書いてあること
- 主な読者:株主総会などを前に、株主の権利を改めて確認しておきたい経営者
- 課題:「自益権」と「共益権」というが、具体的な内容が分からない
- 解決策:基本を確認し、必要に応じて会社法を確認したり、専門家に相談したりする
1 主な株主の権利
1)自益権と共益権
株主の権利は自益権と共益権とに大別されます。
自益権とは、
剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利など、会社から直接経済的な利益を受ける権利
です。全ての自益権は1株の株主でも行使できる単独株主権です。
共益権とは、
株主総会の議決権を行使する権利、取締役等の違法な行為の差止めを請求する権利など、会社の経営に参与し、あるいは会社の経営を監督是正する権利
です。共益権は他の株主の利益にも影響するため、単元未満株主を除き1株の株主でも行使できるもの(単独株主権)と、一定の議決権数または総株主の議決権の一定割合の議決権もしくは、発行済株式の一定割合の株式を有する株主のみが行使できるもの(少数株主権)とに分かれます。
以降で、主な単独株主権を見ていきましょう。
2)株主の投下資本回収に関する権利
- 剰余金の配当を受ける権利(会社法第105条第1項第1号)
- 譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合の譲渡制限株式の買取を請求することができる権利(会社法第138条第1号ハ、第2号ハ)
- 残余財産の分配を受ける権利(会社法第105条第1項第2号)
3)株主総会に関する権利
- 株主総会において株主総会の目的である事項につき議案を提出することができる権利(会社法第304条)
- 株主総会において特定の事項について質問をすることができる権利(会社法第314条)
- 株主総会における議決権(会社法第105条第1項第3号、第308条第1項)
4)取締役等の不正行為に対応するための株主の権利
- 取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令もしくは定款に違反する行為をし、またはするおそれがある場合において、当該行為によって当該会社に著しい損害が生じるおそれがあるときに、当該取締役に対して当該行為をやめることを請求することができる権利(違法行為の差止請求・会社法第360条)
- 取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令もしくは定款に違反する行為をし、またはするおそれがあると認めるときに、取締役会の招集を請求することができる権利(取締役会招集請求・会社法第367条第1項)
- 募集株式の発行もしくは自己株式の処分が法令もしくは定款に違反する場合、または募集株式の発行もしくは自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときに、募集株式の発行または自己株式の処分をやめることを請求することができる権利(募集株式発行差止、自己株式処分差止請求・会社法第210条)
- 募集新株予約権の発行が法令もしくは定款に違反する場合、または募集新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときに、募集新株予約権の発行をやめることを請求することができる権利(新株予約権発行差止請求・会社法第247条)
- 会社の設立、株式(会社成立後)の発行、自己株式の処分、会社の合併・分割など、会社の組織に関する行為の無効を、訴えをもって主張することができる権利(組織に関する行為の無効の訴え・会社法第828条各号)
5)会社の有する情報を取得するための権利
- 株主総会議事録等の閲覧または謄写を請求することができる権利(会社法第318条第4項、第319条第3項)
- 株主の権利を行使するために必要があるときに、取締役会議事録等の閲覧または謄写を請求することができる権利(会社法第371条第2項)
- 計算書類等の閲覧、謄本または抄本などの交付を請求することができる権利(会社法第442条第3項)
- 株主名簿、新株予約権原簿の閲覧または謄写を請求することができる権利(会社法第125条第2項、第252条第2項)
2 主な少数株主権
1)少数株主権とは
少数株主権とは、一定の議決権数、総株主の議決権の一定割合の議決権または発行済株式の一定割合の株式を有する株主に認められる権利です。ここでは、非公開会社における主な少数株主権とその内容を見ていきます。便宜上、取締役会設置会社を前提とします。
なお、以下の議決権割合や株式数を下回る割合や数を定款で定めた場合には、それに従うことになります。また、次の株主の権利は、それぞれ原則の規定を紹介するものであり、法令や定款の定めにより、その権利に制限がなされている場合があります。
2)株主総会検査役の選任申立権(会社法第306条)
総株主(完全無議決権株式の株主を除く)の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集の手続きおよび決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対して、検査役の選任の申し立てをすることができます。
3)議題提案権(会社法第303条)および議案の要領の通知請求権(会社法第305条)
取締役会非設置会社では、株主総会の議題提案権は単独株主権とされますが、取締役会設置会社における株主の議題提案権は少数株主権となります。次のどちらかに該当する株主は、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができます。
- 総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主
- 300個以上の議決権を有する株主
