書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 求められるリコールへの備え

安全な製品を供給することは企業の責務ですが、製品事故の発生を完全になくすことは難しいと言わざるを得ません。例えば、サプライチェーンが複雑化する中、完成品メーカーが気付かないうちに、サプライヤーが部品の材料や仕様を勝手に変えてしまう、いわゆる「サイレントチェンジ」が発生しており、経済産業省などが注意を促しています。また、足元では、一部の素材メーカーによる製品の品質データ改ざんが相次いで発覚し、問題となっています。

企業は日ごろから製品事故の発生を想定してリコール対応のための準備を行い、製品事故の発生またはその兆候を発見した段階で、迅速かつ的確なリコールを自主的に実施できるようにしておく必要があります。

準備を怠ると、リコール対応に長い時間がかかる上、結果的に「製品事故の発生を隠そうとした」と受け止められかねません。

消費者への人的危害が発生・拡大する可能性があることに気付きながらリコールなどの対応を行わず、死亡事故や火災など重大な被害を引き起こしてしまった場合、行政処分の対象となるばかりか、損害賠償責任や刑事責任を問われることになります。

訴訟に備える意味でも、企業には、迅速かつ的確なリコールを実施できる体制の整備が求められます。

リコールに備えるためには、あらかじめルールを定め、「消費者の安全確保」を重視する企業としての姿勢を従業員などが全員で共有することが不可欠です。その根拠となるのがリコール対応に関する規程です。以降では、経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック2016」を基に、リコール対応に関する規程のひな型について紹介します。

2 リコール対応に関する規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【リコール対応に関する規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、製品の使用者の生命または身体への危害の拡大防止の観点から、事故発生に伴う使用者への危険や損害発生防止の際に、当該製品の点検・修理・回収等の事故対策を迅速、適切かつ効果的に行うための社内基準として定めるものである。

第2条(対象製品)
本規程の対象とする製品は、当社が取り扱う国内向けの製品とする。ただし、その他の製品についても、本規程に準じて適用するものとする。

第3条(用語の定義)
本規程において各用語の定義は、次に定めるところによる。
 1.事故
  製品の使用に伴い、人的危害を生じた事故および人的危害を生じる蓋然性の高い物的事故をいう。また、これらの製品事故(人的事故や火災等)の発生に結びつく恐れがある製品欠陥や不具合を事故等という。
 2.拡大
  同様の事象が複数発生することをいう。
 3.リコール
  製品の使用による事故発生の拡大可能性を最小限にするための対応であって、具体的には流通および販売段階からの回収並びに顧客の保有する製品の交換、改修(部品の交換、修理、適切な者による直接訪問での修理または点検を含む)または引き取りを実施することをいう。
 4.事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報
  事故を発生させる蓋然性が高い欠陥に関する情報および欠陥か否かは明確に判別できないものの、同様の事故の発生を予見させる情報をいう。
 5.従業員等
  当社の役員および従業員をいう。

第4条(製品安全基本方針)
当社が製造・販売した全ての製品の安全性に対する消費者の信頼を確保することが当社の経営上の重要課題であるとの認識の下、次の通り、製品安全に関する基本方針を定め、誠実に製品安全の確保に努める。
 1.消費生活用製品安全法その他の製品安全に関する関係法令・各種基準等に定められた事項を遵守する。
 2.製品安全基本方針に基づき、品質保証体制をはじめとした組織構築を行い、継続的な改善を実施して「顧客視点」に基づいた「安全」「安心」の確保と維持に努める。
 3.製品安全管理について各事業部を横断的に統括する製品安全管理室を設置する。併せて各事業部内での品質保証体制および安全管理体制を構築する。製品の設計・製造・出荷の全ての段階において、常に適正な品質管理および安全管理を行い、その向上に努める。
 4.当社製品に係る事故について、その情報を顧客や販売会社、業界団体等から積極的に収集するとともに、製品の使用に伴うリスクの洗い出しを常に行い、そのリスクを評価し、その結果を製品の設計、部品、警告ラベル、取扱説明書にフィードバックするなど、継続的な製品安全の向上に努める。
 5.当社製品に関する不測の事故が発生した場合、直ちに原因究明を行い、安全上の問題があることが判明したときは、速やかに製品の回収、その他の危害の発生・拡大の防止措置を講じ、適切な情報提供方法を用いて迅速に消費者に告知する。
 6.製品安全に関する関係法令、各種基準等に関する社内研修を行い、製品安全に関する全社的な取り組みを継続的に行うとともに、関係法令遵守と製品安全の確保について周知徹底を図る。また、定期的な内部監査を実施し、製品安全管理に関する各種規程・手順等の遵守の状況の確認や適正な体制整備を行う。

