1 「暑い派」と「寒い派」それぞれへのケアを叶えるには?

コロナ禍で浸透したテレワークが見直され、オフィス勤務中心の働き方に戻った会社も多いと思います。しかし、暑くなってきたこの時期に多くの社員がオフィスに集まるとなると、“あの”問題が勃発します。それは、

エアコン温度の「暑い」vs「寒い」バトル

です。

例えば、エアコンの設定温度を下げた暑がりの社員を寒がりの社員が睨んでいるのを目撃したり、逆に汗だくになりながらやせ我慢をしている暑がりの社員を目撃したり……皆さんも、一度は経験があるのではないでしょうか。

今年も去年に引き続きまたもや猛暑となる予想ですが、オフィスでは一人ひとりの好みに合わせた室温の調整はできないので、会社としては何とかこのバトルの対策を講じておきたいところです。また、

快適に働くための環境づくりは、業務の生産性向上という面でもとても大切

です。

そこでこの記事では、オフィスにおける適温や、「暑い派」「寒い派」それぞれへのケア方法など、猛暑の中でも社員が快適に働けるようにするポイントを紹介していきます。

ちょっとした工夫や心掛けで業務中の快適さは一気に変わりますので、今一度オフィス環境について振り返り、改善することをご提案します。

2 「快適さ」は多角的に捉えるべし

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1)室温の変化でオフィスの生産性も変わる?

暖冷房・換気、給水・排水、衛生設備など生活と密着した設備を主に研究している空気調和・衛生工学会の研究によると、室温の変化がオフィスでの生産性も影響をすることが明らかになっています。

同学会の西原 直枝氏(日本女子大学家政学部准教授)、2020年まで会長を務めた田辺 新一氏(早稲田大学創造理工学部教授)などが発表した論文「コールセンターにおける中程度の高温環境が作業効率に与える影響の評価-2004年と2012年の比較-(空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集{2014.9.3~5 秋田}29-32)」によると、空気温度が26.5度を超えると生産性が大きく低下するという結果も実証されています。こうしてみると、

オフィスでの快適な環境を用意することは、会社の業績や仕事の生産性の上昇につながる

といえるでしょう。

2)バトルの原因は「PMV」だった

まずは、快適なオフィス環境を整えるために知っておくと良い知識、

「PMV(Predicted Mean Vote)、予測平均温冷感申告」

についてご紹介します。PMVとは「快適さを表す国際規格」で、

  • 室温
  • 湿度
  • 着衣量
  • 放射(日当たりや熱からの距離)
  • 気流(直接エアコンの風が当たるかどうか)
  • 活動量(体を動かしているか)

の6つの要素によって、その数値が左右されます。

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「PMV」では、暑さ・寒さの度合いを-3~+3の値で示します。そしてISO(国際標準化機構)が定めた基準によると、約9割の人にとって「快適」な数値は、上図のように「-0.5~+0.5」と、かなり狭い範囲です。

つまり、同じオフィスで働いていても、皆が感じている快適さの数値は同じではないということです。これが「暑い派」vs「寒い派」のバトルの原因で、

快適なオフィス環境を整えるためには、エアコンの温度設定だけでなく、「PMV」を構成する指標の多角的な要素を捉えて対策する必要がある

といえるでしょう。

3)段階を踏んでバトルの鎮火を目指そう

次に、この「PMV」を快適温度範囲に近い数値で平均化するために、経営者が社員のためにできることを紹介します。

ポイントは、次の3段階でオフィス環境を調整することです。

  • 【対・全体】まずは部屋全体で「室温」や「湿度」という最低限の環境を整える
  • 【対・陣営ごと】次に社員の「暑い」「寒い」という体感に合わせて席の移動を許可することで、「気流」「放射」を調整する
  • 【対・個人】最後に個人の「着衣量」に柔軟に対応することで、「活動量」や個人の代謝の差に対して微調整をかける

