書いてあること
- 主な読者:ターゲット顧客に合わせて企業活動を効率化させたい中小企業の経営者
- 課題:自社にとって最も重要な顧客モデルを、社内で共有できていない
- 解決策:ペルソナを社内で共有する効果と、作成の手順を解説する
1 顧客のイメージ像を作り上げる「ペルソナ」
経営資源が少ない中小企業が顧客からの支持を獲得するには、幅広い顧客層のニーズに応えるより、顧客層を絞り込んで活動するほうが、効率的な場合があります。
狙いを定めた顧客層をイメージしやすくするために、架空の顧客「ペルソナ」を作成してみる方法があります。
ペルソナ(Persona)は、ラテン語で仮面や人格、人物などを意味しますが、ビジネスシーンでは「企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で象徴的な顧客モデルのこと」とされており、ターゲット顧客とほぼ同じ位置付けのものです。
ペルソナは、綿密な調査などから得られたターゲット顧客に関するさまざまな情報を基に、平均的な特徴などを抽出し、1人の人物像として象徴的なターゲット顧客のイメージを具体的に表現します。
2 ペルソナを利用する効果
ペルソナの作成では、年齢や性別だけでない、ターゲット顧客に関するさまざまな情報を集め、実在する人物のように生き生きと描写することで、次のような効果があります。
ターゲット顧客の明確化と共有化の促進
企業の中には、ターゲット顧客の定義が不明瞭だったり、ターゲット顧客の情報が共有されていなかったりすることが少なくありません。
ペルソナを作成する過程では、年齢・居住地などのプロフィール的な要素に加え、価値観や嗜好といった、より詳細な情報も含まれます。こうすることで、ターゲット顧客の姿が明確になり、社内でも共有されやすくなります。
一貫性のある組織の実現
ペルソナを作成し、社内で共有することで、社内のあらゆる部署で「お客様」の姿がよく見えるようになります。
顧客の姿を「見える化」することで、販売活動を行う現場担当者以外で、顧客とあまり対面することのない部署の社員も顧客をイメージしやすくなります。社内の意識を一貫して顧客に製品・サービスを提供することで、製品の問い合わせ、購入、アフターサービスなどの顧客との接点を円滑化させることができます。
顧客の立場に立った製品・サービスの実現
ペルソナを通じてターゲット顧客の特徴、価値観、嗜好などを明確にすると、顧客の立場に立った活動ができる上に、「他とは違う」サービスの提供などで、他社との差異化を図るきっかけにもなります。
例えば、自動車メーカーが新型SUVを開発しようとしたときに、ターゲット層を「25~35歳の男性」とした場合よりも、「大都市郊外に住む25~35歳の独身男性で、ファッションに関心があって旅行やアウトドアが好き」と深掘りしたほうが、ファッション誌での特集記事の掲載や、アウトドアブランドとのタイアップイベントなどの、より効果的な商品PRが期待できそうです。
3 ペルソナの作成時の基本的ステップ
ペルソナに必要な要素には、次のようなものがあります。
これらの基本的な要素に加えて、目的に合わせて項目を追加してもよいでしょう。ただし、あまり要素が増え過ぎると、複雑で記憶に残りにくくなるため、情報量は詰め込み過ぎないようにしましょう。要素を集めたら、次のような手順でペルソナを作成します。
1)ペルソナの作成目的の確認とチームの編成
「ペルソナの作成自体」は、それが目的ではなく、何らかの目的を達成するための手段です。また、目的によってペルソナとして表現される内容は異なるので、ペルソナを作成する目的を明確にする必要があります。
同時に、作業を担当するチームの編成もこの段階で行います。複数人でチームを編成し、多様な意見を反映させることで、ペルソナ作成時の客観性を維持することができます。
適切な人数などは、一概にはいえませんが、関連する異なる部署から最低1人は参加してもらい、部署間でペルソナのイメージを共有することが重要です。
2)情報の収集
ペルソナの基礎となる顧客に関する情報を収集します。ここで重要なのは、特定の情報源や限られた情報のみを参考にするのではなく、幅広い情報源から多くの情報を収集することです。
主な情報源を1次データ(ペルソナ作成のために独自に実施したアンケートなどの調査データ)と2次データ(既存のデータ)に区分すると次の通りです。
3)ペルソナの骨組み「スケルトン」の作成
収集した顧客情報に基づき、ペルソナの骨組みとなる「スケルトン」を作成します。スケルトンはペルソナを特徴づける要素を箇条書きにしたものです。スケルトンを作成するためには、収集した多数の情報を統合していく必要があります。比較的簡単な方法として、KJ法(親和図法)があります。
