書いてあること

  • 主な読者:ガチャガチャを使って地域活性化を図りたい中小企業、自治体担当者など
  • 課題:ガチャガチャが本当に地域の活性化につながるのか、商品化やPRに当たり、どのような準備が必要になるのかを知りたい
  • 解決策:地域の中で、ご当地ガチャや街ガチャをやりたいという仲間を、どれだけ集められるかが肝心。その地域で影響力や外部への発信力が高い人との人脈を築けると、スムーズに企画が進められる

1 ガチャガチャが地域活性化のきっかけに?

小銭を入れてハンドルを回すと、おもちゃや雑貨などが入ったカプセルがランダムに出てくる「ガチャガチャ」。昨今では、ガチャガチャ専門店をはじめ、ショッピングモールや駅ナカ、書店など、さまざまな場所でガチャガチャを見かける機会が増えています。

実際に、10年前と比較しても市場規模が大きく拡大しています。

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このガチャガチャ人気に注目し、自治体の中には、その地域の名所や特産品などをキーホルダーやバッジなどのグッズにした「ご当地ガチャ」や「街ガチャ」によって、地域の活性化を図ろうとする動きがあります。

こうした「ご当地ガチャ」や「街ガチャ」の取り組みは、SNSで拡散されたり、ニュースで取り上げられたりすることで話題を呼んだものもありますが、どの程度地域の活性化に貢献しているのでしょうか?

この記事では、前提知識として、ガチャガチャ市場の最近の動向をはじめ、業界の第一人者となる日本ガチャガチャ協会(東京都中央区)へのインタビュー、ご当地ガチャ、街ガチャの取り組み事例の紹介を通じて、ガチャガチャはどのような仕組みのビジネスなのかをひもといていきます。

なお、ガチャガチャは、メディアによっては「カプセルトイ」や「カプセル玩具」などと呼ぶこともありますが、昨今ではカプセルの中身は玩具だけでなく、多種多様な商品が登場しており、正確な表現とはいえなくなっています。そのため、この記事でも特別な注釈がない限りは、「ガチャガチャ」で呼称を統一していることをあらかじめご承知おきください。

2 まずは、ガチャガチャビジネスの仕組みをひもとこう

1)ガチャガチャビジネスのプレーヤーは?

ガチャガチャビジネスも他業界と同じように、「メーカー」「オペレーター」「販売店」の3者に大きく分けられます。

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1.メーカー

商品の企画・販売を手掛ける企業です。バンダイ(東京都台東区)とタカラトミーアーツ(東京都葛飾区)が市場シェアの7割を占めているといいます。また、ガチャガチャの筐体(きょうたい)製造もこの2社が市場シェアを独占しているようです。

2.オペレーター

メーカーが作った商品や筐体を仕入れ、ショッピングモールなどの販売店に筐体の設置を手掛ける企業です。設置料として売り上げの15~20%を販売店に支払って筐体を設置し、商品の補充や売り上げの集金などのメンテナンスを行います。

ガチャガチャの流通は、メーカーが発行する新商品情報をオペレーターが見て3?カ月前に発注数を決め、その数量だけメーカーが商品を製造してオペレーターに納品するという仕組みになっています。

また、筐体から得た利益をメーカーと販売店に還元したり、販売店で商品が売れ残ったりしたときには、在庫のリスクを負う役割もあります。

3.販売店

オペレーターから供給された商品と筐体を自社のスペースに置いて、消費者向けに販売します。

かつては個人経営の駄菓子屋や文房具店の軒先などに筐体がよく置かれていましたが、昨今では、ショッピングモールやゲームセンター、駅ナカなど、販売店となる場所が増えています。

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2)進化するガチャガチャビジネスのトレンド

1.キャッシュレス決済

これまでガチャガチャを購入するには、100円単位の小銭が必要でしたが、昨今では、QRコードや交通系ICカードなどで、キャッシュレス決済が可能な筐体が登場しています。

消費者側では、両替などで手元に小銭を用意しなくても手軽に購入できるようになったり、メーカー側でも、100円単位でしか商品の値段を設定できないという制約がなくなるなどのメリットがあります。

2.環境に配慮したカプセルの登場

ガチャガチャが登場してから現在に至るまで、商品がプラスチックのカプセルに入っているスタイルは変わりませんが、SDGsや脱プラなどの流れに合わせて、カプセルのリサイクルや、プラスチックを使わないカプセルを用いる動きがあります。

