書いてあること

  • 主な読者:役員の病欠など定例化されていない会社法の手続きを知っておきたい経営者
  • 課題:会社法の手続きは複雑で、何をすべきか分からない
  • 解決策:機関設計ごとの役員の人数、役員の任期など確認すべきポイントを知る

1 会社法上の手続きは定時株主総会だけではない

会社経営において、会社法上の手続きは「例年同様に、定時株主総会を開催する」といったルーティン化されているものが少なくありません。そのため、通常業務では、会社法を意識することは多くないでしょう。

しかし、会社法にはさまざまな定めがあります。役員が病気になったときなど、通常と少しでも違うことが起こったときは会社法を確認して、正しい手続きを取ることが必要です。そうしないと、それが後にトラブルの種となり、会社経営に大きな影響を及ぼしかねないからです。

会社法の手続きは、会社の機関設計などによって異なります。本稿では、中小企業に多く見られる「取締役会+監査役」、かつ全ての株式を譲渡制限株式としている会社(非公開会社)を前提に、原則的な各種手続きなどを紹介していきます。

2 役員が病気になったり、死亡してしまったりした場合

1)すぐに役員を変更・選任する必要はない

役員(取締役・監査役)が病気で長期間実務に携わることができなくなったり、事故で不幸にも死亡してしまったりした場合、その役員(以下「対象役員」)に代わる人を、必ずしもすぐに選任する必要はありません。

まず、会社法と定款で決められている「役員の最低人数」を確認しましょう。会社法では、機関設計などによって役員の最低人数を定めています。「取締役会+監査役」の場合、取締役は最低3人、監査役は最低1人です(会社法第331条第5項、第335条第3項の反対解釈)。

また、役員の定員は、会社法の定めの範囲内であれば、定款で別の定め方ができます。例えば「最低人数を会社法より多くする」「最大人数を決める」などですが、仮に定款で取締役を「5人以上」と定めている場合、実際にその人数を下回らないようにしなければなりません。

以上を確認し、役員の最低人数を下回ることになった場合は、新たな役員を選任しなければなりません。

また、対象役員が長期間実務に携わることができない場合、実際の経営上の問題はさておき、会社法上は、対象役員がその地位にある限り、必ずしも法的問題とはなりません。会社法では、役員の欠格事由を定めていますが、これは成年被後見人もしくは被保佐人や、一定の法令に反して刑に処された場合などであり、実務に携わることができるか否かは問われていません(会社法第331条、第335条第1項)。

2)取締役や監査役の選任

取締役や監査役の選任には株主総会の普通決議が必要です。普通決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う決議です(定款で別の定めをすることができます。会社法第341条、会社法第309条第1項)。株主総会の開催は、以降で紹介する事項でも必要になりますが、手続きの概要は後述します。

その他、頻繁に利用されている制度ではありませんが、会社法上、株主総会決議によって事前に補欠の取締役や監査役を選任しておくこともできます(会社法第329条第3項)。取締役が欠けたとき、速やかに臨時株主総会を開催しなければならない手間を考えれば、取締役を多めに選任しておくか、この補欠を定めておくということも一考に値します。

3)対象役員が代表取締役の場合

取締役会を設置している場合、代表取締役を1人以上選任しなければなりません(会社法第362条第3項)。代表取締役は1人でも複数人でもよいため、対象役員が唯一の代表取締役であり、その人が死亡してしまった場合は、取締役の中から代表取締役を新たに選任しなければなりません。

また、対象役員が長期間実務に携わることができなくなった場合でも、前述した役員の場合と同様、会社法上は、対象役員がその地位にある限り、法的には必ずしも問題ではありません。なお、代表取締役の選任は取締役会の決議が必要です。

3 役員の任期を伸長(短縮)する場合

会社法施行前、株式会社の取締役の任期は2年、監査役の任期は4年とされていました。会社法施行後(2006年5月)も、原則は変わっていませんが(会社法第332条第1項、第336条第1項)、非公開会社の場合、定款に定めることで取締役・監査役ともに最長10年まで任期を伸長することができます(会社法第332条第2項、第336条第2項)。小規模なオーナー会社などでは、長期間、役員を続けるケースが少なくありません。こうした場合、任期を伸長することで役員の選任(重任)手続き、登記費用などの負担を軽減できます。

役員の任期を伸長する場合は、その旨を定款に定める必要があります。定款を変更する場合は、株主総会における特別決議が必要です(会社法第466条、会社法第309条第2項第11号)。特別決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う決議をいいます(定款で別の定めをすることができます。会社法第309条第2項)。

なお、同様の手続きで、役員の任期を短縮することもできます。ただし、取締役は2年を下回る任期にすることができますが、監査役は4年を下回る任期にすることはできません(取締役については会社法第332条第1項但書があるが、監査役については会社法第336条第1項には同様の但書がない)。

