書いてあること

  • 主な読者:会社の今後を見据えるにあたり、2024年度の経済展望について知りたい経営者
  • 課題:専門的なことを勉強するのも大事だが、まずは大まかに全体的な情報が知りたい
  • 解決策:景気は緩やかに回復しつつ、物価と賃金の好循環が見られると予想される。その他、金融政策や株、ドルの動きなどについてざっくりとイメージをつかむ

1 2024年度の経済展望を“ざっくり”知りたい方へ

春闘で注目される物価高と賃金の動向、それらを踏まえた今後の日銀の金融施策など、2024年度の経済展望が気になっている経営者の方も多いと思います。

政府、日銀、経済研究機関、金融機関など、経済動向に関する情報を届けてくれる先は色々ありますが、多忙な経営者の中には、「数字や専門用語が多い。データが大事なのは分かるが、もう少し端的にイメージがつかめるものはないだろうか」と思っているかもしれません。

そこで、この記事では「経済評論家、徒然なるままに語る」と題して、2024年度の経済展望について“ざっくり”としたイメージがつかめるよう、経済評論家の塚崎公義氏が分かりやすくお伝えします。

2 景気は緩やかに回復

景気は、概ね横ばいながら、方向としては緩やかに回復しつつある、といったところでしょう。日本国内には、景気に影響しそうな要因が見当たりません。財政政策は見込まれませんし、金融政策変更の影響も小さそうです(後述)。

米国経済は、金利高にもかかわらず比較的好調で、「ソフトランディング」しそうですから、日本経済への影響は小さいでしょう。

問題は中国経済です。中国経済は不動産バブル崩壊で相当大きく落ち込んでいるようですが、それ以上に筆者が気になっているのは中国政府が経済よりも政治の安定を志向して企業への統制を強めていることです。そうした中国政府の姿勢を嫌い、海外からの投資が激減するかもしれません。中国人経営者も萎縮して投資を減らすかもしれません。

それにより、中国経済の落ち込みは一層大きくなるでしょうから、中国向けの輸出が減ったり中国進出企業が困ったりしかねません。もっとも、日本にとっては「中国に投資するより日本に投資しよう」という動きがプラスに働く可能性もあります。最大の資源消費国である中国の不況は、世界の資源価格を下落させ、日本経済への恩恵となることも期待されます。

日本の景気に関しては、「少子高齢化で景気の波が小さくなる」ということも重要です。高齢者の消費は安定しているので、高齢者向けの仕事をしている現役の所得も消費も安定しているのです。極端な話、現役全員が介護をしている国では景気変動は無いはずですから。

3 物価と賃金の好循環

少子高齢化は労働力希少を加速します。ちなみに労働力不足という言葉は否定的な語感があるので、この記事では「労働力希少」という表現を用います。労働力希少は経営者にとっては困ったことでも、労働者にとっては良いことですし、省力化投資を促して日本経済を効率化させるという点でも良いことなので。

労働力希少になると、正社員の給料が上がりますが、それ以上に非正規労働者の賃金が上がります。非正規労働者は賃金を上げないと逃げてしまうからです。

これまでは、「値上げをすると客が逃げるから値上げできない。だから賃上げもできない。だから働き手が集まらない」という企業が多かったようですが、どこの企業も同じ悩みを持っているのであれば、皆で値上げをすれば良いのです。

最近になって値上げをする企業が増え、消費者が「値上げ慣れ」し、「値上げしても客が逃げない」と考えた企業が値上げと賃上げに踏み切る例が増えてきました。そうなると、値上げして客に逃げられる企業、賃上げできない企業から賃上げできる企業に労働者が移っていくことになるでしょう。企業経営者にとっては辛いかもしれませんが、日本経済にとっては良いことだと思います。

4 金融政策の影響は小

値上げと賃上げの好循環が定着すると、日銀は金融政策を変更するでしょう。マイナス金利の廃止、長期金利抑え込みの終了、短期金利のプラス化といった順で金融政策が「危機時の緊急避難的政策」から正常化していくのです。

もっとも、その影響は小さいと思われます。景気への影響が小さい理由は、(1)小幅な金利上昇があったとしても、それを理由に設備投資をあきらめる企業は少ないから、(2)景気への悪影響が大きそうなら日銀は金融政策の正常化を急がないはずだから、といったところです。

