、対応者などを交え、適切な苦情対応方法の検討を行う。
  2. 上記の検討を行う際には、必ず苦情内容に関連する部門の従業員を交える。
  3. 当社のみで対応することができない場合(カスタマーハラスメントなど)には、関係機関へ苦情内容を報告し、協力を仰ぐこととする。

4)苦情対応の実施

  1. 対応者は、検討された苦情対応方法をお客様に提案する。
  2. 上記対応でお客様の了承を得られれば、当該対応を行う。お客様の了承を得られない場合、再度対応方法の検討を行う。
  3. 検討や確認に時間がかかる場合は、確認後に連絡する旨をお客様に伝える。その際には、お客様の都合を確認した上で、連絡期日も必ず伝える。
  4. 問題の発生原因などに関するお客様への報告は、文書を用いて行う。

5)苦情情報の記録

  1. 対応者は、苦情の内容、対応結果などを別途定める「苦情対応報告書」にまとめ、責任者に提出する。
  2. 責任者は、苦情対応報告書を受領し、保管する。
  3. 責任者は、当該苦情の記録を行い、当社の商品・サービスなどに反映し、再発防止に努める。

6)苦情情報の公表

  1. 苦情内容が重大なものである場合、責任者は、苦情内容をできるだけ早く公表する。
  2. 上記公表は、当社ウェブサイトへの掲載および個別のお客様への通知などの方法を用いる。

第4章(苦情対応の例外)

苦情を受理した際、対応者は、迅速に解決を図るため、以下の範囲で対応を行うことができる。また、対応後は、第3章第5項の「苦情情報の記録」を行う。

販売価格○円以下の商品・サービスの返品・交換・再提供

第5章(マニュアルの見直し)

本マニュアルは、実際の苦情情報を反映させるため、半年ごとに見直しを行う。

■苦情対応報告書■

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以上(2024年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:ESB Professional-shutterstock

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