書いてあること
- 主な読者:定時株主総会を開催しないことが「会社法」違反になることを知った経営者、実務担当者
- 課題:定時株主総会の開催が必須であることは理解したが、何を決めるべきか分からない
- 解決策:取締役会設置会社は、株主総会の前に取締役会で議題を承認する必要がある。計算書類、事業報告の準備、取締役の選任・解任などありがちな議案を確認する
1 株主総会を開催しない株式会社はやばい?
この記事で想定するのは、中小企業に多く見られる「非公開会社」で、機関設計は「取締役会・監査役設置会社」です。非公開会社とは、
全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社
のことです。
株主が経営者とその親族などに限られているオーナー企業では、「いつでも株主と連絡が取れる」「株主総会の実務が面倒」といった理由から、実際の株主総会を開催せず、議事録だけを作成しているケースがあります。しかし、これは会社法第319条第1項で株主総会の決議の省略が認められている場合を除き会社法違反です。
なぜなら、株主総会は株式会社に必ず必要な「機関」です。また、株主総会には、
- 定時株主総会:事業年度の終了後に開催
- 臨時株主総会:定時株主総会以外で必要がある場合に開催
がありますが、会社法上、定時株主総会(以下「株主総会」)は事業年度に1回、必ず開催しなければなりません。つまり、
株主総会を開催しない株式会社はない
ということになります。
2 株主総会で決められることは限定的?
取締役会を設置している会社は、
- 株主総会の決議事項は、法令と定款に定めた事項に限り認められる
- 株主総会の議案として上程したもの以外は、原則としてその株主総会では決められない
- 株主総会の議題については、事前に取締役会の決議が必要
といったルールがあります。つまり、株主総会だけで新しいことをあれこれと決めることはできません。何を決めなければならないのか、事前の取締役会の決議の時点から漏れなどがないようにしなければなりません。以降で、株主総会の主な議題と留意点を確認していきましょう。
3 株主総会の主な議題と留意点
1)計算書類の承認と事業報告の報告
計算書類とは要するに決算書のことで、株主総会で承認のための普通決議を受けなければなりません。普通決議とは、
議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)よる決議
です。また、取締役は株主総会で事業報告をしなければなりません。事業報告とは、文字通り、事業の状況に関する報告です。
取締役会設置会社の場合は、
計算書類と事業報告は取締役会における承認が必要
となるので注意しましょう。
2)取締役・監査役の選任
取締役・監査役の選任には、株主総会の決議が必要です。取締役の任期は原則2年、監査役の任期は原則4年です。ただし、非公開会社の場合、取締役・監査役ともに、定款に定めることで任期を最長10年に伸長できます。
3)取締役の報酬
取締役の報酬は、次の事項を定款に定めるか、定めないときは株主総会の普通決議が必要です。
- 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
- 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
- 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
2.は業績連動型報酬などのように事前に額を確定できないもの、3.は現物支給やストックオプションなどが該当します。中小企業では、1.に該当するものがほとんどでしょう。
なお、取締役会設置会社の場合、全取締役の報酬総額を「年額○○○万円以内とし、各役員の具体的な報酬額は取締役会に一任する」などと株主総会で決議し、報酬額は取締役会で決定することが実務上は多いです。
株主総会での決議は、一度決議をした範囲で報酬額を決定している限り、毎年行う必要はありませんが、全取締役の報酬総額の上限を超えて報酬を支払う場合や、取締役の報酬総額を決議した内容と異なる報酬額とする場合は、改めて株主総会で決議する必要があります。
4)定款の変更
定款の変更は、株主総会での特別決議が必要です。特別決議とは、
議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)よる決議
です。
定款には「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」があります。絶対的記載事項は、定款に必ず記載する必要があり、その規定を欠くと定款が無効になる事項です。相対的記載事項は、記載がなくても定款の効力自体に問題はありませんが、記載がなければその効力が認められません。任意的記載事項は、会社が任意に記載する事項です。
相対的記載事項を新たに設定する場合、本当に定款に定める必要があるか否かについて会社法の規定を確認する必要があります。絶対的記載事項と主な相対的記載事項は次の通りです。
以上(2024年4月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 滝川航生)
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