COP(コップ)とは?
こんにちは。レジル総合研究所の北川です。「基礎からわかるグリーントランスフォーメーション(GX)」第2回では、気候変動問題に対処するための基盤となる、国際的な枠組みについて紹介します。
皆さんは、気候変動に関するニュースで「COP」という言葉を耳にしたことはありますか?
COPとは、「Conference of the Parties(締約国会議)」の略称で、「国連気候変動枠組条約」に基づく国際会議を指します。
この条約は1992年に採択され、現在198カ国・機関が締約国となっています。COPでは、これらの締約国が毎年集まり、気候変動問題に関する政策や行動計画について討議し、重要な決定を下します。
COPの議題には、温室効果ガスの削減目標の設定や削減技術の開発、資金支援の提供などが含まれます。これらのテーマに基づき、各国政府の代表たちが交渉を進め、合意に至った文書を採択します。この合意文書は、国連気候変動枠組条約に署名した国々に対し、法的な拘束力を持つ重要な文書となります。
2023年11月30日から12月13日にかけて、アラブ首長国連邦のドバイで開催された「COP28」は、28回目の会議でした。この様子は多くのニュースで取り上げられたので、ご覧になった方も多いかもしれません。
COPで採択される合意文書は、気候変動に対する国際的な取り組みの基盤となり、各国の政策や行動に大きな影響を与えます。今回は、COPの過去および最新の重要な出来事を紹介し、その動向を詳しく解説していきます。
(図表1)【世界の「気候変動」対策に影響を及ぼすCOP】
(出所:筆者作成)
COPで起きた重要な2つの流れ
COPでは、1992年の気候変動枠組条約採択以降、重要な取り組みが行われてきました。これらの取り組みは、2つの主要な時期に分けられます。
1つ目は、1997年のCOP3で採択された京都議定書を基盤とする流れ
2つ目は、2015年のCOP21で採択されたパリ協定に基づく流れ
(図表2)【COPでの主要なできごと】
(出所:環境省「脱炭素ポータル」)
COP3と京都議定書
まず知っておきたいのが京都議定書です。
京都議定書とは、1997年に京都で開催されたCOP3で採択され、先進国に対する法的拘束力のある温室効果ガス削減目標です。
削減目標を達成する約束期間は、2005年から2012年です。具体的には、日本には基準年(原則1990年)に比べて6%、欧州連合(EU)には8%などの削減目標が課されました。
「歴史的な排出責任を持つ先進国が先に削減対策を行うべきである」との合意の下、京都議定書は先進国だけを対象としました。この議定書の採択は、国際社会が気候変動問題に協力して取り組むための重要な一歩となりましたが、最終的に米国が批准しないなどの課題も残りました。
日本は、京都議定書の第1約束期間(2008~2012年)において、削減目標を達成しました。しかし、新興国の経済発展に伴う影響など、京都議定書下で削減義務を負う国々の排出量が全体の4分の1にとどまるなど、気候変動対策の効果が限定的である状況が明らかになりました。このため、日本は第2約束期間(2013~2020年)への参加を見送る決定をしました。
このあたりから、国際社会の議論は、全ての国が参加する新たな枠組みの構築を目指す方向に進んでいきます。
パリ協定とは
次にパリ協定です。
パリ協定とは、2015年のCOP21で採択された気候変動対策に関する最も重要な枠組みです。
この協定の核心的な成果は、産業革命前と比較して気温上昇を2℃未満に抑えることを共通の長期目標とし、さらに1.5℃の上昇にとどめる努力を目指す国際的合意を実現したことにあります。
パリ協定においては、主要排出国を含む全ての国が5年ごとに削減目標を設定・更新することが定められています。目標達成は義務付けられてはいませんが、全ての国が対象となるという点で、京都議定書とは大きく異なります。現在では、2℃と1.5℃の目標の間には気候変動への影響に大きな差があると認識され、1.5℃の目標が世界共通の目標として採用されています。
2℃や1.5℃と聞くと、大した変化ではないと感じるかもしれませんが、実はとても大きな変化です。このことは、シリーズ第1回で解説していますので、併せてお読みください。
ただし、パリ協定を採択したことで全てが整理されたわけではありません。課題の1つは、
