1 暑さに体を慣らす「暑熱順化」に取り組んでみませんか?
2024年に熱中症で救急搬送された人数は9万7578人(消防庁「令和6年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」)にのぼり、2025年も引き続き注意が必要です。
熱中症のピークは7月下旬から8月上旬ごろですが、一般的に、体が暑さに慣れるには数日から2週間程度が必要とされています(個人差があります)。そのため、夏本番を迎えてから急に水分・塩分の補給などをしても対策としては不十分なところがあります。
そこで、この記事でご提案するのが、
暑熱順化:時間をかけながら暑さへの耐性を身に付けていくアプローチ
です。暑熱順化とは、「ジョギングやウォーキングなどによって汗をかき、体を暑さに慣れさせていく」というもので、厚生労働省や環境省も推奨しています。夏の熱中症対策として取り入れてみてはいかがでしょうか。
暑熱順化のスタートは、夏本番を迎えるより少し前の6月ごろが最適です。早速、ポイントを確認していきましょう!
2 なぜ、暑熱順化が推奨されるのか?
熱中症を引き起こす要素は、下図のように大きく分類すれば環境・体・行動の3つに分類されます。
そして、暑熱順化の仕組みを理解するにあたり注目したいのが、
「体」に分類される「暑さに慣れていない」状態
です。
体温が上がると、ヒトの体はその機能によって、次のように体温を調節します。
- 皮膚への血流を増やして体の表面から熱を逃がす(熱放散)
- 汗が蒸発することで熱を逃がす(気化熱)
しかし、体が暑さに慣れていない状態で気温が上昇すると、この体温調節がうまくできず、結果的に熱中症につながってしまうことがあります。
仕組みとしては、体内の熱を逃がそうとして皮膚の血流量が増える「熱放散」は、暑熱順化ができていないと機能しにくくなります。すると、気化熱による体温調節で汗をたくさんかきますが、今度は水分・塩分が多く失われ、血液の流れが悪くなります。その結果、体内に熱がどんどんたまり、熱中症になってしまうということです。
一方で、早いうちから暑熱順化に取り組んでいると、皮膚の血流量が増加しやすくなり、汗に含まれる塩分量も減るので、血液の流れが悪くなるリスクを低減できます。つまり、
夏本番を迎えて気温が上昇しても、熱を逃がしやすくなり、体温調節がうまく機能する
のです。
3 暑熱順化のポイント3つと具体的なやり方4選
1)暑熱順化のポイント3つ
暑熱順化のポイントは、
- 本格的に暑くなりそうな時期の2週間前から始める
- トレーニングを持続する
- 無理はしない
の3つです。
前述した通り、体が暑さに慣れるまでには数日から2週間程度の時間がかかります。そこで、気象庁の「2週間気温予報」などを確認しながら本格的に暑くなりそうな時期の2週間前からトレーニングを開始しましょう。
また、暑熱順化の効果はあまり続かないことも、注意しておきましょう。個人差はありますが、トレーニングを中断すると数日で元の状態に戻るといわれます。梅雨寒の日が続いたり、夏休み中に涼しいところで過ごしたりした後は暑さへの耐性が弱まりますが、そんなタイミングで一気に気温が上昇すると、熱中症になるリスクも高まります。
2)暑熱順化の具体的なやり方4選
暑熱順化において大切なのは、「脳と体を夏モードに切り替えさせること」です。そして暑さに備えた体をつくるためには、夏の暑さを再現して汗をかくことが最重要。環境省による熱中症対策では、暑熱順化として
「やや暑い環境」で「ややきついと感じるくらいの運動」をすること
を推奨しています。
また、厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」では、暑熱順化に有効な対策として次の4つの取り組みが紹介されています。なお、時間や頻度は全て目安なので、自身の年齢や体力、気温や室内の環境を考慮しながら取り組んでみましょう。
図表3のように、暑熱順化に有効な対策としては、次の4つのやり方を推奨しています。
1.歩く・走る
ウォーキングであれば30分、ジョギングであれば15分の運動を、週5回行うことを目安として推奨されています。移動の際にできるだけ階段を利用するのも、汗をかくのに効果的です。
2.自転車
サイクリングであれば、30分の運動を週3回行うことを目安として推奨されています。時速20キロメートルで走れば10キロメートルの距離です。
3.適度な運動(筋トレ・ストレッチなど適度に汗をかくもの)
室内でできる取り組みとしては、筋トレやストレッチなどがあります。この場合、30分の運動を週5回から毎日実施することが推奨されています。
4.入浴・サウナ(お風呂はシャワーだけでなく、湯船につかる)
入浴であれば、2日に1回以上はしっかりと湯船に入ることが推奨されています。なお、サウナが暑熱順化に有効という意見もありますが、水分補給の状況によっては脱水症状を引き起こす恐れもあるので注意が必要です。
暑熱順化の基本は「やや暑い環境」で「ややきついと感じるくらいの運動」をすることです。あくまで暑さに慣れることが目的ですから、無理をしすぎて熱中症になっては本末転倒なのでご用心。
また、2025年6月1日から労働安全衛生規則が改正され、会社に対し、
- 作業者に熱中症の自覚症状があるときや、作業者が熱中症の疑いがある同僚などを発見したときは、会社にその旨を報告させるよう体制を整え、周知すること
- 熱中症のリスクがある作業を行う場合、あらかじめ作業場ごとに、症状の悪化を防ぐための措置やその手順を定め、周知すること(体を冷やす、医師の診察を受けさせるなど)
が義務付けられます。違反した場合、労働安全衛生法により、
6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
の対象になります。暑熱順化も大切ですが、今一度職場の熱中症対策も見直し、万全の体制で夏本番を迎えましょう。
以上(2025年6月更新)
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画像:Something in my head-Adobe Stock