書いてあること

  • 主な読者:オフィス出社を原則としている経営者
  • 課題:猛暑のオフィスでも快適に働ける職場環境にしたい、室内の温度によって社員の体調不良や生産性の低下を防ぎたい
  • 解決策:室温だけでなくPMV(快適さの指標)に注目し、暑い派・寒い派どちらかに合わせるときは、もう一方のケアを忘れずに

1「暑い派」VS「寒い派」

暑くなってきたこの時期、オフィスではいつもの問題が勃発します。それは、

エアコン温度の「暑い」vs「寒い」バトル

です。2024年は猛暑と予報されていますが、一人ひとりの好みに合わせた室温の調整はできないので、会社としては何とか対策を講じたいところです。

また、快適に働くための環境づくりは、業務の効率上昇という面でもとても大切です。暖冷房・換気、給水・排水、衛生設備など生活と密着した設備を主に研究している空気調和・衛生工学会の研究によると、室温の変化がオフィスでの生産性に影響をもたらすことも明らかになっているそうです。

同学会の西原 直枝氏(日本女子大学家政学部准教授)、2020年まで会長を務めた田辺 新一氏(早稲田大学創造理工学部教授)などが発表した論文「コールセンターにおける中程度の高温環境が作業効率に与える影響の評価-2004年と2012年の比較-(空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集{2014.9.3~5 秋田}29-32)」によると、空気温度が26.5℃を超えると生産性が大きく低下するという結果も実証されています。こうしてみると、オフィスでの快適な環境を用意することは、会社の業績や仕事の生産性の上昇にもつながるといえます。

そこでこの記事では、オフィスにおける適温や、「暑い派」「寒い派」それぞれへのケア方法など、猛暑の中でも社員が快適に働けるようにするポイントを紹介していきます。

ちょっとした工夫や心掛けで快適さは一気に変わりますので、今一度オフィス環境について振り返り、改善することをご提案します。

2 「快適さ」は多角的に捉えるべし

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1)バトルの原因は「PMV」だった

まずは、快適なオフィス環境を整えるために知っておくと良い知識、「PMV(Predicted Mean Vote)、予測平均温冷感申告」についてご紹介します。

大前提としてオフィスにいる社員たちは、室温だけで「暑さ」「寒さ」を感じているのではありません。体感温度は、室温や湿度、着衣量はもちろん、放射(日当たりや熱からの距離)、気流(直接エアコンの風が当たるかどうか)、活動量(体を動かしているか)などによっても左右されます。

これらの指標を全て合わせて導き出される「PMV」が、快適さを表す国際規格です。

つまり、快適なオフィス環境を整えるためにはエアコンの温度設定だけでなく、「PMV」の多角的な要素を捉える必要があるということです。

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「PMV」では、暑さ・寒さの度合いを-3~+3の値で示します。そしてISO(国際標準化機構)が定めた基準によると、約9割の人にとって「快適」な数値は、上図のように「-0.5~+0.5」と、かなり狭い範囲なのです。

オフィスでは、全員が同じ服で・同じ代謝量で・同じ席で・同じ仕事をしているわけではありません。何か対策をしない限りは、全ての社員のPMV数値が「快適だと感じる範囲」におさまることはおそらくありません。単純なエアコンの温度設定だけで「全員が快適な環境」を整えることは、まず不可能と言ってよいでしょう。

2)段階を踏んでバトルの鎮火を目指そう

では、経営者が社員のためにできることは何でしょうか? 以下に、対・全体→対・「暑い」「寒い」の陣営ごと→対・個人という段階に分けて、ポイントを紹介します。

  • 【対・全体】まずは部屋全体で「室温」や「湿度」という最低限の環境を整える
  • 【対・陣営ごと】次に社員の「暑い」「寒い」という体感に合わせて席の移動を許可することで、「気流」「放射」を調整する
  • 【対・個人】最後に個人の「着衣量」に柔軟に対応することで、「活動量」や個人の代謝の差に対して微調整をかける