金融政策の影響は小さいですが、視点を変えて、日銀が金融政策を変更できる程度にまで経済が健全化した、ということは素直に喜んでよいと思います。長い間デフレに苦しんできた日本経済がインフレの時代を迎えたのですから。

一般論としては、金融政策変更は景気より株価や為替レートに大きく影響するのですが、今回は植田日銀総裁が慎重に時間をかけて市場関係者に利上げを織り込ませてきましたから、実際の利上げの時に株価や為替レートが大きく動くという可能性は大きくないでしょう。

5 株高はバブルにあらず

日経平均株価がバブル期の最高値を抜いたことが話題となっていますが、これは現在の株価がバブルであるということではありません。長い時間をかけて日本企業は稼ぐ力を付けてきましたから、企業の利益と株価を比較した「PER」という指標を見ると、当時とは全く異なっていて正常な値になっているのです。

利益の増加に加えて、日本企業の姿勢の変化も株高の要因となっているようです。東証が企業に対して「株価が安すぎる企業は、もっと株主のことを考えて努力してほしい」という趣旨の依頼をしたのを契機として、「企業が株価引き上げ策を講じるだろう」との期待が膨らみ、日本株への投資が活発になっているのです。

もっとも、「だから株価は下がらない」などと言うつもりは毛頭ありません。現在の株価は株価上昇を予想して買い注文を出しているプロと株価下落を予想して売り注文を出しているプロが同数いるから成立しているわけで、筆者ごときが予想できるものではありませんから。

6 ドル高は続くかも

株価は概ね適正なレベルですが、ドルは適正とは言い難いレベルにあります。適正な為替レートというのは、両国の物価水準を概ね等しくするようなレベルのことですが、現在は米国の方が日本よりはるかに物価が高いからです。

本来であれば、日本の輸出企業が大いに輸出を増やして大いに儲ける一方、彼らが持ち帰ったドルを売るのでドルの値段が下がるはずなのですが、最近の日本の輸出企業は「輸出せずに売れる所で作る」ことに熱心なのです。

「今の為替レートが永続すると分かっているなら、日本に工場を建てて大いに輸出するだろう。しかし、仮に数年後に円高になって輸出が困難になったら建てた工場が無駄になってしまう。そんなリスクを冒すくらいなら、売れる場所に工場を建てた方が安心だ」ということのようです。

そこで、近年の貿易サービス収支の基調は概ねゼロ(原油価格次第で黒字になったり赤字になったりする)となっています。貿易等によるドル買いとドル売りが概ね同額なのです。そうなると、「ドルの値段が高すぎるから下がるだろう」と考えるわけには行きません。

経常収支は黒字ですが、その主因は利子配当の受け取りです。受け取った利子配当は現地で再投資される場合も多いので、ドルを安くする要因とは考えない方が良さそうです。

株と同様、プロ同士が売り買いして成立している現在の為替レートですから、筆者ごときが予想をするのは僭越だ、ということで、ドル高は続くかもしれないし続かないかもしれない、とだけ記しておきましょう。

7 倒産は増加するかも

倒産件数は、増加しています。ゼロゼロ融資が返済できない、という例も多いようですが、これは「本来ならばコロナ禍の最中に倒産しているはずだった企業が生き延びていた」というケースも多いでしょうから、均してみる必要があるでしょう。

注目すべきは、賃上げできずに労働者が引き抜かれて倒産する、という事例が増えていきそうなことです。日本経済全体としては、高い賃金を払える効率的な企業に労働者が移るのは良いこととも言えますし、企業に省力化投資を促す要因となれば喜ばしいことなのですが、企業経営者にとっては困難な時期を迎えるということなのでしょう。

読者の中には経営者も多いと思われます。経営努力で労働力を引き抜かれる方ではなく引き抜く方になれば、ライバルが倒産して客が流れてくることも期待できるわけですので、頑張っていただきたいと思います。

以上(2024年3月作成)
(執筆 前久留米大学商学部教授、経済評論家 塚崎公義)

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画像:yoshitaka-Adobe Stock

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