KJ法では、最初に調査結果から得られた顧客特性を「付箋」などに書き出し、それらを関連するグループ同士にまとめていくことで、顧客特性を整理します。また、性別や購入頻度など顧客特性が明らかに異なる場合は、事前にこうしたカテゴリーに分類した上で、おのおのKJ法によって情報を整理します。
整理した情報を基にスケルトンを作成しますが、この段階では、無理に1人のスケルトンにまとめる必要はありません。作成するペルソナは1人とは限らないので、「現在のターゲット顧客」「今後取り込みたい顧客」といったように、スケルトンが複数あっても問題ありません。
4)面接調査を実施し、ペルソナを作り込む
スケルトンを作成するまでは定量的な情報が中心で、それをペルソナに落とし込むときには定性的な情報を収集する必要があります。定性的な情報を収集するには、ペルソナに近い人を対象にしたインタビュー形式の面接調査を実施します。
手順としては、スケルトンを基に簡易的なペルソナを作成しながら調査が必要な項目を明確にした後に、面接調査を実施します。その結果を基に、簡易的なペルソナに情報の追加・修正などを行って確度を高めていきます。面接調査中には必要な項目を調査するのに加えて、作成したペルソナの妥当性を確認します。
調査の際に、その場で自社製品を使ってもらうことで、製品の長所や短所を「本音で」聞き取ったり、想定していなかった使い方などを発見したりすることもできます。
その際に効果的な進め方として、「師匠と弟子」とよばれる手法があります。この方法は、調査対象者が師匠、調査担当者が弟子のようになり、調査対象者には普段通りに行動してもらい、行動について不明な点があれば、「なぜ、そうしているのですか」といった質問を投げかけることで、調査対象者が無意識に行っていることの理由などを明らかにしていくものです。
5)ペルソナの決定・周知
作成したペルソナの中から、自社が優先する順位に沿って、活用するものを決定します。ペルソナを複数にする場合は、数が多過ぎると顧客像がブレてしまうので、2~3人程度に絞り込むようにします。また、メーン・サブなど優先順位も決定します。
決定したペルソナは、全社員や関係部門などに公表し、共有化します。ペルソナの役割や内容などに関する説明会や、社内報などで周知することも効果的です。
関係者がターゲット顧客について話をする際に、「ターゲット顧客は……」ではなく「○○さん(ペルソナの名前)は……」とペルソナの名前が主語となり、関係者の間で認知され、顧客像を見失いそうなときには常にペルソナに立ち返る雰囲気ができれば、共有化が進んだ一つの目安といえるでしょう。
6)ペルソナのメンテナンス・廃棄
完成したペルソナは絶対的な存在ではありません。常に変化する顧客のニーズに合わせて、必要に応じて適宜ペルソナの内容を修正する必要があります。また、顧客像が大きく変化した場合など、ペルソナがペルソナとしての役割を果たせなくなったら廃棄しなければなりません。
当初編成したチームは、「5)ペルソナの決定・周知」の段階で、その役割はほぼ終了しますが、別途メンテナンスや廃棄の担当者を決定しておく必要があります。
4 ペルソナの精度をさらに高めるには
ここまで、ペルソナの作成手順の概要を紹介しましたが、自社の力だけでペルソナを細かく設定するのは骨が折れます。市場調査やインタビューは費用や手間、期間が掛かり、質が高く客観的な意見がどのくらい集約できるか未知数なこともあります。
しかし昨今では、意外と簡単に、ある程度のアンケートやインタビューを行うことができるようになってきました。
簡単なアンケートであれば、オンラインのアンケートツールを使ってみるのも効果的です。各社が提供しているオンラインのアンケートなどは「質問数×アンケート回答者数×10円」などのような料金体系もあり、予算と相談しながら調査を行うことができます。
簡単なアンケートで顧客の傾向をつかみつつ、より深く顧客を理解したい場合は、オンラインのインタビューや、特定の業界に特化した専門家とのマッチングプラットフォームなども検討してみましょう。
新型コロナウイルス感染症を背景にオンラインツールが広く普及したこともあり、時間調整や面接会場を準備する負担の少ないオンラインのインタビューは、今後の定性調査の一つの流れになるかもしれません。
以上(2021年10月)
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画像:pixabay