また、取締役会設置会社における議案の要領の通知請求権(株主総会の目的である事項につき自らが提出しようとする議案の要領を株主に通知することを請求することができる権利)も少数株主権です(会社法第305条)。
なお、株主の「議案提出権(会社法第305条)」は単独株主権のため、株主であればその権利行使が可能です。
4)株主総会の招集請求権(会社法第297条)
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項および招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます。
5)取締役等による責任の一部免除への異議(会社法第426条第7項)
取締役が2人以上あり、かつ監査役設置会社である会社などにおいては、定款に定めをおくことにより、責任を負う役員等である者を除いた取締役会決議(取締役非設置会社であれば責任を負う役員等である者を除いた取締役の過半数の同意)によって一定の額を限度として、役員等の会社に対する損害賠償責任を免除することができます(会社法第426条)。
取締役会が定款の定めに基づき、役員等の責任の一部免除の決議をしたときでも、総株主(責任を負う役員等である者を除く)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、異議を述べることができ、その場合、会社は定款の定めに基づく役員等の責任の一部免除をすることはできません(会社法第426条第7項)。
なお、最終完全親会社等(会社法第847条の3第1項、第2項)のある会社においては、取締役等の特定責任(会社法第847条の3第4項)の追及について、別個の定めが設けられています。
6)業務および財産調査のための検査役の選任申立権(会社法第358条)
株式会社の業務の執行に関し、不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるとき、以下のどちらかに該当する株主は、当該会社の業務および財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申し立てをすることができます。
- 総株主(完全無議決権株式の株主を除く)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主
- 発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主
7)会計帳簿の閲覧請求権(会社法第433条)
次のどちらかに該当する株主は、当該請求の理由を明らかにすることにより、会社の営業時間内はいつでも会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧、もしくは謄写を請求することができます。
- 総株主(完全無議決権株式の株主を除く)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主
- 発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主
会社は、会社法第433条第2項の閲覧拒否事由に該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができません。
8)会社の役員の解任の訴え(会社法第854条)
役員の職務の執行に関し不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときなどにおいて、次のどちらかに該当する株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができます。
- 総株主(当該請求に係る役員である株主などを除く)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主
- 発行済株式(当該請求に係る役員である株主などが有する株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主
なお、この場合、株主総会における解任議案の否決等が訴訟要件であるため、訴えを提起しようとする株主は、当該議案を株主総会に付議することなどが必要となります。
9)会社の解散の訴え(会社法第833条)
会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該会社に回復することができない損害が生じもしくは生じるおそれがある場合、または会社の財産の管理もしくは処分が著しく失当で、当該会社の存立を危うくする場合において、それぞれやむを得ない事由があるときは、次のどちらかに該当する株主は、訴えをもって会社の解散を請求することができます。
- 総株主(完全無議決権株式の株主を除く)の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主
- 発行済株式(自己株式を除く)の10分の1以上の数の株式を有する株主
業務の執行において著しく困難な状況とは、それぞれが議決権の50%ずつを保有する株主派閥の対立により、新たな取締役の選任も不能となったケースなどがあります。会社の財産の管理または処分が著しく失当とは、取締役に会社の存立に関わる非行があるにもかかわらず、同人が過半数の議決権を保有するため、その是正が期待できないようなケースなどがあります。
この制度は、主に非公開会社等、株式に流通性のない会社の少数株主が損害を防止するための最後の手段として位置付けられています。
以上(2023年4月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)
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