次章以降では、各要素をコントロールする方法を解説していきます。

3 【対・全体】まずは「室温」や「湿度」を調整

一番に整えておかなければいけないのが、対・全体の環境。PMVの中で、確実に操作できる「温度」と「湿度」がこれに当てはまります。

オフィスの衛生管理に関する法令「事務所衛生基準規則」では、室内にエアコンなどの空調設備がある場合「室の気温が18度以上28度以下、相対湿度が40%以上70%以下になるよう努めなければならない」と定められています。

ただし、これはエアコンの設定温度の話ではなく、オフィスの「室温」や「湿度」の基準

です。

たとえエアコンの設定温度が28度でも、実際の体感温度は、湿度やオフィスにいる社員の人数などによっても大きく左右されます。温度計や湿度計を用意し、エアコン設定の調整や除湿機の活用を検討してみるのもよいでしょう。

また、環境省はクールビズ下で28度の室温を推奨していますが、これはいまから20年近く前に設定された指標です。それを考えると、

室温28度、湿度70%以下を基準にしつつも、近年記録的な猛暑が確認されていることも鑑みて、柔軟な対応を心がける

ことがお勧めです。

4 【対・陣営ごと】フリーアドレスで「気流」「放射」を調整

一旦の目標点としてオフィス全体の温度・湿度を設定できたとしても、「暑い派」vs「寒い派」バトルの根本的な解決には至りません。そこで、

この夏は、フリーアドレスで放射・気流を調整

してみましょう。フリーアドレスとは、「職場で従業員の席を固定せず、空いている席を自由に使う制度」(小学館 デジタル大辞林より引用)のこと。

例えば、

「寒い派」陣営が窓の近くのデスクに、「暑い派」陣営が日陰のデスクに移動することで、2つの陣営に「放射」の差をもたらす

ことができます。紫外線の問題もあるので、基本的には夏場のブラインドは下げておくのがベターですが、窓の近くは放射で他の場所より暖かくなります。

また、

「暑い派」陣営はエアコンの風が当たる場所に、「寒い派」陣営はエアコンの風が当たらない場所に移動することで、「気流」の数値も調節

することが可能です。普段であればあまり気にすることはないですが、改めて天井を見上げ、エアコンの位置や風がよく当たる席を確認してみるのもよいでしょう。

業務上の都合でフリーアドレスを取り入れることができない場合は、エアコンにアクリル板を取り付けて「寒い派」の社員に直接風が当たらないようにするなどの対策もできます。

5 【対・個人】「着衣」を柔軟に! 個人差を調整

単なる「暑い派」vs「寒い派」の戦いで終わってくれないのが、夏場のエアコン調節問題の怖いところです。「暑い」「寒い」陣営のみに着目し、個々へのケアを怠ると、

  • 暑い派陣営の中でも一番の暑がりは「熱中症」
  • 寒い派陣営の中でも一番の寒がりは「冷房病(クーラー病、体が急激な温度差についていけず、自律神経に異常をきたす症状)」

などになってしまう恐れがあります。

また、個人が「暑い」か「寒い」かは、そもそもその時にどれだけ体を動かしているかという「活動量」の違いや、PMVを構成する要素以外でも、外的調整ができない代謝の影響が大きいことも覚えておきたいポイント。

それをカバーするために活躍するのが、「着衣量」で個々のPMVを調整する

という方法です。

身近で分かりやすい例は、ネクタイを外すと体感温度が2度下がる「クールビズ」です。

「全員が快適」をかなえることが難しくても、個人個人ができる限り快適さと健康をかなえられるよう、ネッククーラーを許可する・ブランケットを羽織るのを許可するなど、柔軟な対応を心掛けましょう。

こちらのコンテンツで最新の熱中症対策グッズを紹介していますので、ぜひご確認ください。

6 快適なオフィスで猛暑を乗り切ろう

ここまで紹介してきたように、フリーアドレスや自由な服装などを取り入れるだけでも、社員が快適に仕事をする環境を整えることが可能です。

オフィスで働く社員の健康を保つためにも、また気温差による生産性の低下を防ぐためにも、今夏は快適な環境維持に努め、猛暑を乗り切りましょう!

以上(2025年6月更新)

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画像:illustAC

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