第5条(製品安全責任者)
1)各部門長を、各部門における製品安全責任者とする。
2)各部門の製品安全責任者は、各担当部門における製品の安全性を確保するよう、従業員を指導・監督し、製品安全管理室と常に連絡を取るものとする。

第6条(原因究明)
1)当社製品に事故の発生または事故の発生を予見させる欠陥等の兆候を発見した場合、可能な限り速やかに問題の製品を入手し、事実関係を確実に把握する。
2)必要に応じて再現実験等の調査を実施し、原因の究明を行う。
3)当社内での原因の究明が困難な場合、製品の種類や事故の状況に応じ、公共または民間の適切な原因究明機関を利用し、原因の究明に努める。

第7条(被害想定)
事実関係に基づき人的危害の発生および拡大の可能性を検討し、被害を想定する。

第8条(リコール実施の判断)
1)消費者の安全確保の観点から、全ての事故および事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報について、リコール実施の要否を検討する。
2)リコール実施の要否および方法は、製品安全管理室が原因究明や被害想定の結果を基に判定し、取締役会においてリコールを実施するか否かの判断と決定を行う。
3)リコール実施の判断は、消費者の利益を第一に考え、事故の拡大防止のため迅速かつ的確に対応するものとする。ただし、具体的な対応はリコールの他、使用方法等に関する注意喚起、原因が究明されるまでの製造、流通または販売の停止等の暫定的な対応の選択肢も考慮し、製品や事故状況に応じた最適な対応方法を決定する。
4)リコール実施を不要と判断した場合においては、事故が拡大する可能性がないか継続監視を行う。
5)継続監視の結果、リコール実施について再び審議が必要と判断した場合は、製品安全責任者による会合を招集し、事故情報の内容および分析結果を審議し、その内容および結果を取締役会に報告する。

第9条(リコール体制の確立)
1)リコール実施を決定した場合、直ちに製品安全管理室にリコール対策本部を設置する。
2)各関係部門の製品安全責任者をリコール対策本部のメンバーとして招集し、具体的なリコール計画の策定、実施を行う。
3)製品使用者等からの問い合わせに確実に対応するため、リコール対策本部の指揮下にリコール対応窓口を設置し、要員を配置する。

第10条(リコール計画の策定)
リコール実施を決定した場合、迅速かつ的確に事故の拡大を防止するため、リコール計画を策定する。リコール計画には次の事項を定める。
 1.目的
 2.リコールの種類
  ・製品の交換
  ・部品の交換
  ・修理
  ・点検
  ・引き取り(返金)
 3.具体的な目標
  ・リコール対象数
  ・リコール実施期間
 4.責任母体
  ・責任者
  ・対応組織と役割分担
 5.対象製品
  ・品名、型番、ロット番号、シリアル番号等
  ・稼働状況(販売台数、市場稼働台数、在庫台数等)
 6.情報提供方法
  ・記者発表実施の有無
  ・社告等の情報提供方法(媒体、時期、内容)
  ・社内外に対するリコール進捗状況の情報提供に関する透明性確保の方法
 7.製品使用者への対応
  ・既に被害が発生している場合、当該被害者の救済方法を含めた対応方針
  ・まだ被害が発生していない場合、被害を予測した被害者への対応方針
 8.官公庁・公的機関への報告
 9.社内への情報伝達
  ・関係部門への連絡と主旨の徹底方法
  ・従業員等への伝達方法
 10.原因究明
  ・原因究明の結果
  ・実施状況(実施機関、時間的目標等)
  ・原因が部品供給会社等の関連会社製品にある場合の原因追究の範囲および方法等
 11.関係者からの意見聴取
  ・法的な責任の有無の確認
  ・将来的な信用や風評への対応方法等
 12.対策および再発防止策
  ・リコール実施状況のモニタリング・評価および見直し方法

第11条(販売会社等への事故対策協力要請)
リコール実施に先立ち、対象製品を供給した販売会社、委託等により対象製品の設置・修理を行っている設置・修理業者等に対し、事故対策の実施に関する連絡を行うとともに、対策の実施について協力を依頼するものとする。