4 本店を移転する場合

会社の本店の所在地は定款に定める必要があります(会社法第27条第3号)。実務上、本店所在地に実質的な本社機能があるとは限らず、創業の地を本店所在地にしておき、実質的な本社機能は別の支店に存在するという場合も少なくありません。

いずれにしても、本店の移転に伴って、定款を変更する必要があるか否かは、本店の所在地の記載方法によって変わります。一般的に、本店の所在地は次のいずれかで定められています。

  • 最小行政区画まで:東京都中央区
  • 番地や建物名まで:東京都中央区○○町○○丁目○番○号 ○○ビルディング

定款に定めている事項を変更する場合、定款変更の手続き(株主総会における特別決議)が必要です。上記の例では、東京都中央区から東京都渋谷区に移転する場合、いずれの場合も定款の変更が必要です。一方、東京都中央区の中で移転する場合、最小行政区画までしか決めていない場合は定款の変更が不要です。

なお、以上は定款での本店所在地の定め方についてであって、法人登記に記載する「本店」については、建物名は必須でないものの、番地等まで記載する必要があります。

5 譲渡制限株式について譲渡承認請求があった場合

中小企業では、全株式を譲渡制限株式とし、非公開会社としているケースが多く見られます。この場合、株主が株式を譲渡するためには、会社の承認が必要です。まず、譲渡を希望する株主または譲受人(以下「請求者」)が、会社に譲渡承認を請求します(会社法第136条、第137条)。会社は、この請求について取締役会で承認するか否かを決定し(会社法第139条)、請求者に、2週間以内に当該決定の内容を通知します(会社法第139条第2項、第145条第1号。譲渡後株主の名義変更の手続きなどがありますが、本稿では省略します)。

もし、2週間以内に通知をしなかったときは、会社が譲渡を承認したものと見なされます(会社法第145条第1号)。

なお、会社が譲渡を承認しない場合、請求者はその株式について会社または指定買取人による買取りを請求することができます(会社法第140条)。この場合の手続きは次の通りです。

1.会社が株式を買取る場合

株式の買取りを行う旨や買取株式数について、株主総会の特別決議が必要となります(会社法第140条第2項、第309条第2項第1号)。その後会社は、株主総会で決議した事項を、請求者に対して通知しなければなりません(会社法第141条第1項)。

2.指定買取人が買取る場合

指定買取人の指定は取締役会で行うことができます(会社法第140条第5項)。その後、指定買取人が請求者に対して、指定買取人として指定を受けた旨や買取株式数などを通知しなければなりません(会社法第142条第1項)。

6 機関設計を変更する場合

機関設計の変更は、会社が成長してガバナンス強化を図る必要がある場合などに行われます。ただし、こうした目的以外にも、取締役会の最低人数(3人)を維持できないなど会社の課題を解消するために機関設計を変更する場合があります。非公開会社であれば「取締役会+監査役」から「取締役のみ」に変更します(「取締役のみ」は非公開会社だけに認められています)。

また、会社法施行前は、株式会社では取締役会の設置が必須であり、最低3人の取締役が必要とされていました。このため、事実上経営に関与しない経営者の親族や知人などを便宜上、取締役とするケースが見られました。現在も当時のままで、こうした取締役がいる会社もあるようです。この場合、経営実態に合った形に機関設計を変更することも考えられるでしょう。

機関設計は、「取締役のみ」とする場合以外は、定款に定めなければなりません。従って、本稿で例示している「取締役会+監査役」の会社が機関設計を変更する場合は、定款を変更しなければなりません。定款を変更する場合は、株主総会における特別決議が必要となります(会社法第466条、会社法第309条第2項第11号)。

7 臨時株主総会の開催手続き

本稿で紹介した多くのケースで必要となるのが株主総会での決議です。決算後3カ月以内に開催する定時株主総会に合わせて決議をすることもできますが、急を要する場合は、臨時株主総会を開催する必要があります。

毎年、開催している定時株主総会では実務的な問題は少ないと思われるので、ここでは臨時株主総会開催の基本的な手続きを紹介します。なお、会社法では一定の要件を満たす場合、手続きの省略などが認められています。また、定款の定めによっても、手続きが変わる場合もありますが、ここでは原則的な内容とします。

臨時株主総会開催の基本的な手続き(取締役会設置会社・非公開会社の場合)は次の通りです。

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臨時株主総会開催の手続きは、基本的には定時株主総会と同じです。ただし、定時株主総会と違って注意が必要なのは「基準日公告」です。定時株主総会の基準日は、定款で事業年度末(3月31日)などと定めていることが一般的です。そのため、基準日公告は不要になります。

一方、臨時株主総会の場合は、定款の定めとは別に、取締役会で基準日などを決めた上で公告を行う必要があります。

また、これは定時株主総会も同じですが、取締役会設置会社の場合は、取締役会で決定した議題(株主総会の目的事項)以外は、株主総会では決議することができません(会社法第309条第5項)。そのため、取締役会で議題の決定漏れがないように注意する必要があります。

以上(2021年2月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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