この3段階でオフィス環境を調整することをお勧めします。以降では、各要素をコントロールする方法を解説していきます。

3 推奨室温は28℃! でも……

1)まずは部屋全体。エアコンでできる最低限の対策を

一番に整えておかなければいけないのが、対・全体の環境。PMVの中で、確実に操作できる「温度」と「湿度」がこれに当てはまります。

オフィスの衛生管理に関する法令「事務所衛生基準規則」では、室内にエアコンなどの空調設備がある場合「室の気温が18℃以上28℃以下、相対湿度が40%以上70%以下になるよう努めなければならない」と定められています。これが、最低限用意しなくてはいけないオフィスの環境です。

留意しておきたい点は、これはエアコンの設定温度の話ではなく、オフィスの「室温」や「湿度」の基準

だということ。

たとえエアコンの設定温度が28℃でも、実際の体感温度は、湿度やオフィスにいる社員の人数などによっても大きく左右されます。温度計や湿度計を用意し、エアコン設定の調整や除湿機の活用を検討してみるのもよいでしょう。

また、環境省はクールビズ下で28℃の室温を推奨していますが、これはいまから20年近く前に設定された指標です。それを考えると、

室温28℃、湿度70%以下を基準にしつつも、近年記録的な猛暑が確認されていることも鑑みて、柔軟な対応を心がける

ことがお勧めです。

2)「暑い」「寒い」の陣営にはフリーアドレスで「放射」「気流」を味方につける

一旦の目標点としてオフィス全体の温度・湿度を設定できたとしても、「暑い派」vs「寒い派」バトルの根本的な解決には至りません。そこで、

この夏は、フリーアドレスで放射・気流を調整

してみましょう。フリーアドレスとは、「職場で従業員の席を固定せず、空いている席を自由に使う制度」(小学館 デジタル大辞林より引用)のこと。

例えば、「寒い派」陣営が窓の近くのデスクに、「暑い派」陣営が日陰のデスクに移動することで、2つの陣営に「放射」の差をもたらすことができます。紫外線の問題もあるので、基本的には夏場のブラインドは下げておくのがベターですが、直接太陽の光が入らずとも、窓の近くは放射で他の場所より暖かくなります。

また、「暑い派」陣営はエアコンの風が当たる場所に、「寒い派」陣営はエアコンの風が当たらない場所に移動することで、「気流」の数値も調節することが可能です。気流などは普段なかなか気にすることはないですが、改めて天井を見上げ、エアコンの位置や風がよく当たる席を確認してみるのもよいでしょう。

業務上の都合でフリーアドレスを取り入れることができない場合は、エアコンにアクリル板を取り付けて「寒い派」の社員に直接風が当たらないようにするなどの対策もできます。

3)最後は「着衣量」で個々へのケアも忘れずに

単なる「暑い派」vs「寒い派」の戦いで終わってくれないのが、夏場のエアコン調節問題の怖いところです。「暑い」「寒い」陣営のみに着目し、個々へのケアを怠ってしまうと、暑い派陣営の中でも一番の暑がりは熱中症に、寒い派陣営の中でも一番の寒がりは”冷房病(クーラー病、体が急激な温度差についていけず、自律神経に異常をきたす症状)”に……と、体調不良につながる恐れもあると言われています。

また、個人が「暑い」か「寒い」かは、そもそもその時にどれだけ体を動かしているかという「活動量」の違いや、PMVを構成する要素以外でも、外的調整ができない代謝の影響が大きいことも覚えておきたいポイント。

それをカバーするために活躍するのが、「着衣量」で個々のPMVを調整する

という方法です。

身近なものでは、ネクタイを外すと体感温度が2℃下がる「クールビズ」が分かりやすい例ですね。

「全員が快適」をかなえることが難しくても、個人個人ができる限り快適さと健康をかなえられるよう、ネッククーラーを許可する・ブランケットを羽織るのを許可するなど、柔軟な対応を心掛けましょう。

4 快適なオフィスで猛暑を乗り切ろう

上記のように、フリーアドレスや自由な服装などを取り入れるだけでも、社員が快適に仕事をする環境を整えることが可能です。オフィスで働く社員の健康を保つためにも、また気温差による生産性の低下を防ぐためにも、今夏は快適な環境維持に努め、猛暑を乗り切りましょう!

以上(2024年7月作成)

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画像:illustAC

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