書いてあること
- 主な読者:製品の品質や安全性を確保するに当たって「製品安全管理規程」のひな型が欲しい経営者
- 課題:具体的に何を定めればよいかが分からない
- 解決策:製品安全に関する基本方針、組織体制、技術開発や工程管理などについて定める
1 製造物責任と求められる製品安全管理
製造物責任法(PL法)によって、製造業者や輸入業者は、製造物の欠陥により人の生命、身体または財産を侵害したときは、過失の有無にかかわらず、これによって生じた損害を賠償する責任を負うこととなります。
消費者に安全な製品を供給することは製造業者や輸入業者の責務です。製品事故を防ぐために、技術開発や工程管理、出荷前の検査などを怠ってはなりません。また、品質や使用上の注意の表示、取扱説明書の適正化やアフターケアの充実により、製品販売後の被害の発生・拡大の防止に努めることも大切です。
なお、製品安全に関する解説などは、経済産業省の以下のページが参考になります。
■製品安全ガイド■
https://www.meti.go.jp/product_safety/
■製品安全自主行動計画策定のためのガイドライン■
https://www.meti.go.jp/product_safety/policy/guideline_selfaction.pdf
■リスクアセスメント・ハンドブック■
https://www.meti.go.jp/product_safety/recall/risk_assessment.html
■製品安全に関する事業者ハンドブック■
https://www.meti.go.jp/product_safety/producer/jigyouhandbook.html
2 製品安全管理規程のひな型
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【製品安全管理規程のひな型】
第1条(目的)
本規程は、当社の製品の安全性を確保するための関連各部門内での業務について定める。
第2条(用語の定義)
本規程において「製品の安全性」とは、製品の所持・使用・処分に際し、製品が人の生命、身体、財産を侵害することのないことをいう。
第3条(製品安全基本方針)
当社が製造・販売した全ての製品の安全性に対する消費者の信頼を確保することが、当社の経営上の重要課題であるとの認識の下、次の通り、製品安全に関する基本方針を定め、誠実に製品安全の確保に努める。
1.消費生活用製品安全法その他の製品安全に関する関係法令・各種基準等に定められた事項を遵守する。
2.製品安全基本方針に基づき、品質保証体制をはじめとした組織構築を行い、継続的な改善を実施して「顧客視点」に基づいた「安全」「安心」の確保と維持に努める。
3.製品安全管理について各事業部を横断的に統括する製品安全管理室を設置する。併せて各事業部内での品質保証体制および安全管理体制を構築する。製品の設計・製造・出荷の全ての段階において、常に適正な品質管理および安全管理を行い、その向上に努める。
4.当社製品に係る事故について、その情報を顧客や販売事業者、業界団体等から積極的に収集するとともに、製品の使用に伴うリスクの洗い出しを常に行い、そのリスクを評価し、その結果を製品の設計、部品、取扱説明書、警告ラベルにフィードバックする等、継続的な製品安全向上に努める。
5.当社製品に関する不慮の事故が発生した場合、直ちに原因究明を行い、安全上の問題があることが判明したときは、速やかに製品の回収、その他の危害の発生・拡大の防止措置を講じ、適切な情報提供方法を用いて迅速に消費者に告知する。
6.製品安全に関する関係法令、各種基準等について社内研修を実施し、製品安全に関する全社的な取り組みを継続的に行うとともに、関係法令遵守と製品安全の確保について周知徹底を図る。また、定期的な内部監査を実施し、製品安全管理に関する各種規程・手順等の遵守の状況の確認や適正な体制整備を行う。
第4条(製品安全責任者)
1)各部門長を、各部門における製品安全責任者とする。
2)各部門の製品安全責任者は、各担当部門における製品の安全性を確保するよう、従業員を指導・監督し、製品安全管理室と常に連絡を取るものとする。
第5条(分掌事項)
当社製品の安全性を確保するため、各部門は次の事項を分掌する。
1.製品安全管理室
・製品の安全性の確保に関する方針の審議
・製品の安全性に関する情報の収集および伝達
・開発、改良製品の安全性の審議
・取扱説明書、警告ラベルの審査
・各種チェックリストの審議
・発生事故対策の指揮
・製品安全教育計画の審議
・各部門への指導および改善勧告
・各部門間の連絡および調整
2.技術部
・製品の安全性に関する関係法令の調査および遵守
・JIS規格等の公的自主基準、業界自主基準等の遵守
・製品の品質並びに安全性に関する自社基準の作成
・本質的な安全設計
・安全装置の採用
・安全性を考慮した付属品、部品、材料の選択
・取扱説明書、警告ラベルの作成
・発生事故の原因の調査および究明
・製品の安全性に関する資料の作成および保管
3.製造部
・材料、部品、製品の品質確保
・作業の標準化
・品質管理によるばらつきの防止
・製造設備、検査設備の保全、精度管理
・検査機器の精度管理および使用条件の維持
・検査方法の維持
・取扱説明書、警告ラベルの確認
・包装容器の所定基準による検査
・図面、作業手順書および生産記録の保管
4.営業部
・製品納入時の製品取扱説明または指導
