1 「ペルソナ」でターゲット顧客を明確化する効果
「ターゲットを絞り込んで活動する」というのはマーケティングの基本ですが、そのターゲット像が曖昧だと、方針がブレてしまったり、個人間や部署間で認識の食い違いが生まれてしまったりします。
こうした場合、一貫したターゲットを意識して製品やサービスを生み出すため、「ペルソナ」を設定するという方法があります。
ペルソナ(Persona)とは、企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で象徴的な顧客モデルのこと
です。イメージは図表1の通りです。
図表1のように、ペルソナは自社が売り出す製品やサービスの、想定するターゲット層の中の1人を、架空の顧客としてプロフィール化して設定するものです。ペルソナを設定することでターゲット顧客は明確化され、それを社内で共有することによって、
顧客の立場に立って「他とは違う」製品やサービスの提供を行う
ことが可能になります。自然と、競合他社との差異化も図れるようになるでしょう。
例えば、自動車メーカーが新型SUVを開発しようとしたときに、ターゲット層を「25~35歳の男性」と設定した場合よりも、「25~35歳の男性で、ファッションに関心があってアウトドア好き」と深掘りしたほうが、ターゲット層がよく使用するSNSでの広告や、アウトドアブランドとのタイアップイベントなど、より効果的な製品PRを検討することができるでしょう。
以降で、顧客のイメージ像をつかむのに有用な「ペルソナ」の設定方法を解説していきます。
2 ペルソナ設定は5つのステップで行う
ペルソナ設定時に必要な要素は、基本的には図表2の通りです。
これらの要素に加えて、目的に合わせて項目を追加してもよいですが、要素が増え過ぎると複雑で記憶に残りにくくなるため、詰め込み過ぎないようにするのもポイントです。要素を集めたら、次のような手順でペルソナを設定していきます。
1)設定目的の確認・共有:誰と・何のためにペルソナを作るのかを決める
2)情報収集:ペルソナに必要な情報を集める
3)「スケルトン」の設定:ペルソナの骨組みを作る
4)面接調査の実施:リアルな情報で肉付けを行う
5)ペルソナの決定・周知:ペルソナを定着させる
3 (ステップ1)設定目的の確認・共有~誰と・何のためにペルソナを作るのかを決める
「ペルソナの設定」は、目的を達成するための手段です。目的によって理想のペルソナ像は異なるので、設定する目的を明確にする必要があります。例えば、
- 顧客に刺さる新製品の開発
- ターゲット年齢層に合わせた製品の改良
などが挙げられるでしょう。
ペルソナ設定の際には、関連部署から最低1人ずつはチームに参加してもらい、設定目的の明確化と共有を行いましょう。ペルソナ設定時の客観性を維持するためにも、そして連携を図るためにも、チーム内だけでなく部署間でもペルソナのイメージを共有することが重要です。
4 (ステップ2)情報収集~ペルソナに必要な情報を集める
ペルソナの基礎となる情報を収集します。特定の情報源を参考にするのではなく、幅広い情報源から多くの情報を収集しましょう。例えば情報源は、図表3のように分類されます。
1次データと2次データを組み合わせたり、比較したりして要素を拾っていくと良いでしょう。例えば顧客を対象とした調査で「最近は30代男性の売れ行きが好調」とあれば、過去に実施した調査とターゲットの年齢層がズレていたとしても、ペルソナへの要素の組み込みを一考する価値があります。
5 (ステップ3)「スケルトン」の設定~ペルソナの骨組みを作る
収集した情報に基づき、ペルソナの骨組みとなる「スケルトン」を設定します。
スケルトンとは、ペルソナを特徴づける要素を箇条書きにしたもの
です。
収集した多数の情報を統合していくために取られる比較的簡単な方法として、KJ法(親和図法)があります。
KJ法とは、調査結果から得られた特性を付箋などに書き出し、それらを関連するグループ同士にまとめていくことで整理する方法
です。例えば、図表4のようになります。
また、性別や購入頻度など顧客特性が明らかに異なる場合は、事前にカテゴリーに分類した上で、それぞれの情報をKJ法によって整理していくことをおすすめします。
整理した情報を基にスケルトンを設定しますが、この段階では、無理に1人のスケルトンにまとめる必要はありません。設定するペルソナは1人とは限らないので、「現在のターゲット顧客」「今後取り込みたい顧客」といったように、スケルトンが複数あっても問題ありません。
6 (ステップ4)面接調査の実施~リアルな情報で肉付けを行う
スケルトンをペルソナに落とし込むときには、データのみでは分かりづらいリアルな情報を収集する必要もあります。そのために、「面接調査」を実施するのも一策です。
面接調査とは、ペルソナ像に近い実際の人物を対象に行う、インタビュー形式の調査
のことです。調査の際に、その場で自社製品を使ってもらうことで、製品の長所や短所を「本音で」聞き取ったり、想定していなかった使い方などを発見したりすることもできます。
面接調査を行う際には、スケルトンを基に簡易的なペルソナを設定し、調査が必要な項目を洗い出してから臨むと良いでしょう。面接調査中には必要な項目を調査するのに加えて、設定したペルソナの妥当性を確認することも大切なポイントです。
また、面接調査の効果的な進め方として、「師匠と弟子」と呼ばれる手法があります。この方法は調査対象者が師匠、調査担当者が弟子のようになり、調査対象者には普段通りに行動してもらい、行動について不明な点があれば、「なぜ、そうしているのですか」と質問を投げかけることで、調査対象者が無意識に行っていることの理由などを明らかにしていくもので、よりリアルなペルソナを設定するために有用です。
面接調査を終えたら、結果を基に情報の追加・修正などを行います。
7 (ステップ5)ペルソナの決定・周知~ペルソナを定着させる
最後に、設定したペルソナの中から、自社が優先する順位に沿って、活用するものを決定します。ペルソナを複数にする場合は、数が多過ぎると顧客像がブレてしまうので、2~3人程度に絞り込むようにします。また、メイン・サブなど優先順位も決定しておくとよいでしょう。
決定したペルソナは、全社員や関係部門などに公表し、共有化します。ペルソナの役割や内容などに関する説明会や、社内報などで周知することも効果的です。
関係者がターゲット顧客について話をする際に、
「ターゲット顧客は……」ではなく「○○さん(ペルソナの名前)は……」とペルソナの名前を主語にするようにする
と、関係者の間でさらにペルソナの認知が進みます。顧客像を見失いそうなときには常にペルソナに立ち返る雰囲気ができていれば、共有化が進んだ一つの目安といえるでしょう。
また、常に変化する顧客のニーズに合わせて、適宜ペルソナの内容を修正したり、顧客像が大きく変化した場合などには、廃棄したりする必要も生じます。ペルソナ設定チームの中で、別途メンテナンスや廃棄の担当者を決めておきましょう。
8 (最後に)ペルソナの精度をさらに高めるには
現在では、
ペルソナ設定の際、簡単なものであれば、オンラインのツールを使ってみるのも効果的
です。
各社が提供しているオンラインのアンケートなどは、例えば「質問数×アンケート回答者数×10円」など少額から行えるものもあり、予算と相談しながら調査を行うことができます。
簡単なアンケートで顧客の傾向をつかみ、より深く顧客を理解したくなった場合には、オンラインのインタビューや、特定の業界に特化した専門家とのマッチングプラットフォームなども検討してみると、ペルソナの精度をさらに高めることができるでしょう。
以上(2025年2月更新)
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画像:Nuthawut-Adobe Stock