例えば、ケーツーステーション(大阪府岸和田市)がレンゴー(大阪府大阪市)、大宝工業(大阪府守口市)と共同で開発した紙カプセルの「ecoポン」は、資源ごみとして回収すればリサイクルが可能で、一般ごみとして焼却しても有害物質が出ないという特徴があります。

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3.ガチャガチャ購入のオンライン化

ガチャガチャを購入するには、筐体のある場所に行かなければならず、購入者にとっては、目当ての商品を探して店舗を何軒もはしごするという手間があります。

こうした側面から、通販でガチャガチャの商品を購入できる環境が整っています。

例えば、バンダイが運営している「ガシャポンオンライン」では、自社で取り扱っているガチャガチャの商品をオンライン上で購入できます。

また、ホビーストック(東京都墨田区)が運営するウェブサイトの「colone(コロネ)」は、オンラインで決済をすることで、ガチャガチャを回すことができるサービスです。購入した商品が重複してしまった際には、ユーザー同士で交換することもできます。

ガチャガチャを回すワクワク感よりも、商品を効率よくコレクションしたい人には向いているといえるでしょう。

3 日本ガチャガチャ協会に聞く ご当地ガチャ成功の秘訣

ここでは、ガチャガチャビジネスのコンサルティングや商品企画などを手掛けている、日本ガチャガチャ協会代表理事の小野尾勝彦氏に、ご当地ガチャ成功の秘訣をインタビューしました。

1)そもそも、ご当地ガチャとはどんなものでしょうか?

地域の活性化にガチャガチャを用いる試みです。観光客向けの商品から、地域の人だけが知っているローカルなネタまで広く取り扱い、外部向けには地域の魅力発信、内部向けには地元愛の醸成を図るものになります。

多くは地域の観光協会や地元企業など、有志のグループが自主的に取り組んでおり、メーカーやオペレーターは関与していません。そのため、ライセンス商品やメーカーオリジナル商品とはまた違った分類になります。

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2)ご当地ガチャにしやすい人気の商品はありますか?

ご当地ガチャになる商品は、キーホルダーやバッジがほとんどとなっています。特に、アクリルキーホルダーはイラストや写真をきれいに写しやすく、フィギュアやミニチュアなどの立体物よりも低価格、小ロットで、クオリティーの高い商品ができるので人気があります。

お土産物屋でアクリルキーホルダーをレジ横などに置いて販売するよりも、ガチャガチャの商品にすることで低価格で購入できるので、お土産として人にプレゼントしやすくなるし、何が出るか分からないワクワク感から、楽しんで購入してもらえるといったメリットがあります。

また、その地域で有名な店舗の看板は、目にする機会は多いものの、商品化されることが少ないので、ガチャガチャの商品として人気があります。

3)ご当地ガチャのPRは、どのような媒体が向いていますか?

新聞や地元のフリーペーパーによるPRが一般的です。また、ガチャガチャはSNSでのウケも良く、SNSで拡散されて話題になった結果、テレビ番組などでも特集されて一気に認知度が高くなったケースもあります。

4)ご当地ガチャの企画を進める際に、苦労しがちな点は何でしょうか?

地域の店舗などをモチーフに商品を作る際に、店舗の管理者に商品化の許諾を取ったり、商品の監修などを依頼したりするところは、特に時間がかかる工程です。

店舗ごとに個別に交渉するよりも、商店街振興組合など、その地域の店舗を取りまとめている組織があれば、そちらに交渉するとスムーズに企画が進められるかもしれません。

また、今でこそガチャガチャの認知度は高まりつつありますが、一昔前だと子どものおもちゃというイメージもあったため、商品化に乗り気ではなかったケースもあります。

5)ここまでを踏まえて、ご当地ガチャの企画を進める際の秘訣は何でしょうか?

その地域の中で、ご当地ガチャをやりたいという仲間を、どれだけ集められるかが肝心です。例えば、地元のイラストレーター、新聞社やフリーペーパーなどの媒体に携わっている人、観光協会、地域の商店街の組合員など、その地域における影響力や外部への発信力が高い人との人脈を築けると、スムーズに企画が進められると思います。

4 「ご当地ガチャ」「街ガチャ」の取り組み事例

1)飲食店の看板がモチーフの「立石ガチャ」(東京都葛飾区)