各国が自主的に目標を設定するため、排出量削減に向けた統一された進行がなされていない点
です。例えば、2030年の目標についても、日本は2013年比、欧州は1990年比と基準年が異なり、新興国や発展途上国では経済成長を考慮して、排出量増加の目標を設定している国もあります。
さらに、パリ協定の実施指針には決まっていない部分も多く、その後のCOPで交渉が継続されました。議論の主要なテーマは、温室効果ガス排出削減の取り組みルール、情報開示の方法、先進国から発展途上国への資金支援の形態などです。
全会一致での採択を前提とするCOPでは、多様な背景を持つ国々が参加する中で、合意に至ることは簡単ではありませんが、COP26グラスゴーで温室効果ガス排出削減のルールとして、石炭発電からの段階的な廃止に合意するなど、気候変動対策に関する国際的な枠組みは、着実に進展しているといえます。
(図表3)【主要各国の自主目標】
国・地域 | 削減目標 | 基準年 |
---|---|---|
日本 | 46%削減 | 2013年 |
米国 | 50~52%削減 | 2005年 |
EU | 55%削減 | 1990年 |
中国 | CO2排出量のピークを2030年より前にすること GDP当たりのCO2排出量で65%削減 |
2005年 |
インド | GDP当たりのCO2排出量で45%削減 | 2005年 |
ロシア | 30%削減 | 1990年 |
(出所:筆者作成)
最新動向 COP28ドバイ
2023年11月30日から12月13日にかけて、アラブ首長国連邦のドバイで開催されたCOP28は、開催前から大きな注目を浴びていました。なぜなら、
COP28では、パリ協定に基づき5年ごとに進捗状況を評価するグローバル・ストックテイク(GST)が行われる
からです。各国は、評価結果を基に作成される成果文書を通じて、次期目標(2035年目標)を設定することとなります。
また、COP28では、化石燃料に関する議論も継続して行われました。欧州諸国などは石炭だけでなく、化石燃料全体の段階的廃止を求め、産油国から強い反対が表明されるなど意見のぶつかり合いがありました。
最終的には、会期を1日延ばし、化石燃料全体に範囲を広げる一方で、「段階的廃止」ではなく「脱却」という表現にすることで落ち着きました。この表現に対しては一部から批判の声も上がりましたが、COPの全会一致の原則を尊重しながら、化石燃料全体に対するエネルギー転換の方向性が示されたことは、大きな成果とされています。
GSTの成果文書には、2025年までに地球全体での排出量のピークアウトを達成し、2035年までに、全体で60%の温室効果ガス削減を目指すといった具体的な目標が盛り込まれました。さらに、「次期目標では1.5℃目標に沿った内容を提示すること」や「再エネ設備容量を3倍にすること」「再エネ、原子力、CCS(二酸化炭素回収・貯留)、低炭素水素製造等のゼロ・低排出技術加速」などの対策が合意されました。合意内容の特徴として、気候変動対策をより加速化および具体化する必要があるため、原子力やCCSなど各国の状況に合わせた多様な選択肢が許容されるようになってきています。
COP28クロージング・プレナリー(閉会会合)の様子
(出所:環境省「脱炭素ポータル(国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局HPより引用)」)
まとめ
さて、本日のコラムでは、気候変動に対する国際的な枠組みであるCOPについて、過去の重要な出来事から最新動向までをご紹介してきました。国ごとの異なる事情がある中で、地球規模での課題である気候変動に対し、各国政府は着実な歩みを進めています。パリ協定の採択から約8年が経過し、気候変動対策の必要性は一層増しており、COPでの議論はより具体的な内容が求められています。
次回は、国際的な動向にフォーカスします。気候変動対策と結びつく重要な要素であるESGやSDGs、また、民間企業を中心としたSBTなど、各種国際イニシアチブについて詳しくご紹介します。これらは日々のビジネスに直結しないように感じられるかもしれませんが、皆さんのステークホルダーにも潜在的な影響を与えている可能性がありますので、ぜひ概要を知っていただければと思います。
以上
画像:Mariko Mitsuda
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