・製品の納入先記録の保管
・製品の安全性に関連する情報の製品安全管理室への通知
・発生事故の原因の調査
5.総務部
・製品の安全性に関する関係法令の調査および他部門が行う調査の支援
・製品安全教育計画の立案および実施
・発生事故の原因の調査の支援
・発生事故による損害賠償責任の有無の調査および賠償交渉
第6条(製品安全管理室の審議)
製品の開発・改良に当たっては、製品安全管理室による開発製品または改良製品の安全性についての審議を経るものとする。
第7条(製品の安全性の確保)
製品の安全性を確保するため、製品の設計・製造・出荷の全ての段階において、次の手順を経るものとする。
1.製品の企画段階において、製品の安全性について検証し、予見されるリスクを可能な限り抽出する。その際、通常の使用における危険な箇所、想定され得る誤使用による事故の危険性等について図面および企画書を基に検討を行う。
2.製品に適用される関係法令、JIS規格等の公的自主基準、業界自主基準等を製品仕様に全て盛り込むものとする。
3.製品の外観デザインを似せた模型を作り、実際の使用条件下での安全性を検証し、製品の品質基準を安全面・性能面において設定する。
4.試作品を作り、それが品質に関する自社基準および安全性に関する自社基準を満たしているか確認するため検査を行う。試作は、基準の要求を満たすまで繰り返し行うものとする。
5.外部の検査機関において品質基準書に基づき試験を行う。
6.量産体制に入った際、生産開始直後の製品で抜き取り検査を行い、品質および安全性が保持されているか確認する。
7.製造の作業工程ごとに品質管理を徹底し、異物の混入等を防止する。
8.製品の工場出荷前にロットごとに抜き取り検査を行う。
第8条(取扱説明書および警告ラベルの作成手順)
製品の取扱説明書および警告ラベルの作成は技術部が行い、次の手順に従うものとする。
1.誤使用を含め予見可能な限り製品の使用状況を想定し、開発または改良しようとする製品が安全性を欠いている点(以下「欠陥」)を調査する。欠陥による事故の発生頻度および被害程度を予測する。
2.設計により安全化を図る。
3.設計および製造段階で欠陥を取り除くことができない場合は、取扱説明書または警告ラベルで事故の予防を図る。この場合、次の事項を決定する。
・警告の対象者
・警告の方法(取扱説明書への記載や警告ラベルの貼り付け等)
4.原案を作成する。
・開発品または改良品が試作され、その安全性試験を行った後、取扱説明書および警告ラベルが原案通りでよいか検討する。
・製品安全管理室において、開発品または改良品の製造および取扱説明書、警告ラベルについて審議し、取締役会の決裁を受ける。
・取扱説明書および警告ラベルには、次の事項を明記する。なお、取扱説明書および警告ラベルの作成方法は別に定める(省略)。
・危険度レベルの区分(危険、警告、注意)
・危険の内容、性質
・警告無視の結果(被害)
・危険の回避
第9条(苦情処理)
1)製品使用者等が当社に申し出た苦情のうち、製品の欠陥を原因とする苦情は、苦情対応窓口から製品安全管理室へ通知するものとする。
2)製品安全管理室は、各関係部門の協力を得て行われた当該苦情の原因究明、被害想定の結果を取りまとめ、各関係部門の製品安全責任者に報告し、情報を共有する。
3)取締役会によってリコール実施を不要と判断した場合において、製品安全対策室は、当該苦情の処理対策の立案を行い、取締役会に決裁を仰ぐ。
4)製品安全管理室は、当該苦情の処理対策に従い、対策を実施する。
・製品使用者等に対する回答
・総務部による損害賠償交渉への協力
・仕入先に対する求償手続き
第10条(設計変更等)
1)製品の安全性を確保できない恐れがあることが判明したときは、技術部は設計変更により、製造部は製造上の変更により、当該欠陥を取り除くことが可能か直ちに検討するものとする。
2)設計変更または製造上の変更により、当該製品の安全性を確保できない恐れを取り除くことが可能な場合、技術部は改良または開発の手続きを、製造部は製造上の変更手続きを取るものとする。
3)設計変更または製造上の変更のいずれによっても当該製品の安全性を確保できない恐れを取り除くことができない場合、技術部は取扱説明書・警告ラベルの変更で対応可能か否かを直ちに検討する。可能な場合、第8条に準じて取扱説明書・警告ラベルの変更を行うものとする。
4)取扱説明書・警告ラベルの変更で対応が不可能な場合、当該製品の製造を中止する手続きを取る。
第11条(関係機関等への報告)
製品安全管理室は、製品の開発・改良が行われる場合および苦情処理対策を実施する場合は、関係行政機関、所属業界団体等に対し製品の安全性に関する所定の報告・届出・申請を行う。
第12条(教育等)
日ごろより、従業員等に対し、必要な教育・研修を実施し、消費者の安全確保の観点から企業の社会的責任の重要性を認識させるよう努める。
第13条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。
第14条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。
附則
本規程は、○年○月○日より実施する。
以上(2022年11月)
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画像:ESB Professional-shutterstock