カプセルトイの製造・販売を行うプレステージ(埼玉県八潮市)と、日本ガチャガチャ協会が共同で手掛けています。

ラインアップは、京成立石駅前に点在する「蘭州」「鳥房」「二毛作」「ミツワ」「栄寿司」の5店舗と、立石のランドマークである「呑(の)んべ横丁の看板」の計6種類。第2弾は串揚げ店「毘利軒(びりけん)」、店内で飲めるスーパー「倉井ストアー」、趣のある大衆店「ゑびすや食堂」、再開発で閉店となった「江戸っ子」「木村屋豆腐店」、再開発で撤去された「呑(の)んべ横丁の看板」となっています。

モチーフとなったこれらの店舗は、立石地区の再開発で閉店することになり、メモリアルとして残したいという思いから、ガチャガチャの商品化につながったものになります。

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2)街ガチャin船橋(千葉県船橋市)

船橋市観光協会と日本ガチャガチャ協会の共催で、「カプセルトイで街を元気に!ジモト愛をガチャに込めて、街を盛り上げるプロジェクト」として、 市内の名物、名所、文化をイラストに描いたキーホルダーを製作・販売しています。

各イラストは船橋在住のイラストレーターや作家が担当し、2021年10月の発売開始から第4弾までが、商品として販売されています。

ガチャガチャの筐体には、小銭が不要でキャッシュレス決済ができる「ピピットガチャ」を使用しています。また、ガチャガチャのカプセルも生分解性プラスチックでできている「AMバイオカプセルR?」を使うなど、環境に配慮していることも特徴です。

日本ガチャガチャ協会によると、観光協会などと連携し、商品化からリリースまでの期間が短く、早めに告知ができたことで売上の拡大につながったといいます。

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3)大宮ガチャタマ(埼玉県さいたま市)

ご当地ガチャの先駆けといわれており、大宮駅周辺の観光スポットや老舗などをモチーフにしたアクリルキーホルダーを販売しています。

大宮駅前西口で商業ビルを展開するアルシェ(埼玉県さいたま市)が企画し、大宮駅や株式会社ルミネアソシエーツが協力、ジェットワークスが販売元となっています。

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、大宮を元気にするきっかけとして、地元しか知らないものやマニアックなものを商品化したいということが始まりといいます。

2021年3月から発売を開始して、当初は最初のロットとして1000個が売れればよいと想定されていましたが、SNS上での投稿などで話題となり、2日で完売したといいます。

現在は第5弾までシリーズ化されており、累計で140万個ほどが売れているそうです。

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4)街ガチャin藤枝 朝ラーメンガチャ(静岡県藤枝市)

静岡県藤枝市が、固有の食文化である「朝ラーメン」を全国に発信するため、観光協会や藤枝朝ラー文化軒究会と連携して取り組む、カプセルトイを活用したまちおこしプロジェクトです。

市内10店舗の朝ラーメンをモチーフにしたアクリル製のキーホルダーを、カプセルトイで販売しています。

藤枝市観光案内所や朝ラーメンを出す各店舗での販売をはじめ、「藤枝大祭り会場」などのイベント時には、イベント会場でも販売しています。

現地を訪れた観光客だけでなく、地域住民にも愛される商品として、地域活性化につなげる狙いがあります。

5)島根県安来(やすぎ)市のイチゴ農家が発案した「安来ガチャ」

市内の農家や地元産業の店主ら住民をキャラクターにしたシールや、イチゴなどの特産品をデザインしたマスキングテープなどが入ったガチャガチャです。

市民をデフォルメしたシールをガチャガチャに入れて販売する奇抜なアイデアで話題をつくるだけでなく、キャラシールは農家や店に持ち込むと特典があるため、特典・景品を利用して安来の中に入り込んでもらったり、リピーターづくりにつなげたりしているといいます。

6)全国初のカーボンオフセット カプセルトイ(北海道南富良野町)

北海道ガス(北海道札幌市)と南富良野町が共同で取り組んでいます。

「道の駅南ふらの」でカーボンオフセット証明(20kg-CO2)と、南富良野町のイメージキャラクター「南ちゃん」グッズをセットにしたカプセルを、1個につき500円で販売しています(カーボンオフセット分が220円、グッズが280円。いずれも税込価格)。このうち、カーボンオフセット分の売上金を全額、南富良野町の環境保全活動に活用しています。

観光客など、現地を訪れた人がガチャガチャを購入し、気軽にカーボンオフセットに参加できる仕組みをつくることで、環境保全の取り組みへの理解促進につなげることを狙いとしています。

以上(2024年4月作成)

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画像:naka-Adobe Stock
Mariko Mitsuda

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