第12条(関係機関等へのリコールの報告)
リコール実施を決定した場合、次の関係機関等に情報提供を行う。
 1.無用な混乱、誤った情報の流出を避けるため、従業員等に対し必要な情報提供を行う。
 2.製品使用者への対応を適切に行うため、販売会社等に対し必要な情報提供を行い、協力を要請する。
 3.関係行政機関等に対し、リコール実施前にリコール計画等を報告する。その際、報告先、書式は関係行政機関等の通達に基づく。
 4.第3号の報告は、業界団体および、関連会社が加盟している関連団体等に対し、必要に応じ速やかに行う。
 5.対象製品について、使用者団体や、常日ごろ情報提供等を行っている関連団体がある場合、これらの団体に対し情報提供を行い、協力を要請する。
 6.法的責任判断のため、弁護士に速やかに事実関係を報告する。
 7.迅速な被害者救済のため、保険会社に速やかに事実関係を報告する。
 8.必要に応じ新聞・テレビ等に情報提供を行い、協力を要請する。

第13条(リコール実施の製品使用者への通知方法・手段)
製品使用者への通知方法は次の通りとする。
 1.保守点検契約等により顧客名簿が作成され、対象製品の所在が特定される場合、ダイレクトメール、電話、FAX、Eメール、直接訪問等により、速やかに製品使用者に対し直接連絡し、通知を図る。
 2.製品使用者を確実に特定できない場合、ウェブサイト、新聞社告、記者発表等、最適な情報提供媒体を決定し、事故の重大性や緊急性によって複数の通知方法から効果的な方法を選択し、または組み合わせて、適宜に通知を図る。
 3.製品使用者に対し通知を図る際には、次の点を考慮する。
  ・高齢者を考慮した文字の大きさや分かりやすい表現方法を用いる。
  ・広告、宣伝と誤解されない体裁とする。
  ・リコール目標の達成まで継続的に実施する。
  ・通知方法、手段は最適な方法を模索し続ける。
  ・情報提供に際して、必要に応じ関係行政機関等と相談をして対応する。

第14条(リコール実施の製品使用者への通知内容)
製品使用者への通知内容は次の通りとし、簡潔かつ正確に記載する。
 1.会社名、製品名、機種名、モデル名
 2.事故の内容(現象、原因、過去の事故の件数および概要)
 3.危険性の有無と発生が予想される危害等の内容
 4.リコールの内容
  ・リコールの種類
 製品の交換、部品の交換、修理、点検、引き取り(返金)
  ・使用の中止
  ・製品使用者への依頼内容(連絡要請や着払いでの返送依頼)
  ・簡潔な謝辞
 5.製品の識別方法:名称、型番、シリアル番号、製造場所等
 6.対象製品の情報
  ・製品の製造(輸入)期間、販売期間、該当商品の販売台数、対象台数
  ・製品の型番、シリアル番号(表示箇所の写真やイラストによる説明)
  ・その他、製品を限定する情報(販売地域、販路経路等)
 7.対策の開始時期と未対策品の注意事項
 8.連絡先
  ・連絡先名(返送を依頼する場合は送付先名、住所)
  ・電話番号(フリーダイヤル)
  ・連絡可能曜日および時間帯
  ・FAX番号
  ・Eメールアドレス
  ・自社ホームページのアドレス
  ・連絡可能な問い合わせ事項の明示等
 9.日付(社告公表日)
 10.住所(本社所在地または顧客対応窓口)
 11.会社名(クレーム送付先または顧客対応窓口)

第15条(事故対策の公表)
1)製品使用者を確実に特定できない場合、適切かつ効果的な事故対応を行うために、事故対策内容を原則として記者発表等により公表する。
2)公表の時期は、切迫した危害等の恐れがある場合は、直ちに公表を行うものとする。切迫した危害等の恐れが少ない場合には、対策措置の諸準備を速やかに実施し、準備が整い次第直ちに行うものとする。
3)公表内容は第14条と同等の内容とする。

第16条(進捗状況の評価および修正)
1)策定したリコール計画通りにリコールが履行されているか否か、リコール対策本部において進捗状況を評価する。
2)リコールの進捗状況によって、逐次最適な対応方法の検討および修正を行う。リコール計画通りにリコールが進まない場合、製品使用者への通知方法・手段を再度検討する等、対応策を講じる。

第17条(対策状況の報告)
1)対策状況について、リコール計画の報告を行った関係機関等に対し報告を行う。
2)対策状況の報告は、リコール計画の報告後1カ月経過するごとに行うことを基本とし、報告先が報告頻度について特別の指示を行った場合には、それに従う。

第18条(教育等)
1)日ごろより、従業員等に対し、必要な教育・研修を実施し、消費者の安全確保の観点から企業の社会的責任の重要性を認識させるよう努める。
2)リコール完了後、リコール対策本部は、一連のリコール対応について記録をまとめ、関係機関等に報告を行う。また、一連のリコール対応で明らかになった問題点や課題を整理し、従業員等に周知する。
3)リコール対策本部は、前項の終了をもって解散できるものとする。

第19条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第20条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2018年11月)

pj60035
画像:ESB Professional-shutterstock

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